第六章 また、いつかの春に①
桜の木が、グラウンド一面を、春色に染めていた。
指先を窓の上に置いて、グラウンドを見つめる。ガラスに添わせた指が、窓に映る桜に寄り添うように見えて、僕の頬もいっぱいの桜色に染まっていくような感じがした。
からからと窓を開ける。春の暖かい風が、僕の胸にすうっと染み込んでいく。
「誠太くん」
戸口の方から永井の声が聞こえてきた。振り返ると、永井は、半分だけドアを開けて教室を覗いていた。僕と目が合うと、ぽっと頬を桜色に染める。
「永井、おはよう」
永井は、眉毛を恥ずかしそうに下げて、「えへへ。もうお昼すぎだけどね」と笑いながら教室の中に入ってくる。
「ごめんね、わざわざ呼び出して」
「ううん、大丈夫。春休みだからね、外に出ないと、私、一日中引きこもって本ばかり読んじゃうから」
「そっか、永井らしいね」
「あはは。それだと、褒め言葉なのかどうか分からないね」
永井は、首を傾けてにこりと微笑む。こめかみのあたりで前髪を横流しに留めた桜色のヘアピンが、春の日差しにきらりと光った。
「褒め言葉、だよ」
「えへへ。ありがとう。……今日も、暖かいね」
「春だから、ね」
「誠太くんは、春って好き?」
「うん」
「私も」
「永井」
「うん?」
「話したいことが、あるんだ」
僕は永井の目を見つめて、はっきりと言った。
「……はい」
「僕は、永井のことが好きです。ずっと、好きでした。だから、僕は永井のそばにいたい。そばにいて、永井の笑顔を見ていたい。……だから、僕と付き合ってください!」
「ありがとう」
永井の瞳は、何度でも巡る春を映して、揺れながら滲んでいた。
「私も、誠太くんのこと、好きだったよ。ずっと、ずっと好きだったよ」
永井の瞳から、ぽろりと涙が転がって、そっと足元に落ちた。永井は泣きながら嬉しそうに笑っていた。
だから、僕の瞳もじんわりと温かくなって、永井を愛おしく思って、永井の涙を指先でそっと拭った。永井の涙も、やっぱり温かだった。
「永井」
「誠太くん」
僕も永井もその一言を発したきり、黙り込んだ。嬉しくて、恥ずかしくて――だから、僕は胸いっぱいの幸せを感じて、言葉なんていらないんじゃないかと思った。
きっと、永井も同じように思っているのだと思う。沈黙が、静かに喜びを伝えてくれる。そんな幸せの形があってもいい。だから、僕は思うのだ。永遠のように感じられるこの一瞬を、大切に抱きしめていたいと。




