表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

38/52

第36話:蒼き蝶は再び舞う

再会の余韻を噛み締める間もなく、4人は部屋の最奥に鎮座する、奇妙な多面体の結晶体へと歩み寄った。

 蓮が胸元のネックレスを掲げると、結晶体から淡い燐光が溢れ出し、部屋の空気が一変する。

「……始まるよ。僕たちの、知らない過去が」

 蓮の言葉と共に、ホログラムが起動した。

 空間を埋め尽くしたのは、現代の摩天楼さえ子供の玩具に見えるほど、天高く聳え立つクリスタルの塔、空を行き交う黄金の船、そして人々が魔法を息を吸うように使いこなす、眩いばかりの光の都。

『……これを見る者がいるとするならば、世界は再び、滅びの淵に立っているのだろうな』

 ホログラムの中心に、一人の老紳士が姿を現した。かつてレイが「博士」と呼んでいた男だ。その瞳には、慈愛と、それ以上に深い後悔の色が滲んでいる。

『かつて、我々の文明は魔法によって神の領域へと手を伸ばした。病を払い、飢えを無くし、星の理さえも書き換えた。……だが、魔法とは「星の生命力」そのものである魔素を前借りする行為に過ぎなかったのだ』

 博士の指先が動くと、美しい都が次第にどす黒い霧に包まれ、大地が枯れ果てていく映像が流れた。

 人々の欲望は止まらず、より強大な魔法を求めて戦争を始めた。魔素を奪い合い、星を削り続けた結果、世界は自浄作用を失い、魔素そのものが「毒」へと変質していったのだという。

『私は、過ちを止めるために「魔素封印」の計画を立てた。……だが、あまりにも膨大な魔素を閉じ込めるには、純粋で、かつ無限の容量を持つ「器」が必要だった。……それが、私の最愛の妻が慈しんでいた精霊……レイだ』

 蓮の指先が、微かに震える。

 レイは、最初から「鍵」として作られた存在だった。博士は、妻の死後、彼女の願いを汲んでレイを魔素の檻とし、この深層の底に封じ込めた。世界から魔法を奪うことで、星を救おうとしたのだ。

『レイに何かあった時のために、この部屋に「記憶モジュール」と「再起動術式」を残した。……だが、忠告しておく。彼女を完全な姿で目覚めさせるということは、世界に再び「魔素の封印権」を戻すということだ。……それはやがて、今の君たちの文明から魔法を奪うことに繋がるだろう』

 博士の影が、静かに消えていく。

 静まり返った部屋の中で、4人は沈黙した。

 自分たちがレイを救うことは、今、地上の人々が謳歌している「魔法」という恩恵をすべて否定することになる。それは、自分たちがこれまで積み上げてきた努力さえも、無に帰すことを意味していた。

「……それでも、私は……」

 かりんが、真っ直ぐに蓮を見つめた。

「魔法が消えてもいい。……私は、あの子に……レイに、もう一度笑ってほしい」

「ああ」

 雷翔が拳を握り、陽向が力強く頷く。

「一ノ瀬。お前が選ぶなら、俺たちはどこまでも付き合うぜ。……魔法がなきゃ、お前と出会えなかったかもしれない。でも、魔法がなくても、俺たちは親友だ」

「……みんな。ありがとう」

 蓮は、机の上に置かれた「記憶モジュール」――蒼く輝く小さなチップを手に取った。

 彼はそれをネックレスの裏側のスロットへと、迷うことなく差し込んだ。

「――レイ。……起きてくれ。君のいない世界なんて、僕には意味がないんだ」

 蓮が全魔力をネックレスに注ぎ込む。

 かりんの真の魔素が、雷翔の黄金の雷が、そして陽向が即興で組み上げた古代式の増幅術式が、一つに重なり合い、蓮の背中を押し上げる。

 

 カチリ、と。

 運命の歯車が噛み合う音が、部屋全体に響き渡った。

 ネックレスから爆発的な蒼い光が溢れ出し、部屋の中に一匹の、美しい「青い蝶」が舞った。

 蝶は蓮の指先に止まり、瞬く間に光の粒子となって膨れ上がる。

 その光の中から、透き通るような銀髪をなびかせ、あの日と変わらない凛とした、けれどどこか寂しげな瞳をした少女が、ゆっくりと舞い降りた。

『……蓮……?』

 その声を聞いた瞬間、蓮の視界が涙で滲んだ。

「……おかえり、レイ」

 レイは自分の手を見つめ、それから蓮の顔を、そして隣で微笑む仲間たちの姿を、不思議そうに見渡した。

『……私は、眠っていたのね。……博士の、哀しい記憶の中で』

「レイ、ごめん。……君を、辛い役目に縛り付けてしまっていたんだね」

 蓮が歩み寄ろうとすると、レイは優しく首を振った。

『いいえ。……私は、貴方に出会えて幸せだったわ。……封印の鍵として生まれた私が、誰かに『愛されている』と感じることができた。……それだけで、私はもう、檻の中の鳥じゃない』

 レイが蓮の手に、そっと自分の手を重ねる。

 その瞬間、蓮の脳内に「魔素封印の術式」のすべてが流れ込んできた。それは、魔法省が喉から手が出るほど欲しがっている、世界のパワーバランスを根底から覆す、絶対的な権能。

『……行きましょう、蓮。……魔法省は、すでにこの深層の入り口まで迫っているわ。……彼らは、この力を兵器として使おうとしている』

「ああ。……僕たちの手で、終わらせよう。……この、歪んだ魔法の時代を」

 蓮は、レイの手を強く握りしめた。

 


 博士の部屋を出る4人の背中に、迷いはなかった。

 手に持っているのは、魔法省を壊滅させるための兵器ではない。世界を本来の姿に戻し、大切な人と「普通の日常」を過ごすための、たった一つの希望。

こんにちは!よつばです!

6章完。次回最終章となります。

最後まで頑張りますので応援お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ