第40話:正義の所在 叛逆の咆哮
――東京は、一瞬にして静寂の檻へと変貌した。
鬼龍院仁のクーデター宣言と同時に、国会議事堂の地下、そして都内各所に潜伏していた数万の魔導兵器が一斉に起動した。空を埋め尽くした鉄の群れは、夕暮れの陽光を遮り、不気味な赤い警告灯で地上を睥睨している。
逃げ惑う人々、鳴り止まないサイレン。かつて「新時代の幕開け」を謳った魔法省は、今や一人の独裁者が操る、巨大な暴力の結節点と化していた。
「……葵。議論の時間は終わりだ。これからは、私の創る『新秩序』がすべてを支配する。貴方も、賢者ならば理解できるはずだ。力なき言葉に価値はないということを」
演壇の中央で、鬼龍院仁がどす黒い魔素を全身に纏いながら宙に浮き上がる。その瞳には、かつての知性的な政治家の面影はなく、力に憑りつかれた独裁者の狂気だけが宿っていた。
「……お断りします、鬼龍院長官。貴方の言う秩序は、ただの独裁に過ぎません」
蓮は「葵」の姿のまま、凛とした声で言い放つ。だが、その内心では、仁から放たれる擬似的な「真の魔素」の不気味な拍動に、本能が警鐘を鳴らし続けていた。
「理解し合えないのは残念だ。ならば、その身をもって知るがいい」
仁が右手をかざした瞬間、黒い雷光が凝縮され、音速を超えて放たれた。
『――蓮、正面よッ!!』
レイの叫びと同時に、蓮は水の防壁を展開する。しかし、仁の攻撃はその防壁を紙細工のように貫通し、蓮を背後の壁ごと議事堂の外へと叩き出した。
「……くっ、レイ、大丈夫か!?」
『ええ、私は平気よ。……でも蓮、気をつけて。貴方の知る魔法の域を、あの男は超えようとしているわ』
瓦礫の山に着地した蓮の前に、黒い流星となった仁が降り立つ。さらに、その左右を固めるように、二人の人影が空から舞い降りた。
「やれやれ、葵殿。そんなに意固地にならなくてもいいだろうに。僕たちの新時代、君も特等席で見ていればいいものを。泥にまみれる君の姿は、あまり美しくないよ」
眩いばかりの微笑みを浮かべ、不敵に前髪をかき上げるのは、風の賢者・如月颯真。以前よりも増したその魔圧は、周囲の空気を切り裂く刃となって渦巻いている。
「ガッハッハ! 葵、お前さんの理想も嫌いじゃないがな、力こそが現実だ。……悪いが長官の邪魔をさせるわけにはいかん。ここで退場してもらうぞ!」
巨大な岩の槌を軽々と肩に担ぎ、豪快に笑うのは、岩の賢者・大岩剛。彼の一歩ごとに地面が鳴動し、地形そのものが彼の意思に従って形を変えていく。
仁、颯真、剛。軍拡派の三賢者が、古代兵器による強化を受けて立ちふさがる。蓮一人では、到底支えきれないほどの絶望的な魔圧が広場を支配した。
しかし、その絶望を切り裂くように、一筋の鋭い氷の矢が、颯真の足元を瞬時に凍らせた。
「――一ノ瀬くん! 無事!?」
凛とした声の主は、かりんだった。彼女は白銀の杖を構え、その瞳に「真の魔素」の輝きを宿して駆け寄ってくる。その後ろからは、雷翔が黄金の雷を全身に迸らせ、陽向が巨大化した桃色の銃を抱えて合流した。
「一ノ瀬、待たせたな! 外の雑魚共は、俺たちが片付けてきたぜ!」
「もう、一ノ瀬が一人でカッコつけるから、ハラハラしちゃったじゃん! 私の最新魔道具、たっぷり拝ませてあげるんだからぁ!」
「みんな……! 間に合ってくれたんだね」
蓮の口元に、安堵の笑みが漏れる。
だが、如月颯真は退屈そうに鼻を鳴らした。
「……三級程度の学生が数人増えたところで、この美しい終焉は止まらないよ。演算能力の無駄遣いだ」
颯真が指を鳴らした瞬間、周囲の魔導兵器が一斉に銃口を4人に向けた。
まさに絶体絶命の包囲網。
その時――。
「――き、きららちゃん……。そんなに動くと、ヒラヒラが私の顔に……っ。あ、葵あおいさま……! お、お助けに……参りましたっ……!」
おどおどとした、しかし必死な声が響き、地面から巨大な蔦が噴き出した。それは魔法兵器を次々と絡め取り、一瞬でスクラップに変えていく。草の賢者・藤田紫苑だ。
「葵っちお待たせ〜! 派手にブチかましちゃおっか! 葵っちのピンチなら、ウチら穏健派が黙ってるわけないじゃん! 鬼龍院のオジサン、マジで空気読めてなさすぎなんですけどー!」
続いて、弾けるような炎の華が空を彩り、兵装群を焼き払う。金髪サイドポニーを揺らし、不敵に笑うのは炎の賢者・不知火煌々。
「紫苑、きららさん……! それに……」
「……やれやれ。年寄りの出番は、もう少し先だと思っていたのだがな。骨が折れるわい」
最後に、一歩一歩、石畳を凍らせながら歩んできたのは、杖を突いた老人――氷の賢者・一条氷介、通称「じい」だった。
「じい! 貴方まで……」
「葵様……あ、あの、今夜の装い、とっても……その……お、お綺麗、です……っ。紺色の髪が、深い夜の海みたいで……とっても、美しいですっ! だから、傷一つ……つけさせ、ません……っ!」
紫苑が顔を赤らめながらも、茨の杖を強く握りしめる。
「よーし、役者は揃ったね! 葵っちの背中はウチらが守るから、あんたはあの長官サマをぶっ飛ばしちゃいな!」
きららが炎の杖を掲げ、じいが静かにその隣に並ぶ。
穏健派の賢者三人と、覚醒した学生三人。そして、水の賢者・葵と精霊レイ。
対するは、軍拡派の首魁・鬼龍院仁と、二人の強化賢者、そして数万の兵器群。
東京の上空。埋め尽くす兵器の群れを背景に、世界の命運を決める最終決戦の布陣が完成した。
「……みんな。力を貸してください。……この歪んだ魔法の時代に、正しい終止符を打つために!」
蓮の蒼い瞳が、決意に燃える。
今、史上空前の魔法大戦が、その幕を開けた。
こんにちは!よつばです!
全員集合しました!ついに最終決戦!どうなる⁈
余談になりますが、いつも最後とか最終決戦とか言っているけど、前にも言った通り48話〜50話で初期構想を立てているのでまだもう少し続きます!気持ちはいつも最終回ですけどね笑
そんなわけで次回も読んでいってください!




