第12話 拠点探し
吐く息が白く色づく冬の初め。
ペトロス家との専属契約を結んだ俺たちは、全員が住める拠点の確保に動いていた。
「ここですね。お客様の条件にぴったりなオススメの物件です」
恰幅の良い不動産ギルドの案内人が、大通りの裏手にある屋敷の鍵を開けた。
そこは破産した商会が使っていた物件が差し押さえられ、格安で賃貸に出されている物件らしい。一階は馬車三台が停められる倉庫、二階は大人数が寝泊まりできる居住エリアになっていた。
「すげえ広さだな。ここなら商品の保管もバッチリだ。賃料もそれほど高くないから、仕入れに資金を回せる」
俺は中を見渡しながら満足して頷いた。
「ええ、家賃は月に金貨一枚と格安です。いかがでしょうか?」
「最高だな。よし、ここに決めた」
俺が契約書にサインしようとした、その時だった。
「あの、すみません。少しだけ中に入らせてもらってもよろしいでしょうか?」
玄関口から、遠慮がちな声が響いた。
振り返ると、二十代半ばの痩せ型で、仕立ては良いがヨレた服を着た男が立っていた。真面目そうな雰囲気を漂わせている。
男は俺たちを見て、深々と頭を下げた。
「私はマルコと申します。先日までここを使っていた商会の事務員なのですが……置き忘れた私物を取りに来たのです」
「ああ、破産したっていう商会の? まあ、私物を取りに来ただけなら構わないが」
俺が頷くと、マルコは「ありがとうございます」と頭を下げた。
マルコが倉庫の奥へと向かおうとした背後で、案内人が咳払いをした。
「ではお客様、こちらの契約書にサインを。ああ、それから十六人分の居住登録や入居手続き等の代行費用として、別途金貨一枚をいただきます」
「金貨一枚か。手続き代行とはいえ、少し高くないか?」
「ええ、大都市の手続きは複雑ですから。ご自分たちでやれば何日もかかりますよ。プロにお任せいただくのが一番です」
少し高いが、時間の無駄は避けたい。俺が渋々妥協してペンを取ろうとした瞬間、ピタッとマルコの足が止まった。
「……手続き代行に、金貨一枚?」
マルコは眉をひそめ、案内人を真っ直ぐに見据えた。
「おかしいですね。その手続きなら、相場はせいぜい銀貨七枚です。金貨一枚は、いくらなんでも法外すぎます」
「なっ……! ぶ、部外者が商談に口を挟まないでいただきたい!」
案内人が慌てたように声を荒げるが、マルコは冷静に俺へと向き直る。
「あの……サインをする前に、一度不動産ギルドの本部に適正価格を確認した方がいいと思います。」
「そ、それは……っ! わ、わかりました。では手続きの代行を銀貨七枚で依頼するか、お客様ご自身で手続きをされるか、どちらになさいますか!?」
案内人が引きつった笑顔で迫ってくる。
自分でやると言いたいが、俺たちはこの街での手続きなんてサッパリだ。
俺が返答に困っていると、横からマルコが控えめに手を挙げた。
「あの……もしよろしければ、今回の手続き、私が『銀貨五枚』でお引き受けしましょうか? この街での手続きには慣れていますし、今は無職なので、すぐに対応できますよ」
「えっ、いいのか!?」
「はい。路頭に迷っていたところですし、日銭が稼げるのは私としてもありがたいですから」
「助かる! じゃあ、手続きはマルコさんに頼むよ!」
俺が即決すると、案内人は忌々しげに舌打ちをし、契約書から代行費用を削り落とした。
契約を無事に終えて案内人が帰っていくと、ゼインが呆れたようにため息をつく。
「おいおい、あぶなくぼったくられるところだったぞ」
「本当に助かったよ、マルコさん。……」
「こちらこそ路頭に迷っていたところなので助かりました。。では、さっそく必要な書類を揃えて、役所を回ってきますね。明日中にはすべて完了させてみせます」
マルコはそう言って深々と頭を下げ、足早に屋敷を出ていった。
その背中を見送りながら、俺は大きく伸びをした。
「ともあれ、これで拠点の問題は解決だな。早くミアたちに、これから住むこの広い屋敷を見せてやろうぜ」
「ああ。子供たちもきっと喜ぶだろうな」
テオが微笑みながら頷く。
無事にゼオニカでの拠点を確保した俺たちは、いよいよ始まる「武装商人」としての新たな商売に思いを馳せながら、待たせている仲間たちの元へと歩き出した。




