第六章 また、いつかの春に②
四月に入り、桜は徐々に散り始めていた。地面にも、桜の花びらが広がって、まるで桜の絨毯みたいに美しかった。
春休みが終わる二日前。今日は、僕の誕生日だった。
部室でみんなが集まっているときに、永井は立ち上がって「部長の私から、大切なお話があります!」と指先を天井に向けた。
「今日は、私たち文芸部の一員、遠野誠太くんの十七歳の誕生日です!」
「誠太ちゃん、おめでとー。ひゅうひゅうー」
亮祐が両手をメガホンにしてはやし立ててくる。僕は立ち上がって、胸を張った。
「永遠の十七歳。遠野誠太です! ありがとう!」
「きゃー! 誠太ちゃーん! こっち向いてー!」
「はいはい。亮ちゃんが話し始めると収拾つかなくなるから、黙ってなさい。誠太も、何くだらないことしてるの」
美紀が亮祐をたしなめ、苦笑いを浮かべた。
「いやあ、つい、ノリで」
「そんなことしなくてもいいから。はい、誠太。誕生日おめでとう。これ、私からのプレゼント」
美紀は、僕にハンバーガーの紙袋を渡してきた。
「あ、ありがとう。え、これって、もしかして、ハンバーガー?」
「ち、違うに決まってるでしょ! 他に入れ物がなかったから、しょうがなかったの。いちいち突っ込まないでよ」
「ごめん、ごめん。中、見てもいいかな?」
「好きにすれば」
「じゃあ、開けてみるね。何が入ってるんだろう」
わくわくした気持ちで紙袋を開けると、中には可愛くラッピングされた袋が入っていた。それを取り出すと、ラッピングされた袋の中には、クッキーが入っていた。
「美紀、これって……」
「手作りよ。何か文句でもあるの?」
「いや、ないけど、っていうか、何でいばってるの? ……でも、ありがとう。何か、食べるのがもったいないくらいだよ」
「もったいないとか言わないで、ちゃんと食べなさいよ。卵作ってる農家さんに申し訳ないじゃない」
「あはは、そうだね。美味しく食べさせてもらうよ」
僕はクッキーをハンバーガーの袋の中に戻して、美紀に笑いかける。美紀は照れたようにそっぽを向いてしまったのだけど。
「じゃあ、次、俺から。はい、誠太ちゃん」
そう言って亮祐が僕に渡してきたのは、今回もやっぱりカエルのぬいぐるみだった。
「亮祐、カエル好きだよな」
「いやあ、可愛かったから、つい。誠太ちゃんにも似合うかなあって思って」
「思ってねえだろ」
「ごめんなさい」
「まあ、いいよ。ありがとう。ベッドのそばに置いておくよ」
「さすが、誠太ちゃん、優しい!」
亮祐は僕に親指を立ててくる。僕は、やれやれ、亮祐は変わらないなあとため息を吐きながら、カエルのぬいぐるみをリュックの中にしまった。
続いて、永井が背中にプレゼントを隠しながら、僕の前に立った。
「じゃあ、最後は、私から。はい、誠太くん。誕生日おめでとう」
永井が、僕に手渡したのは、小さな紙袋だった。受け取ると、中でちゃりん、という金属が鳴る音が聞こえた。
これは――。
「ありがとう。開けてもいい?」
「もちろん!」
紙袋に留められていたセロテープをはがして、袋の口を開けた。中に見えていたのは、ピンク色の、いや、桜色をした金属の花びらだった。
桜のストラップ――だった。次の春もまたいっしょに桜を見られますように――あの春の永井の言葉が、胸に切ないくらい染みた。
「永井……」
永井が頷きながら微笑む。亮祐が「ひゅうひゅうー」とはやし立ててくる。美紀は、笑って僕と永井を見てくれている。
「永井、ありがとう。ケータイにつけて、いつでも肌身離さず持ってるよ」
「うん!」
僕は、桜のストラップを顔の前に掲げて、じっと見つめた。これは、僕のお守りになる。永井のそばにいられますように、という祈りをこめた、お守り。
桜は、今年もまた咲いた。去年咲いたように、今年も咲いて、今年咲いたように、来年もまた咲くのだろう。
永遠に咲き続ける桜。けれど、一瞬しか咲くことのできない桜。だからこそ、桜は美しいのだと、僕は思う。




