第四章 告白、告白、告白……⑫
お昼休みに弁当を食べ終えたあと、常盤くんが僕の机に来た。
「遠野さん、お話があるんですが、今、大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど。まさか、またタイムループの話?」
僕は常盤くんの耳に顔をよせて、声を潜めて尋ねた。常盤くんは、静かに首を横に振った。
「いえ、違いますよ。今回は、私の個人的なお悩み、というか、お話です。ちょっと、屋上まで来てくれませんか?」
屋上には、当たり前だが人は誰もいなかった。風を遮る壁がない分、教室にいるときよりもずっと寒い。僕はフェンス際に立ったことを後悔した。吹き付けてくる強風に思わず身震いしてしまう。
「それで、お話って何?」
「私は今日の放課後、永井くんに告白をしようと思っています」
常盤くんは唐突に切り出したが、僕は驚きはしなかった。タイムループ前も、常盤くんが永井に告白をしたのはこの時期だったのだ。そのときは、僕に相談など一度もなかったのだが。
「そっか。常盤くんも、永井のこと好きだったもんね」
常盤くんから背を向けた。屋上のフェンスに手をかけて、ぐっと力をこめた。
「はい。好きです。だから、想いを伝えます」
僕はフェンスに手をかけたまま、顔だけ常盤くんを振り向いた。常盤くんの綺麗な黒髪が風で力強くはためいてた。
「ねえ、常盤くん」
「はい」
「常盤くんも、タイムループしてきたってことは、永井に告白するのって、これが二回目になるっていうことだよね」
「ええ。……初めてでは、ありませんよ」
常盤くんは、眼鏡を持ち上げながら言った。
「ん? 今、何か言いかけなかった?」
「いいえ、何もありませんよ」
「そう、なの?」
「はい。私は、遠野さんの言っている、知っているとおり、前にも永井くんに告白をしています。そして、振られました。今回も、おそらく振られるでしょう。今までがそうであったように、永井くんは『好きな人がいるから……』と言って、礼儀正しく頭を下げると思います」
「常盤くん……」
「言ってみれば、最初から負け戦なんです、この告白は。だって、本当は、分かっているつもりなんですから。永井くんは、私を振り向くことなどない。分かっているんですよ。想いを断ち切られる過去を見てきたのですから。歴然とした事実が突きつけられているのです。でも、それでも、諦めきれないんですよ……。振られると分かっていても、万が一の可能性を信じてしまうんです。それが、いけないことだと分かっているのですが……」
「いけないことなんかじゃ、ないと思うよ……。人を好きになるのに、いけない気持ちなんて、ないよ」
「遠野さん……。ありがとうございます。でも、いけないことなんです。こうやって、いつまでも、『もしも』を繰り返しているから……。本当に、好きな気持ちって厄介なものですよね」
常盤くんの抱えている後悔とは、永井のことなのかもしれない。
将来、常盤くんは、永井とは違う女性と結婚する。そして――家庭が壊れてしまう。もしかしたら、常盤くんが永井と付き合って、そのまま永井と結婚したとしたら、常盤くんの未来も変わるのかもしれない。
僕はふと考えて、そして、常盤くんの抱えている過去に思いを馳せた。
運命は、残酷なんだな、とかみ締めた。
ここで常盤くんが永井に振られるということは、常盤くんの未来は、タイムループ前とは変わらずに、また同じことを繰り返すだけになるのかもしれないのだ。自殺へと繋がる、残酷な道を。




