第43話:若き芽は嵐に咲き誇る
西新宿、超高層ビルが立ち並ぶオフィス街。
かつての繁栄の象徴は、鬼龍院の放った古代兵器によって無残に破壊され、今は巨大なコンクリートの墓標と化していた。そのビル風が吹き抜ける迷路のような戦場で、かりんたちは絶体絶命の窮地に立たされていた。
「あはは! もっと踊ってよ、子猫ちゃんたち。君たちのステップ、少し単調で飽きてきちゃったな」
風の賢者・如月颯真は、崩落したビルの壁面に優雅に降り立ち、手にした銀の指揮棒を指揮者のように振るった。
瞬間、ビル風が意志を持つ刃と化し、三人を全方位から切り刻む。
「……っ、雷翔、左の影から来るわ! 陽向は上方の気流を抑えて!」
「おうっ! ……ちっ、速すぎて見えねえ! 『雷閃・八艘飛び』!!」
「了解だぉ! 『ヒナタ式・対空散弾幕』、いっけぇぇーー!!」
陽向が愛用の桃色の魔導銃を連射し、空中に桃色の火花を散らす。雷翔は黄金の雷を纏って瓦礫の間を縦横無尽に跳ね回り、死角からの真空波を相殺していく。
だが、如月の表情には余裕しかない。彼にとって、この戦いはただの「お遊び」に過ぎなかった。
「惜しいね。でも、その泥臭い連携は『美しくない』。僕の風を汚さないでほしいな」
如月は片手をかざすだけで、陽向の弾丸を風の壁で逸らし、雷翔の突進を気圧の壁で押し戻す。三級の学生が束になったところで、七賢者の深淵には届かない――その慢心が、如月の目を曇らせていた。
「……今よ! 二人とも、私の魔力に合わせて!!」
かりんが杖を突き出すと、三人の間に細い光の糸が結ばれた。
雷翔が陽向の差し出した銃身を足場に跳躍し、陽向がその瞬間に反動魔法を暴発させて加速を加える。光速に近い速度で肉薄した雷翔が、如月の死角――完璧に整えられたその横顔へと拳を叩き込んだ。
「展開!――『黄金雷・穿孔脚』!!」
「……っ、速い!?」
如月が反射的に首を捻る。拳の直撃は免れたものの、迸る雷の熱波が、如月が何よりも大切にしている美しい金髪の毛先を、じり、と焼き焦がした。
辺りに焦げた髪の匂いが漂う。
如月の顔から笑みが消え、底冷えするような殺意が溢れ出した。
「……よくも。僕の、僕だけの美しい髪を……焼いたね?」
如月が胸元の古代魔導具を起動させる。
瞬間、周囲のビル風が一点に収束し、新宿の街一帯を飲み込む超高圧の竜巻が発生した。
「――刻んであげるよ。微塵も残らないほど、無様にねッ!!」
暴力的な暴風の檻の中、かりんたちは一方的な蹂躙を受けていた。
如月颯真の本気。それは、周囲の酸素さえも奪い去り、触れるものすべてを細切れにする死の舞踏。
「……う、あぁぁっ! 強すぎる……、風で、近づけねえ……!」
雷翔がビルの壁に叩きつけられ、全身から血を流す。
「もう、弾が……風に押し戻されちゃうよぉ……。一ノ瀬……助けて……っ」
陽向もまた、魔導銃を杖代わりに、辛うじて意識を保っている状態だった。
如月は冷酷な足取りで、瓦礫に伏せる三人に近づく。
「これでお別れだ。泥臭い努力の限界を、あの世で噛み締めるといい」
だが。
かりんだけは、膝をつかなかった。
震える足で立ち上がり、真っ直ぐに如月を見据える。彼女の脳裏には、いつも自分を導いてくれた、あの少年の背中があった。
(……一ノ瀬くんは、私たちを信じて、この場所を託してくれた。……ここで私たちが折れたら、彼の正義は、誰が守るの!?)
「――まだよ。……一ノ瀬くんに頼り切りだった昨日の私には、もう戻らない!!」
かりんの体内で、眠っていた深淵の魔力が爆発した。
それは、蓮から教わった「真の魔素」の完全な解放。
彼女の全身から、透き通った白銀の輝きが溢れ出し、周囲の死の暴風を静かに鎮めていく。
「な……なんだ、この魔力は!? 三級の、ただの学生のはずだろう!?」
如月が動揺し、攻撃を強めるが、かりんの光はそれを優しく、しかし確実に弾き返した。
「……みんな、立って。……私たちの絆は、こんな風なんかじゃ、消せはしないわ!」
白銀の光が雷翔と陽向を包み込む。
二人の傷が瞬時に塞がり、失われた魔力以上の力が、身体の奥底から湧き上がってきた。かりんの真の魔素は、仲間と共鳴することでその力を数倍に跳ね上げる「奇跡の力」へと進化したのだ。
「……サンキューな、かりん! 体が……めちゃくちゃ軽いぜ!!」
「これなら、いける! 一ノ瀬に、勝利の報告しなきゃだもんね!!」
如月は、突如として変質した三人の魔力反応に驚愕し、焦燥を隠せなかった。
「……認めない。認めないよ、こんな泥臭い連中に僕の美学が負けるなんて!! 死ねッ!!」
如月が全力の真空波を放つ。
しかし、雷翔はその暴風を真っ向から切り裂いて突進した。陽向が、『ヒナタ式・収束徹甲弾』で如月の防御円を正確に撃ち抜く。
「なっ……!? 防御が、間に合わない……!?」
動揺する如月の死角に、かりんが音もなく舞い降りていた。
「――これで、終わりです。……如月さん。貴方の魔法は、綺麗だけど、独りよがりでした」
かりんが杖の先端を、如月の胸元に突きつける。そこに凝縮されたのは、純粋無垢な「真の魔素」の衝撃波。
「――『真魔・銀閃衝』!!」
ドゴォォォォォン!!
白銀の閃光が、如月を飲み込んだ。
風の貴公子と呼ばれた賢者は、誇りとした美学と共に吹き飛ばされ、崩れたビルに深く埋まり、意識を失った。
嵐が止み、静寂が戻る。
かりん、雷翔、陽向。
三人は肩を寄せ合い、肩で息をしながら、自分たちが成し遂げた「七賢者撃破」という奇跡に、震える手でハイタッチを交わした。
「……勝った、わね……。一ノ瀬くん、見ててくれたかしら」
東京の空。
一筋の希望の光が、三人の頭上に差し込んでいた。
こんにちは!よつばです!
今更だけど後書きってみんな読んでますか?
人によっては後書きは物語を連続で読む時に邪魔だなーと思うのではないでしょうか?
それでも楽しんで読んでくれていたら嬉しいですね




