表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
59/69

第六章 また、いつかの春に②

四月に入り、桜は徐々に散り始めていた。地面にも、桜の花びらが広がって、まるで桜の絨毯みたいに美しかった。

春休みが終わる二日前。今日は、僕の誕生日だった。

 部室でみんなが集まっているときに、永井は立ち上がって「部長の私から、大切なお話があります!」と指先を天井に向けた。

「今日は、私たち文芸部の一員、遠野誠太くんの十七歳の誕生日です!」

「誠太ちゃん、おめでとー。ひゅうひゅうー」

 亮祐が両手をメガホンにしてはやし立ててくる。僕は立ち上がって、胸を張った。

「永遠の十七歳。遠野誠太です! ありがとう!」

「きゃー! 誠太ちゃーん! こっち向いてー!」

「はいはい。亮ちゃんが話し始めると収拾つかなくなるから、黙ってなさい。誠太も、何くだらないことしてるの」

 美紀が亮祐をたしなめ、苦笑いを浮かべた。

「いやあ、つい、ノリで」

「そんなことしなくてもいいから。はい、誠太。誕生日おめでとう。これ、私からのプレゼント」

 美紀は、僕にハンバーガーの紙袋を渡してきた。

「あ、ありがとう。え、これって、もしかして、ハンバーガー?」

「ち、違うに決まってるでしょ! 他に入れ物がなかったから、しょうがなかったの。いちいち突っ込まないでよ」

「ごめん、ごめん。中、見てもいいかな?」

「好きにすれば」

「じゃあ、開けてみるね。何が入ってるんだろう」

 わくわくした気持ちで紙袋を開けると、中には可愛くラッピングされた袋が入っていた。それを取り出すと、ラッピングされた袋の中には、クッキーが入っていた。

「美紀、これって……」

「手作りよ。何か文句でもあるの?」

「いや、ないけど、っていうか、何でいばってるの? ……でも、ありがとう。何か、食べるのがもったいないくらいだよ」

「もったいないとか言わないで、ちゃんと食べなさいよ。卵作ってる農家さんに申し訳ないじゃない」

「あはは、そうだね。美味しく食べさせてもらうよ」

 僕はクッキーをハンバーガーの袋の中に戻して、美紀に笑いかける。美紀は照れたようにそっぽを向いてしまったのだけど。

「じゃあ、次、俺から。はい、誠太ちゃん」

 そう言って亮祐が僕に渡してきたのは、今回もやっぱりカエルのぬいぐるみだった。

「亮祐、カエル好きだよな」

「いやあ、可愛かったから、つい。誠太ちゃんにも似合うかなあって思って」

「思ってねえだろ」

「ごめんなさい」

「まあ、いいよ。ありがとう。ベッドのそばに置いておくよ」

「さすが、誠太ちゃん、優しい!」

 亮祐は僕に親指を立ててくる。僕は、やれやれ、亮祐は変わらないなあとため息を吐きながら、カエルのぬいぐるみをリュックの中にしまった。

 続いて、永井が背中にプレゼントを隠しながら、僕の前に立った。

「じゃあ、最後は、私から。はい、誠太くん。誕生日おめでとう」

 永井が、僕に手渡したのは、小さな紙袋だった。受け取ると、中でちゃりん、という金属が鳴る音が聞こえた。

 これは――。

「ありがとう。開けてもいい?」

「もちろん!」

 紙袋に留められていたセロテープをはがして、袋の口を開けた。中に見えていたのは、ピンク色の、いや、桜色をした金属の花びらだった。

 桜のストラップ――だった。次の春もまたいっしょに桜を見られますように――あの春の永井の言葉が、胸に切ないくらい染みた。

「永井……」

 永井が頷きながら微笑む。亮祐が「ひゅうひゅうー」とはやし立ててくる。美紀は、笑って僕と永井を見てくれている。

「永井、ありがとう。ケータイにつけて、いつでも肌身離さず持ってるよ」

「うん!」

 僕は、桜のストラップを顔の前に掲げて、じっと見つめた。これは、僕のお守りになる。永井のそばにいられますように、という祈りをこめた、お守り。

 桜は、今年もまた咲いた。去年咲いたように、今年も咲いて、今年咲いたように、来年もまた咲くのだろう。

 永遠に咲き続ける桜。けれど、一瞬しか咲くことのできない桜。だからこそ、桜は美しいのだと、僕は思う。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ