第2話 【秋】黄金色の坂道、重なる影
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アラームが鳴る少し前。僕は、シーツのさらりとした冷たさに心地よさを感じながら目を覚ました。
夏のあの日、肌にまとわりついていた湿気はどこかへ消え、窓の外からは涼やかな虫の音が、遠くで途切れ途切れに聞こえてくる。
薄手のパーカーを羽織り、僕はいつものように外へ出た。
玄関を開けると、町はしっとりとした金色の気配に包まれていた。
街灯の下、ひらりと舞い落ちた銀杏の葉が、アスファルトの上で小さな灯火のように散らばっている。坂道を登る足取りは、夏よりもずっと軽い。けれど、吸い込む空気が少しずつ乾燥していくにつれ、胸の
奥に小さな空白が広がるような、そんな名前のない寂しさが入り込んできた。
「……少し、冷えてきたな」
坂の途中で足を止めると、金木犀の甘く、どこか切ない香りが風に乗って運ばれてきた。
見晴らし台に辿り着いたとき、目の前に広がる富士山は、夏の黒い肌を少しずつ隠し、山頂に薄く、砂糖菓子のような初冠雪を纏っていた。
静寂を彩るのは、カサリ、と乾いた音を立てて転がる落ち葉の音。
どこかの家から漂う、秋刀魚を焼く香ばしい匂いや、焚き火の煙の匂い。
世界はゆっくりと、けれど確実に、冬に向かって色を深めていた。
いつものように神社へ向かい、橋を渡りきったときだった。
境内の大きな銀杏の木の下に、誰かの姿があった。
その人は、僕と同じように静かに手を合わせ、賽銭箱に硬貨を落としていた。
チリン、と高い音が響く。
ふと目が合うと、僕は心臓が跳ねるのを感じた。
(……同じクラスの、佐々木さんだ)
学校ではいつも窓際で本を読んでいて、誰とも群れない、静かな雰囲気の女子。
朝の柔らかな光の中で、銀杏の葉が舞い落ちる境内に立つ彼女は、学校で見かけるよりもずっと、この景色に溶け込んでいるように見えた。
彼女は僕に気づくと、少しだけ驚いたように眉を下げ、それから小さく会釈をした。
言葉を交わしたわけではない。けれど、独りきりだと思っていたこの早朝の景色の中に、自分と同じリズムで呼吸をしている誰かがいる。その事実に、僕の心に灯った寂しさは、不思議と柔らかな熱へと変わっていった。
自販機で、今日は冷たいスポーツドリンクではなく、温かいほうじ茶を買った。
150円だそうだ。
(今時、この値段で買えるのは安いほうだな)
お金をいれ、ボタンを押す。
ガタン。
そう音を立ててでてきた温かいほうじ茶を取り出した。
残金5円。ポケットに残った5円玉の感触を確かめながら、僕はゆっくりと坂を下り始める。
背後で、またカサリと落ち葉が鳴った。
振り返らなくてもわかる。そこには、僕と同じ歩幅で歩き始めた、彼女の影が重なっていた。
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