第37話:真実の残響 蒼き光
静寂が支配する博士の研究室。
ホログラムが消えた後も、その場には重く、逃れようのない真実の余韻が漂っていた。蓮は机の上に散らばった古代の記録媒体、そして魔素の真実が記された膨大な紙の資料を一つにまとめ、カバンへと詰め込んだ。
その横顔には、かつての「平穏を望む少年」の面影はない。
「……みんな、聞いてくれ。僕の作戦を伝える」
蓮の声は、静かだが鋼のような芯が通っていた。
かりん、雷翔、陽向の三人が、息を呑んで蓮を見つめる。
「僕はこの資料を持って、地上へ戻る。そして、そのまま国会議事堂へ乗り込むつもりだ。今、魔法省が進めている魔法の軍事利用――その法的根拠を、公の場ですべて叩き潰す。武力による制圧じゃない。真実による、正面からの論戦だ」
その言葉に、雷翔が顔を強張らせた。
「……正気かよ、一ノ瀬。今のお前は『国家反逆罪』の指名手配犯だぜ? 議場に現れた瞬間、議論どころか射殺許可が下りる。日の光を浴びるどころか、一生暗い牢獄か、あるいは……」
「わかっている。これは、国家という巨大な怪物に対する、あまりにも無謀な賭けだ。……だから、三人はここで別れてもいい。これは僕の、水の賢者としての……葵としての責務なんだ」
蓮は、無理に作った微笑みを浮かべて仲間たちを見た。
だが、その言葉が終わるよりも早く、かりんが蓮の隣に並び、その手を強く握りしめた。
「別れるなんて、二度と言わないで。私は、君の隣にいるって決めたの。……たとえ世界中を敵に回しても、蓮を信じるわ」
「一ノ瀬、水臭えこと言ってんじゃねえよ」
雷翔が不敵に笑い、自らの拳を打ち鳴らす。
「俺たちは四人組カルテットだろ? 最強の水の賢者が一人で戦うなんて、友達として面目が立たねえんだよ」
「そうだよぉ! 私の最新兵器、まだ試運転も終わってないんだから! 魔法省の鼻を明かしてやる絶好のチャンス、逃すわけないじゃん!」
陽向もまた、桃色の銃を揺らしながらウインクしてみせた。
三人の揺るぎない決意に、蓮の目元が熱くなる。
そんな暖かい空気の中、蓮の隣で実体化したレイが、ふんと鼻を鳴らした。
『……やれやれ。これだけの馬鹿が揃うのも、ある種の発明ね。蓮、貴方は運だけは一級品だわ。……でも、少しはマシな顔になったじゃない。情けない泣き顔よりは、その決意に満ちた顔の方が、私の契約者として相応しいわ』
「レイ……。……ありがとう。」
『感謝するなら、さっさとこの場所を終わらせなさい。……よかったわね、蓮。貴方には、こんなに素敵な『親友』がいるのだから』
レイの言葉は少しだけ毒を含んでいたが、その瞳には慈愛が満ちていた。
蓮は深く頷き、一行は、地上へと続く裂け目へと足を踏み入れた。
地上に戻った一行を待ち受けていたのは、変わり果てた東京の姿だった。
「……何、これ……。これが、私たちの知ってる東京なの……?」
陽向の震える声。
かつての美しい夜景は消え失せ、街全体が冷徹な軍事要塞へと変貌していた。
空には、サーチライトを放つ無数の魔導偵察機が旋回し、ビル群の至る所には巨大な魔導砲が据え付けられている。路地裏には、重武装した魔法省の職員たちが目を光らせ、市民の気配は微塵も感じられない。
一週間の不在。その間に、鬼龍院仁による魔法の軍事独裁は、取り返しのつかない段階まで進んでいたのだ。
「……急ごう。このまま国会議事堂を目指す」
蓮の指示で、四人は影に潜みながら移動を開始した。
しかし、議事堂まであと数キロという地点で、空間を切り裂くようなサイレンが鳴り響いた。
「――ターゲット捕捉! 反逆者『葵』、および随行する三名を確認! 全員、即時排除せよ!!」
頭上の巨大モニターに、蓮たちの姿が映し出される。
同時に、周囲の路地から、黒いタクティカルウェアに身を包んだ魔法省の魔法師部隊と、数機の古代兵器を模した自律型ゴーレムが姿を現した。
「チッ、見つかるのが早すぎるぜ……!」
雷翔が雷を纏い、敵の第一波を牽制する。
「ここは私たちが食い止めるわ!」
かりんが白銀の杖を掲げ、周囲一帯に巨大な氷の防壁を構築した。
「一ノ瀬くん、先に行って!!」
「かりん!? でも……」
「迷わないで! 君が議場に辿り着かなければ、すべてが終わるの!」
かりんは蓮を振り返り、凛とした声で叫んだ。
「ここは私たちの戦場よ。……私たちの成長を、アイツらに見せつけてやるんだから!」
「そうだよ! 雷翔と私がいれば、こんな雑魚ども、まとめてドッカーンだよぉ!」
陽向がハッキング弾を装填し、ガーディアンの関節部を次々と狙い抜く。
「……頼んだ。……必ず、後で合流しよう」
蓮は、三人の背中を一度だけ強く見据え、議事堂へと続く裏道へと走り出した。
背後で、氷が砕ける音、雷鳴、そして陽向の爆破音が響き渡る。仲間たちが命懸けで作ってくれた、一筋の道。
国会議事堂、中央ホール。
重厚な扉の前で、蓮は一度立ち止まり、深く息を吐いた。
隣には、不可視化を解いたレイが、静かに佇んでいる。
「……準備はいい、レイ」
『いつでもいいわ。……蓮、貴方の選んだ道を、私が最後まで見届けてあげる』
蓮は、自らの魔素を静かに昂らせた。
水の魔素が彼の身体を包み込み、ただの少年は、瞬く間に「七賢者が一人・水の賢者 葵」へと姿を変える。
紺色のマントが翻り、仮面の下の瞳に鋭い光が宿る。
「……行こう」
ドォォォォォォンッ!! と、蓮は物理的な魔圧で、議場の巨大な扉を正面から吹き飛ばした。
騒然となる議場。
壇上で演説していた鬼龍院仁が、驚きに目を見開き、そして不敵な笑みを浮かべる。
テレビカメラの向こう側、数千万の国民が見守る中。
一人の賢者が、国家という巨大な壁に対し、反逆の宣戦布告を突きつけた。
「――魔法省長官、鬼龍院仁。……君の野心は、ここで終わりだ」
葵の声が、凍てつく冬の夜風のように、議場全体へと響き渡った。
今、世界を揺るがす最後の一騎打ちが、幕を開ける。
こんにちは!よつばです!
最終章始まりました。ついに物語は終点へ。
ここから物語はクライマックスです!成長した皆を見てもらえるかなと思っています!
次回もお楽しみに!




