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第39話:独裁者の咆哮 黒き空

議場には、確かな「変化」の風が吹き抜けていた。

 精神干渉を解かれた議員たちは、まるで憑き物が落ちたような顔で、隣り合う者同士と議論を始めている。中継を見守る国民の声――SNSや魔導通信のログも、今は葵の語る「星の真実」への驚愕と、鬼龍院仁への不信感で埋め尽くされていた。



『……手応えはあるわね、蓮。人々の意識が、ようやく『魔法』という夢から覚めようとしているわ』

 レイが蓮の肩越しに、透明感のある声で囁いた。彼女の姿は依然として神秘的な美を湛えているが、その瞳には蓮を支える相棒としての強い光が宿っている。

「ええ。ですが、まだ安心はできません。……鬼龍院長官が、これほど静かなのが不気味です」

 蓮は蒼い瞳を演壇に向けたまま、小声で返した。背筋に走る微かな悪寒。葵としての威厳を保ちながらも、彼の内側にある「一ノ瀬蓮」としての直感が、警鐘を鳴らし続けている。

『あら、あんな男一人、私の蓮が論破できないはずがないでしょう? ほら、もっと胸を張りなさい。貴方は今、世界で一番注目されている美しき賢者レディなんだから』

「……ちょっとレイ、茶化さないでくれよ。これ、マジで笑い事じゃないんだからさ」

 蓮は、周囲に悟られないよう唇を微かに動かして、本来の砕けた口調で返した。

『あら、本気よ? 貴方のその凛とした姿、博士が見たらきっと腰を抜かすわね。……ふふ、でも、その余裕のなさが蓮らしくて安心するわ』

「……ったく、余裕なんてあるわけないだろ。心臓が飛び出しそうなんだ」


 緊迫した状況下での、いつものようなやり取り。それが蓮の強張った心をわずかに解きほぐす。彼は再び、議場全体を見渡して、凛とした「葵」の声で張り上げた。

「……鬼龍院長官。議会の空気、そして国民の意志は示されました。魔素を兵器へと変え、他国を威圧するその法案は、もはや正当性を失っています。……今すぐ、軍事利用計画の即時中止を宣言してください!」

 蓮の追及に、議場からは賛同の拍手が巻き起こった。


 しかし、演壇の中央に立つ鬼龍院仁は、依然として微動だにしない。彼はゆっくりと顔を上げ、影の落ちた瞳で蓮を見つめた。

「……正当性、か。葵、君は相変わらず『言葉』というものの力を過信しているようだな」

 仁の口から漏れたのは、議論を続ける者の言葉ではなく、すべてを切り捨てる者の冷笑だった。

「経済、倫理、星の寿命……。そんなものは、強者が弱者を統治するための飾りに過ぎん。……国民が何を望もうと、議会が何を議決しようと、私には関係のないことだ」

「何を……っ。貴方は、この国の民主主義を否定するつもりですか!?」

「否定ではない。上書きするのだよ」


 仁が、懐から一つの歪な形状をした魔導端末を取り出した。それは、博士の研究室にあったものとは異なる、禍々しい黒色の輝きを放っている。

「葵。君が深層で過去を漁っている間、私は『未来』を構築していた。……現代の魔導技術と、発掘された古代の残骸を融合させた、真の力の結晶をな」

『――蓮、危ないッ!!』

 レイの叫びと同時に、仁が端末のスイッチを入れた。

 その瞬間、国会議事堂の地下から、大地を割るような重低音が響き渡った。

「な……何が起きているんだ!?」

「地震か!? いや、この魔力の反応は……!」

 議員たちがパニックに陥り、議場を囲んでいた蓮の蒼い結界が、内側からの凄まじい衝撃波によって粉々に砕け散った。

 蓮はレイを背後に庇い、水の防壁を展開するが、その魔圧の質に驚愕する。

「これは……魔素の暴走? いや、完全に制御されている……!?」

「見せよう。言葉よりも雄弁な、私の『正義』を」

 仁が合図を送ると、国会議事堂の周囲に隠されていた巨大なハッチが次々と開き、そこから「それ」が飛び出した。


 ――キィィィィィィィィィィンッ!!


 鼓膜を突き刺すような高周波の駆動音。

 東京の空を、一瞬にして数千、数万の魔導兵器が埋め尽くした。

 自律型ゴーレム、古代の飛行兵装を模した戦闘機、そして、巨大な魔導砲を搭載した浮遊艦隊。それらすべてが、夕暮れの空を黒く塗りつぶし、不気味な赤い警告灯を点滅させている。


「……そんな……。これだけの数を、いつの間に……」


 蓮は窓の外の景色に絶句した。

 東京の空は、もはや市民のものではない。一人の独裁者が操る、暴力の結晶によって支配されていた。

「本日をもって、現行の政府および議会はその機能を凍結する。……全魔法師、および国民に告ぐ。我が魔法省の統治に従え。従わぬ者には、この『空の暴力』が等しく死を与えるだろう」

 仁の声が、東京中の街頭ビジョン、そして全世界の中継網をジャックして響き渡る。

 これは議論ではない。宣戦布告ですらない。

 圧倒的な武力による、国家の、そして世界の強制的な掌握――「クーデター」の完遂だった。

「……鬼龍院、仁……っ!」

「葵。君の負けだ。……さあ、その精霊を差し出せ。彼女こそが、私の帝国を完成させる最後のピースなのだから」

 絶望が東京を覆い尽くす。

 しかし、蓮は隣に立つレイの手を強く握りしめた。

「……いいえ。……まだ、終わっていません」

 蓮の蒼い瞳に、静かな決意の炎が灯る。

 空を埋め尽くす兵器の群れ。立ちふさがる最強の独裁者。

 ここから、魔法の歴史を終わらせるための、人類最大の全面戦争が幕を開ける。

こんにちは!よつばです!

さぁ、物語は最終局面に突入します!魔法が生んだ現代社会の運命が決まる。

ぜひ最後まで読んでいってください!

私も執筆頑張りますので応援よろしくお願いします!

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