第五章 真相吐露①
次の日の朝、美幸さんは亡くなった。死因はタイムループ前と同じ、心筋梗塞だった。
マラソン大会に出たわけではない。土曜日まで元気だったのだ。買い物先でお昼ご飯を食べて家に帰ってきた僕たちを、美幸さんは笑顔で出迎えてくれていたのだ。
でも、日曜日の朝、美紀が目を覚ましたときには、美幸さんはすでに帰らぬ人となっていた。睡眠中の急性心不全だった。
日曜日の朝、七時ごろ。僕の家のインターホンが鳴った。何度も何度も鳴った。ピンポンピンポンピンポンピンポン……と繰り返した。
まだベッドで眠りについていた僕は、いらっとして玄関を乱暴に開けた。そしたら、焦燥しきった顔の美紀が、目の前に立っていた。瞳孔は開き、顔は生気をなくしたように真っ青で、体は痙攣するように小刻みに震えていた。ただ事ではない、何かがあった。そう思ったそのとき、美紀は口を開いた。
「お母さんが、起きないの……。呼んでも呼んでも目を覚まさないの……」
僕は急いで美紀の家へ駆け込んだ。そして、一階にある美幸さんの寝室に飛び込んだ。美幸さんは、眠っているように見えた。静かに、目を閉じて、今にも起きてきそうなほど安らかな寝顔だった。
でも、僕が「美幸さん、美幸さん」と声をかけても、美幸さんは微動だにしない。体を揺すっても、目を閉じたまま何も動かない。
僕はベッドのそばに膝を立てて、美幸さんの手をとって握りしめた。美幸さんの指先は、死後硬直が始まっているのか、すでに冷たく、固くなっていた。
「誠太、誠太……」
美紀が、僕のスウェットの背中をつかんで、うめくように声をもらした。僕は美幸さんから手を離し、振り向いて美紀の手を取った。ぎゅっと握りしめた。美紀の手も、少し冷たかったが、美幸さんのそれと比べると、まだ生としての温かみがあった。
「美紀。すぐに戻ってくるから、少しだけ美幸さんのそばで待っていてくれないか」
僕は美紀を置いて急いで家に戻った。そして、自分の部屋へ向かい、目覚まし時計代わりにベッドに置いてあるケータイを手にとって、救急車を呼んだ。今の美紀に、そういった事務的な手続きを取らせるのは、あまりにも酷だった。
認めるしかないのだ。受け入れるしかない。どんなに辛くても、理不尽でも、目の前にいる美幸さんは……。
もちろん、僕自身も、目の前の光景が信じられなかった。どうして美幸さんが亡くなってしまったのか、美幸さんはマラソン大会には出ていない。美幸さんが亡くなる要素は何一つなかったはずなのに、タイムループ前と変わらず、美幸さんは亡くなってしまった。




