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第四章 告白、告白、告白……⑪

 次の日の朝、僕は美紀といっしょに学校へ行くべく、美紀の家のインターホンを鳴らした。ほどなくして「はーい」という声とともに玄関のドアが開いて、美幸さんが出てきた。

「あら、おはよう、誠ちゃん」

「おはようございます。美紀はまだですか?」

「美紀ちゃんね、髪型が定まらないとか言って、さっきから鏡の前で格闘してるの。申し訳ないんだけど、もうちょっと待ってね。うふふ」

「はあ、分かりました。何か、最近そういうの多くないですか? ちょっと前までは呼んだらすぐに来たのに」

「まあ、まあ、怒らないの。美紀ちゃんも女の子なんだから」

「いえ、怒ってはいませんけど……。そもそも、ポニーテールなんだから、髪型が決まらないとかないんじゃないですか? 結んで終わり、のはずなんですから」

「うふふ。女の子っていうのはね、少しでも可愛く見られたいものよ。美紀ちゃんみたいな子でもね」

 美幸さんは指を唇にあてて、いたずらっぽく笑った。

「そうかもしれませんけど……。でも、美紀がそういうこと気にするとは思ってもみませんでした」

「あのね、それが、美紀ちゃんったら……」

「ちょっと、お母さん、これ以上喋らないでよ。怒るよ」

 美紀が、美幸さんの言葉を遮って玄関から出てきて、「ほら、誠太、学校行くよ」と足早に歩き出した。

 僕は、美紀の後ろ姿を眺めたが、ポニーテールがいつもとどう違うのか、全く分からなかった。

「ほら、誠太。何してるのよ。寒いんだから早くしてくれない?」

「いや、僕はこの寒いなかずっと外で待たされていたんだけど……。まあ、別にいいけどさ」

 僕はぶつくさと文句を垂れながら、軽く走って美紀に並んだ。

「二人とも、行ってらっしゃい。美紀も、頑張りなさいよ」

「お母さん、うるさい!」

 美紀が美幸さんを振り向いて、かっと一喝するように怒鳴った。美幸さんは、そんな美紀の様子も楽しそうに見つめて「うふふ」と笑っているようだった。

 僕と美紀は、二人で並んで歩き出す。

「そんなに怒らなくてもいいじゃん。美紀、何でそんなに髪型とか気にしてるの? 僕には普段と変わらないようにしか見えないんだけど……」

 美紀は黙ったまま前を向いていた。僕に目を合わせようともしない。

 僕は、ふうっとため息をついて、「ああ、そうか」と思い出した。花火大会のときに、亮祐が言っていた。美紀には好きな人がいるのだ、と。じゃあ、美紀は、その人のために、可愛く見られたいってことなのかな、と考えたら、急に美紀のことが可愛く見えてきた。

「何よ。何でにやにやしてるの」

「別に、何でもないよ。そうだ、美幸さん元気そうだね。よかった」

「うん。まあね」

「美紀も、美幸さんが大事なら、もう少し優しく接してあげればいいのに。あんな態度とらないでさ」

「別に、優しくすることだけが大切にするっていうことなわけじゃないでしょ。大切だから、いつも通りに接するし、いつも通りの私でいたいと思えるのは、その人が大切だからでしょ」

「まあ、うん。そうかな」

「それに、誠太だって、はるちゃんのこと、大切なくせに優しくしてないじゃない」

「ま、まあ、それを言われたら、ちょっと胸が痛いかな……。でもやっぱり、美紀はかっこいいなあ。そんな言葉をさらっと言えちゃうなんて」

「それ、褒めてるの?」

「もちろん」

「あのねえ、女の子にかっこいいって言って、喜ぶと思う?」

「うーん。でも、僕は美紀のこと、かっこいいって思うけどなあ。女の子がどうとかの話はよく分からないけど」

「まったく、誠太は女心が分かってないよね。そんなんでよくはるちゃんと付き合えたよね。っていうか、はるちゃんは、誠太のどこに惚れたんだろう。こんな、女の子の気持ちも理解できないやつのさ」

「美紀、何か、怒ってる?」

「怒ってない」

「ええー。どう見たって怒ってるじゃないか。僕、何かした?」

「知らない。ほっといて」

「ほっといてって……。それ、絶対怒ってるじゃん……」

「それよりも、誠太の昨日の用事って何だったのよ」

「すぐ話そらすんだから」

「早く教えなさいよ」

「えっと、昨日は、時田とご飯食べて、いっしょに勉強してきたの」

「え?」

 美紀はビックリした顔になって、僕を振り向いた。

「それ、本当なの? っていうか、あんた何考えてんの」

「過去を変えるために、必要なことだから」

「どういうこと?」

「最初は、時田がどういう気持ちでいるのか探ってみようかと思ってたんだけど……。考えてみたら、時田と永井が付き合うようになれば、それが一番いいのかなあとか思い始めて。時田はさ、思っていた以上に優しいやつだよ。きっと、永井と結ばれれば、永井のことを大事にしてくれると思うんだ。そもそも、あの事件のときだって、時田には、永井を殺すつもりなんて、なかったんだから。僕を殺そうとして、それで永井が僕をかばって……。だから、僕が永井と付き合わずに、時田が付き合えば、全てはうまくいくんじゃないかなって」

「誠太……。あんた」

「それに、僕も時田と仲良くなっておけば、情がわいて僕を殺そうとも思わなくなるんじゃないかな」

 最後はおどけて笑った。でも、美紀は「そんな顔しないでよ……」と言いたくなるほど苦しそうな表情を浮かべて、僕をにらむように見つめていた。

「誠太は、それでいいの? もし、時田が永井と付き合うようになっても」

「言ったでしょ。何としてでも、絶対に過去を変えてやるって。それに、自分の命も守りたいし」

最後にもう一度、いたずらっぽい笑みを美紀に向けた。美紀はポニーテールになった髪の毛の先を撫でたままうつむいていた。

僕は苦笑いを浮かべて、ふっと息を吐き出して、美紀のおでこにでこピンをした。

「痛っ。ちょっと、何するのよ」

「人の心配ばかりしてないで、自分のことも考えなよ。マラソン大会の話はどうなってるの? 美幸さんは何か言ってる?」

「もーう。そういうことするのやめてよね。マラソンのマの字も出てきてないよ。そもそも、マラソン大会には私が誘ったんだから、私が何も言わなかったら、何も起こらないのよ」

「そっか。よかった。何だか、美幸さんは大丈夫な気がしてくるね」

 安堵したように微笑みを浮かべる。美紀も僕の顔を見て「うん」と頷いて、笑みをこぼした。

「お母さんが死んじゃうなんて、信じられないくらいだよ」

「うん、そうだね」

「ねえ、誠太。ちなみに、なんだけど」

「なに?」

「ポニーテールだって、結ぶ位置とか、前髪の感じとか、色々気にすることはあるんだからね」

 美紀は、口を尖らせて怒ったような、拗ねたような口調で腕を組んだ。

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