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第38話:断罪の演壇 蒼き告発

国会議事堂、本会議場。

 日本の未来を決める最高意志決定機関の静寂は、重厚な扉が内側から弾け飛ぶ轟音と共に打ち砕かれた。

 舞い上がる白煙が晴れた先に立っていたのは、紺碧のマントを翻す一人の女性。それは「水の賢者」として世界にその名を知られる葵――一ノ瀬蓮だった。

 彼はあの日、素顔を晒して戦った時のまま、仮面を纏うことはなかった。銀色の髪を大人びたスタイルでまとめ、深く澄み渡った蒼い瞳。その立ち姿は、傍らに佇むレイが成長したかのような、神秘的でありながらどこか憂いを帯びた美女そのものであり、かつての「隠居を望む少年」ではなく、一人の賢者としての覚悟を宿している。そしてその傍らには、透き通るような銀髪をなびかせ、この世のものとは思えぬ美貌を湛えた少女、レイが静かに佇んでいた。


「……なっ、葵!? 指名手配中の反逆者が、なぜここに!」

「あの隣の女は誰だ……? 人間か? まるで精霊のような……」

 議場は瞬時にパニックへと陥った。議員たちの罵声と、警備魔法師たちの緊迫した怒号が重なり合う。だが、その喧騒を鋭い一言で制したのは、演壇の中央で不敵に構える男だった。


「静まれ」


 魔法省長官、鬼龍院仁。

彼の発した低い声には、周囲の空気そのものを圧殺するような重圧が宿っていた。仁は冷徹な眼差しを葵に向け、薄く口角を上げる。

「……わざわざ自ら首を差し出しに来るとはな、葵。……逃亡生活に疲れたか?」

「挨拶は結構です、鬼龍院長官。……今この瞬間から、この議場に結界を張らせていただきます。真実を語るための、静寂が必要ですので」


 蓮が静かに右手をかざすと、議事堂全体を巨大な蒼い結界が包み込んだ。外部からの介入を物理的に拒絶し、同時にこの中の様子は、敷設された魔導カメラを通じて全世界へとリアルタイムで中継される。テレビの前の国民、そして世界中の指導者たちが、固唾を呑んでこの対峙を見守った。


「議論を始めましょう。……君が進めている『魔法軍事利用拡大法案』。それが、この星を死に追いやる毒であることを証明するために」




 蓮は、博士の研究室から持ち出した古代の記録媒体を空間に投影した。

 映し出されたのは、かつて魔法を過剰に使い、魔素の枯渇によって滅び去った文明の末路。枯れ果てた大地、変質し、人々に牙を剥く「毒」となった魔素の惨状。

「魔素は無限の資源ではありません。星の生命力を前借りしているに過ぎないんです。君が行おうとしている軍事転用は、その消費速度を決定的な破滅へと加速させます。……深層の底で、私は見てきました。かつて君と同じ野望を抱いた者たちが、いかに無残に自滅していったかを!」


 蓮の切実な訴えに、議場の一部に動揺が走る。しかし、仁は微塵も動じず、冷静に反論を展開した。

「お伽話だな。……葵、君の言う『破滅』とやらは、数千年前の未熟な文明の話だ。今の我々の魔導工学は、当時とは比較にならぬほど効率化されている。魔法による経済発展、圧倒的な軍事的抑止力……それによって救われる命がどれほどあるか、君には理解できんのか?」

「その『恩恵』が、星の命を削る対価だと言っているんだ!」

「利点こそが正義だ。日本が魔法大国として君臨すれば、他国からの侵略も、エネルギー問題もすべて解決する。利点ばかりではないか。……君は、平和という名の停滞を押し付け、国民に不便な生活に戻れと言うのか?」

議論は平行線を辿った。仁の言葉は、魔法という「便利な道具」に依存しきった現代人にとって、あまりにも甘く、魅力的に響く。国家の繁栄を説く仁の論理に、蓮は次第に苦戦を強いられていく。



 その時、蓮の背後に立つレイが、彼の耳元で冷ややかに囁いた。

『……蓮、気をつけて。あの数列に並ぶ議員たち……彼らの精神に、淀んだ魔素の糸が絡みついているわ。……鬼龍院の精神干渉魔法ね。彼らは自分の意思ではなく、ただの操り人形として吠えているだけよ』

 蓮の蒼い瞳が鋭く光った。

(……やはり、汚い手を使っていたか)

 蓮は一つの賭けに出る。彼は右手を高く掲げ、魔素の奔流を議場全体へと解き放った。

「――何をする、葵!」

「攻撃か!? 警備兵、構えろ!」

「いいえ、ただの『お試し』ですよ。……少しの間、大人しくしていてください」

 蓮の放った水の鎖が、精神干渉を受けている議員たち、そして魔法の恩恵に胡坐をかいている有力者数人の体内を通り抜けた。

 刹那、彼らの体内から「魔力」という感覚が一時的に消失する。

「……なっ、魔法が……使えない!? 身体が動かん!」

「おい、私の杖が反応しないぞ! 何をした、葵!!」

絶叫が響く。魔法によって成り上がり、魔法という力こそが自分たちのすべてだと思い込んでいる者たちにとって、それは死よりも恐ろしい喪失だった。

「……君たちが望む『軍事利用』が進めば、いずれ世界中の魔素が枯渇し、今のような状況が恒久的に訪れます。……便利な生活、強大な力。それらがすべて、砂の城のように崩れ去る。……それでもまだ、君たちはその道を望みますか?」


静まり返る議場。魔法を失う恐怖を肌で感じた議員たちの顔に、明確な迷いが生じる。


 その隙を逃さず、レイがその神秘的な魔力を解き放った。

『――不浄なる契約、解けなさい』

銀色の光が波紋のように議場を駆け抜け、仁が仕掛けていた精神干渉の糸を次々と焼き切っていく。

呪縛から解放され、我に返った議員たちが、呆然とした様子で周囲を見渡した。

「……私は、今まで何を……」

「そうだ……魔法の兵器化など、平和を真っ向から否定する行為じゃないか。なぜあんなに賛成していたんだ……」


 次々と上がる、軍事利用反対の声。

 中継を見ている国民の間にも、「魔法の終わり」という現実的な危機感が、仁の甘い誘惑を上回り始めた。

「……鬼龍院長官。……君の計画は、もはや国民も、議会も支持していません。……潔く認めなさい。魔法は、武器にするにはあまりにも『重すぎる』力だ」

 蓮が壇上の仁を真っ直ぐに指差した。


 議論の形勢は、完全に逆転した。だが、蓮はまだ気づいていなかった。

 追い詰められた独裁者の瞳に、暗く、底知れぬ狂気の火が灯っていることに。

こんばんは!よつばです!

ついに反撃!物語は佳境に入りました!

まだまだ続きます!もう少しだけお付き合いください。

次回もお楽しみに!

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