第四章 告白、告白、告白……⑧
「永井と、付き合えたらいいね」
「うん。それが一番いいよね。でも、永井さんが笑ってくれれば、それが僕の幸せなんだから、それでいいんだ」
「そっか。時田は本当に優しい男だね。ここまで想われて、永井も幸せ者だね」
「そんなことないよ。だって、永井さんが幸せになればいいとは思うけど、他の男の人といっしょにいるのを見るのは、嫌だもん。だから、実を言うと、僕は永井さんが遠野くんと話しているのをみるの、すごく嫌なんだ」
「おお、えらく素直に出たね。でも、そういう気持ちになるものかな」
時田に微笑みを見せた僕は、時田と話していくうちに、ある恐怖感を抱いていた。
時田が永井に告白をして振られた場合、こいつはどんな行動をとるのだろうか。それを想像すると、怖くてたまらなくなる。そして、どうして時田がいるんだ、と理不尽な思いを抱いたりもしてしまう。
びゅううっと風が電線を揺らして、落ち葉を吹き飛ばしていった。
「寒いね。遠野くん、マフラーも手袋もしてないけど、大丈夫? よかったら、僕のマフラー使う?」
時田は今にも自分の首に巻いていたマフラーを取ろうとしていた。
「いや、いいよ、大丈夫。ありがとう」
時田は普通にしていれば、いいやつなのだ。気持ちがお互いに通じていれば――いや、決して僕とは通じ合っているわけではないけど――こんなにもいいやつで、優しい男なのだ。
臆病でおどおどしていて、人見知りもして、でも、仲良くなると急に人懐っこくなって、自分の好きなことには夢中になれて――でも、だからきっと、思い込みも強い、のだろう。思い込みが強ければ、一つのものに執着する気持ちも強くなる。執着心が強ければ、それだけ裏切られたときの反動も、強烈なものとなる。
時田のこの優しい性格が、狂気に走らせる最大の要因であるとするならば、僕にはもはや、優しさの意味など、分からなくなってしまう。
背中が、ぞっと冷たくなった。吹き抜ける冬の風のせいではなかった。
ファミレスでの時田の言葉を思い出す。
何というか、永井さんは誰にも汚されたくないっていうか、綺麗なままでいてほしいっていうか。自分の好きな人が誰かの手で染められちゃうって想像すると、堪らなく嫌だよね。
この言葉を聞いた瞬間、僕は立ち上がって時田に掴みかかりそうになった。
永井を何だと思っているんだ。永井はお前の人形なのか? と。
怒りで身体が震えた。心の中で大きく深呼吸をして、拳を必死に抑えていた。笑顔は崩さないようにしていたが、頬がぴくぴくと痙攣していた。
永井と付き合うようになって僕を殺そうとしたのも、この『永井を汚されたくない』という自分勝手で汚らしい考えに基づいているのかもしれない。そう考えたら、怒りとか悔しさとか悲しさとか、色んな感情が身体の奥から込み上げてきた。
僕は、それを何とかこらえるために、「もう、帰ろうよ」と声をかけて、足早にファミレスを出て行ったのだ。
優しい優しい時田は、やはり僕を殺そうとする狂気を隠し持っているように思えた。僕が永井と付き合ったら、永井を汚されたと感じて僕を殺そうとするだろう。 時田にとって永井は、いつまでも優しく可愛らしい、お人形のように都合のいい女の子でなければならないのだから。
時田の永井への想いが、未来を覆い隠すほどに憎らしかった。




