第四章 告白、告白、告白……⑥
時田は嫌がっているくせに、どこか嬉しそうな笑顔を浮かべていた。永井のことを思い浮かべているのかもしれない。好きな人の話をするときは、自然と笑顔になってしまうものだ。
やっぱり、時田は永井のことが大好きなのだ。それが、憎くて憎くてたまらなかった。だから、僕は必死に笑顔を向ける。
「言わないよ、言うわけないじゃないか」
「うん、そうだよね。だって、遠野くんだもんね」
「じゃあ、永井を好きになったきっかけを、どうぞー」
「えっと、あのね……。中学二年生のとき、僕は永井さんと同じクラスになったんだ」
「うん、うん」
「僕は昔から背が高くて、でも、ほらこんな感じでいつもおどおどしてたから、二年生のクラスでも、ちょっといじめみたいのもあって。そのときに、永井さんは僕を慰めてくれたんだ。話しかけに来てくれて、朝、教室とか廊下とかで会ったら、笑っておはようって言ってくれて、帰るときも、またねって言ってくれて……。すごく嬉しかったんだ。だから、それで……、その、優しい子だなあって思って、気づいたら好きになってて……」
「そっかー。本当に、永井のことが好きなんだね。素敵だよ、時田」
「いや、そんな、やめてよ。照れちゃうよ」
これまで接してきた限り、時田は僕の中にある憎しみに反して優しい男だった。時田が永井を刺したとき――僕を殺そうとしたとき――時田の友達が「時田はそんなことするはずがない」と証言したのも、頷ける。僕も、もしも何も知らなければ、時田とはいい友達になれるかもしれなかった。
でも、僕は、時田がこれから何をするのかを、知っている。
僕にとって、時田は友達なんかじゃない。
「それでね、遠野くん。これも誰にも言わないでほしいんだけど……」
時田が赤らめた顔を僕に近づけた。
「何?」
「実は、期末テストが終わったら、永井さんに告白したいなって考えてるんだ」
「え?」
タイムループ前の世界では、時田は永井に告白することはなかった。
確実に、過去は変わっているのだ。未来へ向けて進んでいる過程は、タイムループ前とは確かに異なっている。過程が異なれば、結果も異なるはずだ。
そうだ、永井の死という結果を、変える。それが、僕にできる永井への想いのあり方であり、永井への贖罪であるのだから。
「あれ、遠野くん、どうしたの? あ、まさか、遠野くんも永井さんのこと……」
「……違うよ」
「本当に?」
「うん、違う。僕は永井のことは好きじゃないし、他に好きな人もいない。だから、こうやって時田の恋の話をゆっくりと聞いてあげられてるんじゃないか」
「なるほど。さすが、遠野くん」
「それで、時田にあと一つ聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「えー、まだあるの?」
「時田の気持ちを知りたいんだよ。それに、時田の恋がうまくいくように、僕だって支えたいし。そのためには、時田がどう思ってるか知らないとダメでしょ?」
「遠野くん……。僕のこと、応援してくれるの?」
「当たり前だろ」
応援なんかしない。永井を守るためなのだから。
「えへへ、ありがとう。僕、頑張るね。それで、聞きたいことって何?」
「うん。もしも、の話なんだけど」
僕は慎重な口調で話し始めた。
「う、うん」
「もしも、永井が、誰か他の男の人と付き合ったとしたら、どうする?」
「え? 永井さんって、誰か好きな人いるの?」
時田が、でかい体を勢いよくテーブルの上に持ち上げて、焦ったように目と口を開いた。
僕は慌てて否定する。
「そうじゃないよ。例えば、の話だから」
「そ、そっか。よかったあ……」
時田は安堵したように、へなへなとソファーに座り込んだ。
「それで、どう思うの?」
僕は再び尋ねる。どうするのか、どういうつもりなのか。時田自身はどういう結論を導き出すのか。
「そんなの、嫌に決まってるじゃない。うん、すごく嫌だよ。何というか、永井さんは誰にも汚されたくないっていうか、綺麗なままでいてほしいっていうか。自分の好きな人が、誰かの手で染められちゃうって想像すると、堪らなく嫌だよね」




