第17話 ポローニアへの到着
盗賊を捕縛してから数時間後。 盗賊たちを連れているせいで馬車の歩みは遅く、『ポローニア』の城壁が見えてくるころには日はすっかり暮れていた。
馬車の後ろには、十五人の盗賊たちが太いロープで数珠繋ぎにされて、とぼとぼと歩かされている。彼らの両目は泣きはらしたように真っ赤に腫れ上がり、完全に意気消沈してうつむいていた。
「よし、ようやく着いたな」
御者台から海を眺め、俺は大きく伸びをした。 南の海に面したこの街は比較的温暖ではあるが、冬の海風は少し肌寒く感じる。
俺たちがポローニアの門に到着すると、警備に当たっていた衛兵たちが、馬車の後ろに繋がれた男たちの列を見てギョッと目を見開いた。
「たったこれだけの人数で、十五人も捕縛したのか? しかも、あんたたち誰も怪我をしてないじゃないか……」
衛兵は信じられないものを見るように、俺たちと盗賊を交互に見比べた。 十五人の男たちを、七人で――しかも無傷で捕まえるなど、普通に考えればあり得ない話だ。
「あ、いや。ちょっとした『手違い』で、向こうが戦えない状態になったんで……」
「手違い? いや、謙遜しなくていい。相当腕が立つ護衛がついているんだろうな。この連中の引き渡しは、こちらで引き受けよう。詰め所までついてきてくれ」
「助かります」
少し勘違いされてしまっているようだが、盗賊の引き渡しが無事終わりそうなことに俺はホッと胸を撫で下ろした。
* * *
ポローニアの衛兵詰め所。
真っ赤に腫れた目をこすりながら、大人しく牢屋に入れられていく盗賊たちを見送った後、俺たちは詰め所の応接室で簡単な調書を取られていた。
「よし、これで引き渡しの手続きは完了だ。ご苦労だったな」
恰幅の良い衛兵隊長が、ずっしりとした革袋と一枚の羊皮紙を俺に差し出した。
「これがこの街からの討伐報酬、銀貨三十枚だ。それと、ゼオニカで特別報奨金を受け取るための『討伐証明書』も出しておいたぞ。一人だけ加護持ちも混ざっていたから、その事も記載しておいたぞ」
「加護持ちがいたんですか?」
テオが驚いて尋ねると、隊長は苦笑しながら頷いた。
「ああ、【夜目の加護】という暗闇でも昼のように目が見える加護らしい。」
(唐辛子の粉塵の中じゃ夜目もへったくれもないからな……)
俺は心の中で納得しながら、「ありがとうございます」とありがたく報酬と証明書を受け取り、懐にしまった。
ペトロス家との契約では、各街で出る討伐報酬と合わせて、盗賊一人につき『合計で銀貨五枚』になるよう差額が保証されている。今回もらったポローニアからの報酬に加え、ゼオニカに戻れば差額の銀貨四十五枚と、加護持ち一人分の金貨一枚が追加で支払われる。これだけでちょっとした行商の利益をはるかに上回ってしまうのだから、傭兵の副業というのも案外悪くない。
「明日からの商売、頑張ってくれよ」
隊長に見送られ、俺たちは詰め所を後にした。
「よし! これで今日の仕事は終わりだ! 宿を探して美味い飯でも食おうぜ!」
俺が明るく声をかけると、トビーやミアが「わああっ!」と嬉しそうに歓声を上げた。
長旅の疲れに加え、野盗の襲撃というトラブルもあったのだ。今日はゆっくり休んで、明日の商売に備えたい。
活気あふれるポローニアの市場を通り抜けながら、俺はテオと明日の算段を立てていた。
「明日は持ってきた香辛料や日用品を売って、ポローニアの特産のリネンや海産物を買い付けよう。帰りは内陸の村を回るルートにすればよく売れるだろう。」
「そうだな。もうすぐ年末の祭りもあるようだし、数日は滞在して、祭りの活気で一気に売り捌くのがよさそうだ」
「ああ、そうしよう。……ん? どうしたハンス」
ふと見ると、俺たちの後ろを歩くハンスが、ひどく落ち込んだ様子でうつむいていた。
ハンスが、申し訳なさそうにポツリと口を開いた。
「俺……今日の襲撃の時、怖くて何もできなかったです……足手まといですよね……」
どうやら彼は、自分が戦闘で役に立たなかったことを気に病んでいるらしい。
俺は少し驚いた後、苦笑してハンスの肩をポンと叩いた。
「バカ言え。お前は立派に役に立ってるだろ」
「えっ……?」
「お前の仕事は戦うことじゃない。荷馬車が増えた今、お前の【剛力】がなきゃうちの商売は回らないんだぞ」
俺の言葉に、ハンスはハッと顔を上げた。
「俺たちは『商人』だ。全員が剣を振り回す必要なんてない。お前はお前の得意なことで、この隊商を支えてくれればそれでいいんだよ」
「サイラスさん……」
ハンスの目が、少しだけ潤んだように見えた。
「俺……俺、ずっと加護の力に甘えてました。だから、【剛力】を持っているのに、人より少し強い程度の力しか出せなかったんです……」
ハンスは両拳をギュッと握りしめ、顔を上げた。その目には、先ほどまでの怯えは消え、ギラギラとした異様なまでの決意が宿っていた。
「俺、もっと鍛えます。戦えなくても、誰よりも重い荷物を運んで……加護の力だけじゃなく、俺自身の筋肉を鍛え上げて、絶対にもっと役に立つ男になってみせますから!」
「ああ、期待してるよ。さ、まずは腹ごしらえだ。魚介スープの美味い店を探そうぜ」
俺たちは笑い合いながら、夕焼けに染まるポローニアの港町へと足を踏み入れていった。
明日はポローニアでの大商いだ。俺たちの初めての行商は、幸先の良いスタートを切ろうとしていた。




