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終章 いつかの春に、また①

辺りはざわざわと騒がしかった。空は暗いのに、目の前には明かりがいくつも灯っている。暑さのせいだろうか、こめかみから汗が流れた。

「ほら、ぼーっとしてないで、早く行くよ」

 声が聞こえてきた。声の方向を振り向くと、美紀がいた。まるで、小学生みたいに顔立ちが幼く、背も低い。ポニーテールのお下げも、可愛らしくぷらぷらと揺れている。

「美紀?」

「ぼーっとしてないで、早くリンゴ飴買いに行こうよ。私、お面なんかいらないもん」

 顔を上げる。提灯の灯りに照らされて、屋台にはいくつものお面が光っていた。

「ほら、行くよ!」

「あ、ちょっと」

 美紀が体を翻して歩き出すと、それに引っ張られるように僕の体は美紀のあとを追っていく。

 美紀と、手を繋いでいた。美紀は、僕を引っ張ってずんずん歩いていく。通りには、たくさんの屋台が並んでいた。太鼓の音や笛の音も聞こえる。

 ああ、ここは、近所の公園だ。夏祭りだ。そうだった。美紀は、まだ小学生のころは僕と平気で手を繋いで、いや、手を繋ぐときは、いつも何だか怒っていたっけ。

 僕がタイムループしてきたのは、小学生のころの僕だった。

 じゃあ、美紀は――?

「ねえ、美紀」

「何よ」

「僕たち、高校生になっても、こうやっていっしょに手を繋いで、夏祭りに行ったりしてるのかな」

 美紀が立ち止まる。周りの大人たちが影を落としながら僕たちの横を歩いていく。美紀は僕を振り向かずに、言った。

「それは、無理よ。だって、誠太は、高校生になったら好きな人ができるんだから」

「……僕に好きな人ができるって、決まってるの?」

「決まってる。誠太は、その子のことを、ものすごく好きになるの。どんなことを犠牲にしてでも、その子を守ろうとするの」

 ぎゅっと、僕の手を握る美紀の手に力が入る。

「だから、私は、今こうして、誠太の手を繋いでいるの。誠太の手を繋げるうちに、たくさん手を繋ぐんだ。きっと、高校生になったら、恥ずかしくなって、怖くなって、手を繋げなくなる。……誠太に好きな人が現れる前に、たくさん誠太といっしょにいるんだ。たくさん誠太の手を、繋ぐんだ」

「……美紀は、いつタイムループしてきたの?」

「去年の、八月」

「そっか。ねえ、美紀。僕が好きになる人の名前、ながいはるかって言うんだ。永遠に咲き散る遥かなる花ってって書いて、永井遥花」

「……それじゃあ、永井の『井』が抜けてるじゃない」

「あ、そうだった」

「もう、本当に、誠太はバカなんだから」

 美紀は最後に僕を振り返って笑った。幼い顔が、揺れる。

 桜から、今はまだ遠い。けど、またいつか会える。春に、また会える。


 そして、数年後の四月――。あの春が、再びやってくる。

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