第11話 第一章エピローグ
ゼオニカの大通りにある、一際大きくて賑やかな大衆食堂。
テーブルには、分厚い肉や新鮮な魚介のスープ、山盛りのパンが次々と運ばれてきていた。
「さあ、遠慮せずに好きなだけ食ってくれ。今日の仕入れの手伝いのお礼だ」
俺が半ばやけっぱち気味にジョッキを掲げると、ミアたちが「わぁぁっ!」と歓声を上げ、目を輝かせてご馳走に飛びついた。
彼らが腹いっぱい料理を頬張る姿を見ながら、俺は席の端で深いため息を吐き出した。
「まさか、こんなことになるとはな……」
「そう言うな。いいところを見せようとしたお前の自業自得だろ、団長」
隣に座ったゼインがニヤニヤしながら、手元のエールをあおる。
ペトロス家の令嬢、コレイン様から言い渡された『専属傭兵』の話。
断り切れずに引き受けてしまった俺たちの手元には、今、一枚の立派な羊皮紙の契約書がある。
「『盗賊一人につき銀貨五枚、手配犯や加護持ちなら金貨一枚上乗せ』……それに、『ゼオニカでの関税を五割免除する』か。本当に破格の好条件だな」
テオがテーブルに広げた契約書を指差した。
「『一つの街を巡回するごとに必ずゼオニカへ報告に戻ること』という条件は面倒だが、それを差し引いても、これまでよりずっと利益が大きくなるだろうな」
俺が商人としての計算を口にすると、ゼインは頼もしげに笑い、テオは満足そうに手元の重い革袋をポンと叩いた。
今日の『鉄牙の盗賊団』の討伐報酬に、あのネックレスの謝礼を合わせ、俺たちの手元には金貨百枚という大金がある。平民なら十年以上は遊んで暮らせる額だ。
「この資金と関税半額の特権があれば、あいつらを養いながら隊商を拡大するのも難しくない。それに、あいつらの中には商売に役立つ加護持ちが四人もいるんだぞ」
テオが革袋から視線を上げて言った。
「なるほど……人数が増えても前より安全に効率よく稼げるってことか」
ゼインも腕を組みながら、納得したように頷く。
確かに、これまでは三人だけで細々とやってきたが、人手が増えれば一度の取引で得られる利益は跳ね上がる。彼らを食わせていくだけの稼ぎは十分に生み出せるはずだ。
「よし、決まりだ。ミアたちにはこれから、俺たちの隊商の専属として働いてもらおう」
俺が頷くと、テオが顎に手を当てて思考を巡らせた。
「とはいえ、十六人全員で行商に出るわけにはいかないぞ。馬車三台じゃ乗り切れないし、何より小さな子供たちまで乗せたら、商品を積むスペースを圧迫してしまう」
「それに、戦えない子供たちを連れ回すのは現実的じゃないしな」
ゼインの言葉に、俺も深く頷いた。
「となると、俺たちと一緒に移動する『行商組』と、ゼオニカの街に残る『留守番組』に分ける必要があるな。」
「問題は『場所』だな」
ゼインが腕を組んで指摘した。
「俺たちだけなら適当な宿屋で十分だったが、これだけの人数が生活できる『拠点』が必要になるぞ」
「ああ、資金には余裕がある。明日はまず、ゼオニカで拠点にできそうな物件を探そう」
俺がそう宣言すると、食事の手を止めたミアや子供たちがパァッと顔を輝かせた。
「拠点……私たちのお家ができるんですね!」
「やったー! 団長、ありがとうございます!」
子供たちが嬉しそうに俺に抱きついてくるのを見て、テオとゼインもひとまず安心したように息をついた。
「……あーあ、どうしてこうなったんだかな」
俺は天井を仰ぎ、ポツリとこぼした。
「平穏に細々と生きていくはずが、大所帯の隊商を率いて、おまけに貴族専属の傭兵団長だなんて」
「何を言ってるんだ。これもお前の『幸運』が導いた結果だろ?」
テオが笑いながら俺の肩を叩く。
「それに、あの金髪の騎士様に気に入られるためだったんだろ? 団長殿」
ゼインにからかわれ、俺は「うるさい!」と照れ隠しにジョッキを煽った。
「サイラス団長! このお肉、すごく美味しいです! ありがとうございます!」
ミアが口の周りにソースをつけながら、満面の笑みでこちらに向かって手を振っている。
……まあ、悪くない。
これまでより大変ではあるが、この笑顔を守りながら、商売を少し広げつつ、なるべく平穏に過ごせるように頑張るとしよう。
俺の意志とは無関係に発動する【幸運の加護】。
それが次にどんな騒動を引き起こすのかはわからないが――『武装商人』としての新たな旅がここから始まるのでであった。
1章の完結まで読んでいただきありがとうございます。
2章もプロットは完成しており、何話かストックもあるので毎日投稿できる予定です。
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明日は時間をずらして少し短めの話を2話投稿予定です!




