五話シスコン兄、嫌われる
「しゅしゅしゅしゅしゅ──」
おじいさんは柚奈の懸命な治療により一命を取り留めた。今はベッドに横たわるおじいさんをみんなで囲んでいて、その中にはアサルトもいる。
「じいちゃん! なにを言っているんだ?」
「しゅしゅしゅ!」
「じいちゃん!」
「しゅしゅしゅ!」
「じいちゃん!」
「しゅ──」
この人間はなんなんだろう……
アサルトが謎に思う男、祐介は里長と掛け合いをしている。しかし里長は入れ歯を装備していないので話が成り立たない。(替えの入れ歯はない)
「くっ、やはり入れ歯か……」
「しゅしゅしゅ!」
「弘毅、わかるか?」
「いいえ、わかりません!」
里長の孫、弘毅は敬礼をしながら答えた。
「くっ……だよな。やはり入れ歯を探さないといけないか」
「俺もそう思います」
「そうだな。弘毅、お前に命令する! 入れ歯を入手するため遠征へ行け!」
「了解しました! 編成はどうしますか?」
「編成は──」
その隣でアサルトの治療が始まった。
「鬼さん……治ってる……」
終わった。
限界を越えたときに治ったのだ。柚奈はそんなアサルトの手を触診する。
「妹に気安く触れるなっ!!」
「お兄ちゃん!」
おかしい……俺は触られた側なんだが……?
「それよりお前はなんだ!? その角はなんだ!? そもそも、なぜここにいる!?」
「さっき説明したよね!?」
「それはそうか。じゃあこいつが鬼なのか?」
「そうだよ。遅いよ」
「すまん」
本当になんなんだこの人間……
「いや、ちょっと待てよ……」
祐介は少し考え結論を出した。
「お前が来てから初めて竹精霊が攻めてきた。……ということは、お前が竹精霊を呼んだのではないか?」
「お兄ちゃん! 無茶苦茶すぎるよ!」
祐介の言うとおり、今回初めて竹精霊が巨大樹まで攻めてきたのだ。
俺は竹精霊を呼んではないが、そう思ってしまうのは無理はないか。
アサルトも理屈は理解できている。
「確かに……その可能性も捨てきれないですね」
「弘毅もそう思うか」
「ちょっと待って! 鬼さんは美琴を助けてくれたんだよ!」
「確かにそう言っていたな。美琴、本当なのか?」
祐介は虚無に対して話しかけた。
「あれ?」
「美琴は反省部屋」
「そうだったな」
──そのころ、反省部屋では──
「うえ~ん」
「それでなんの話だったか……」
「お兄ちゃん……」
「鬼が竹精霊を呼んだか呼んでないかです」
「そうだったな。それで妹よ。鬼がやってないと証明できるのか?」
「そ……それは……」
柚奈の代わりにアサルトが答えた。
「俺はやってない」
「お前には聞いてない」
「そうか」
アサルトは口を閉ざした。
「……でも、やった証拠もないわけですよね」
「確かにそうだな……」
祐介は考え込んだ。
「よし決めた。鬼、お前にチャンスをやる。弘毅、鬼を連れて遠征に行け」
「わかりました。でもなぜ?」
「証人はじいちゃんだけだ。でも入れ歯がないと話にならないからな」
「じいちゃんボケてるけど……」
「そこは重要ではない」
そしてアサルトの遠征行きが決まった。
「鬼さん、お兄ちゃんがごめんね」
「別にいい」
「妹に気安く話しかけるなっ!!」
いや……俺が話しかけられた側なんだが……?
アサルトにはシスコンが理解できなかった。
「お兄ちゃんうるさい……」
「しゅしゅしゅしゅしゅ!」
そのとき、里長が祐介になにかを伝えようと声を挙げた。
「なんだって? 弘毅」
「わかりません。でも話の流れ的に柚奈の話では?」
「しゅっ!」
弘毅に賛同するように里長は声を挙げた。
「なんだ?」
「しゅしゅしゅしゅしゅ!」
「じいちゃん! だからなにを言っているんだ!」
「しゅしゅしゅしゅしゅ!」
「じいちゃん!」
「しゅしゅしゅしゅしゅ!」
「じいちゃん!」
「しゅしゅしゅ──」
また掛け合いが始まった。
「鬼さん、お兄ちゃんがごめんなさい」
「別にいい」
「だから妹に気安く話しかけるな!」
いや、このやり取り、何度やるんだ……
アサルトはすでに呆れている。
「もうお兄ちゃんいい加減にして!」
一瞬、空気が固まった。
「鬼さんは美琴を助けたし、長と一緒に上級竹精霊を退けたんだよ! なにか悪いことした?」
「しかし、お前はそれを見たのか? 美琴を助けたとき、そしてじいちゃんと上級竹精霊を退けたとき、お前はその場にいたのか?」
「ううん、見てない……でも……」
柚奈の口は止まった。
「どうしてそいつを庇うんだ。お前には弘毅がいるだろう」
「実は私、弘毅のこと好きじゃないし、そういうつもりもないから」
「うぐっ……」
弘毅に言葉の槍がクリティカルヒットした。ちょっと可哀想だ。
「それは酷くないか?」
「そもそもお兄ちゃん、私の気持ち何一つわかってないし」
「ああ、わからん」
「じゃあいちいち口出ししないでよ!」
「それはお前のため……」
「どこが!? もうお兄ちゃん嫌い!」
柚奈はドンッと強く扉を閉めて、部屋から出ていった。
「なん……だと……」
祐介は膝から崩れ落ちた。
「こうなったのも全部全部……」
祐介はアサルトを睨み、言い放った。
「お前のせいだ!!」
……なぜこうなる?
「しゅしゅしゅしゅしゅ……」
さらっとフラれた男、その名は弘毅




