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第四章 告白、告白、告白……⑬

 常盤くんは、眼鏡をはずして目を拭った。そして、振り切ったような顔でまっすぐに僕を見つめる。

「だから、遠野さんにお願いがあるんです」

「うん、なに?」

「私は、永井くんのそばにいることはできません。永井くんは、私を選ばない。だから、遠野さんが、永井くんのそばにいてあげてください。永井くんの幸せは、遠野さんといっしょにいることなんですから」

 常盤くんは、僕に、それを言いたかったのか……。

 常盤くんから目を逸らした。フェンスから外の風景を眺めた。力のない冬の光が、街を照らして、ぼんやりと輝いていた。

「僕といっしょにいることが、どうして永井の幸せになるんだ」

「そんなの、簡単なことです。永井くんは……遠野さんのことが、好きなのですから」

 寒さのあまり全身に力が入ってしまう。かみ締めた奥歯がぎしり、と音をたてる。ぎしり、ぎしり、と音を立てて、その音は、僕の体の中を締めつける。

「永井は、僕のことは好きじゃないと思うよ」

 永井は僕のことを好きじゃないと思う。好きじゃないと願いたい。永井には、もう僕のことなんて嫌いだ、と思っていてほしい。僕のことを嫌いになってほしい。嫌いになっていてくれないと、困る……。

 あんなにも一生懸命、永井のことを突き放してきたのだから。

「いえ、永井くんは、遠野さんのことが好きなんです。私には分かるんです。だって私は、永井くんのことが好きなのですから。永井くんをずっと見てきたのですから。永井くんが誰を想っているのか、嫌でも分かってしまうんですよ。例え、どの世界にいたとしても」

「……何で、そう思うの」

 フェンスを握る手に力が入る。僕は散々永井に冷たく当たってきたのだ。それでもまだ永井は僕のことを好きだというのか?

「永井くんは、いつだって、遠野さんのことを見ています。私と話しているときも、遠野さんが近くに来れば、その視線は自然と遠野さんに向きます。私の方ではなく、遠野さんを見ているんです。花火大会のときだって、永井くんは遠野さんを見ていました。ずっと見ていました。私と話していようが、綺麗な花火が上がろうが、関係なしです。打ちあがる花火をよそに、遠野さんの横顔を、嬉しそうに、ずっと眺めていたんですよ」

 僕はフェンスから手を離し、常盤くんを見つめた。

 常盤くんは、続ける。

「私は、永井くんの笑い声が好きなんです。控えめな声で、少し高い音で、風鈴のように心に響くあの笑顔が、大好きなんです。そして、永井くんを笑顔にできるのは、悔しいですけど、私ではないんです。遠野さん、あなたなんです」

 不意に、亮祐の顔が浮かんできた。花火大会のとき、亮祐も、同じようなことを言っていた。美紀には、好きな人がいるから、美紀に告白するつもりはない、と亮祐は言っていた。美紀を困らせるだけだから、と。

 亮祐も、美紀の幸せを他の誰かに託したのかもしれない。常盤くんが、永井の幸せを僕に託しているように。僕が、永井の幸せを他の誰かに託そうとしているように。

 好きなのに、好きだから……。何と錯綜した矛盾した想いなのだろう。

 でも、不思議なことに、思い浮かべた亮祐の顔も、目の前にある常盤くんの顔も、笑顔だった――寂しいほどに、笑顔だった。

「永井くんに、笑いかけてあげてください。遠野さんの笑顔が、永井くんの何よりの幸せなのだと、私は思っています」

 常盤くんは笑った。それは、本当に永井の幸せを祈っているような、だから、幸せそうな――何度でも、言おう。寂しそうな笑顔だった。

 常盤くんは、永井の笑顔を祈っている。好きな人の笑顔を願うこと、そんな当たり前で大切なことを、常盤くんはどんな思いで僕に訴えているのだろうか。

でも――。

「常盤くんの気持ちは、痛いほど分かったよ。でも、ごめん。常盤くんも分かっていると思うけど、それは、できないんだ」

 僕は拳をぎゅっと握りしめて、唇をかみしめた。

「ダメなんだ……。僕は、永井と付き合っちゃ、いけないんだ」

 かろうじてそれだけ答えると、僕は校舎へと続くドアへ駆け出した。

「遠野さん、待ってください!」

 常盤くんの声が背中に聞こえたが、僕はそれを振り切って、部室へと向かった。教室に戻ると、また常盤くんに何かを言われそうで、僕は逃げるように文芸部の部室に駆け込んだのだった。

 そして、部室で自分の机にうずくまりながら、机を叩いた。自分の心を殴りつけるように、ひとすらに拳を打ちつけた。

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