第四章 告白、告白、告白……⑨
横断歩道で赤信号になる。僕は立ち止まって、青信号で次々に発進していく車をぼんやりと眺めていた。光の筋がいくつも目の前を通過していく。
びゅうっと冬の冷たい風が体を突き抜けていく。体の芯まで冷えていくような冷たさだった。その凍える寒さのせいなのか、それとも別の理由なのか、僕の体はわなわなと震えていた。
「もう、寒いなあ。ね、遠野くん、明日からはマフラーとか持ってきなよ。絶対そっちの方がいいって」
時田は手袋で覆われた手のひらをこすり合わせながら呟いた。無防備な僕の姿を見下ろして笑顔を見せる。
僕は、時田の視線を無視して、風から自分の身を守るように、時田の大きな体の後ろに回った。時田は僕を振り向かず、ポケットに手を入れながら、横断歩道に顔をうずめるように俯いていた。
「永井さんも寒がりだったから、大丈夫かなあ。手袋とかマフラーとかちゃんとして、風邪引かないようにしてほしいな。あ、そういえば、遠野くんに聞きたいことがあるんだ。遠野くんは、夏と冬どっちが……」
時田が振り向こうとした瞬間、ドンっという音がして、時田の体が横断歩道の前に投げ出された。時田の細長い背中が、僕から遠ざかっていく。バッグが開いていたのか、化学Ⅱの教科書が、肩にかけた時田のバッグの隙間からこぼれ落ちた。
――嘘だろう?
僕の両腕は真っ直ぐに伸びていた。横断歩道に、いや、時田の背中に向かって投げ出されていたのだ。手のひらにも、じーんとした、何かに触れたような――押したような感触が残っている。
ク ラクションが鳴った。車のライトが駆け抜けていこうとした瞬間――時田の体が目の前からふっと消えた。車に轢かれた、というわけではなかった。本当に、目の前からワープするかのように、一瞬で消えたのだ。
そして――。
「遠野くんに聞きたいことがあるんだ。遠野くんは、夏と冬どっちが……好き?」
息が止まりそうになった。頭が真っ白にになって、何も考えられなかった。
時田の声が真横から聞こえる。口唇が、わなわなと震えた。呆然としたまま振り仰ぐと、時田が横に立っていた。
――嘘だろう?
さっきのあの光景は、幻だったのか? それとも、何か別の……。
信号が青に変わる。歩きだそうとした時田は、「あれえ?」と小首を傾げた。
「どうして教科書が横断歩道に落ちてるのかな。誰のだろう」
教科書を手に取り、裏返して名前を確認した。
「って、あれ、これ僕の教科書だ」
それはさっき時田のバッグから落ちた化学Ⅱの教科書だったのだ。




