表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/52

第34話:雷の誓い 桃色の回路

蓮とかりんの姿が霧の向こうに消え、静まり返った古代都市の回廊。

 雷翔と陽向は、背中合わせのまま、冷たく光るクリスタルの壁に囲まれた通路を慎重に進んでいた。


「……ねえ、雷翔。さっきの転移、やっぱり変だよ。一ノ瀬くんたちの魔力が、完全に遮断されてる」

 陽向が、愛用の桃色の銃に取り付けられた小型モニターを覗き込みながら、不安げに唇を噛む。

「ああ。方位磁針も狂ってやがる。……だが、くよくよしてても始まらねえ。あいつらなら大丈夫だろ。今は、俺たちが生き残ることを考えようぜ」

 雷翔は努めて明るい声を出したが、その掌にはじっとりと汗が滲んでいた。

「……そうだね。雷翔がいてくれれば、私、百人力だもん!」

 陽向が無理に作った笑顔で雷翔を見上げる。雷翔はその視線に胸を突かれ、ぶっきらぼうに彼女の頭を軽く小突いた。

「当たり前だ。お前は俺が守るって決めてんだよ。……だから、そんなに震えるなって」

「震えてないもん! これは……寒波のせい!」

「はいはい。お前、嘘つく時は耳が赤くなるんだよな」


 そんな、いつものような軽口。

 それは、今にも崩れそうな自分たちの心を繋ぎ止めるための、精一杯の「日常」だった。しかし、そのささやかな時間は、冷徹な機械音によって無残に引き裂かれる。




 ――ギギィ、ガガッ……。

 通路の奥、闇の中から、鈍い金属の摩擦音が響いた。

 現れたのは、三体の『守護騎士ガーディアン』。全長三メートルを超えるその巨躯は、現代の魔導工学では到底不可能な、継ぎ目のない「流体金属」のような装甲に覆われている。

 その頭部が赤く発光した瞬間、空間に凄まじいプレッシャーが充満した。

「……来るぞ、陽向! 俺の後ろに隠れてろ!!」

「わかってる! 雷翔、右から二体目、魔素の集束が速いよ!」

 雷翔が地面を蹴り、黄金の雷をその身に纏う。

「――展開! 『雷鳴の(ボルト・ステイク)』!!」

 

 渾身の一撃。しかし、放たれた雷光はガーディアンが構えた巨大な盾に吸い込まれるように消失した。

「……なっ!? 効かねえのかよ!?」

「雷翔、危ない!!」

 中央のガーディアンが、盾の隙間から不気味な紫色の霧を噴射した。

 それは意志を持つ生き物のように、避ける間もなく雷翔を包み込む。

「――っ、げほっ! 何だ、これ……力が……」

 雷翔の瞳から、急速に光が失われていく。黄金の雷が霧散し、彼の膝がガクリと折れた。

「雷翔!? 雷翔ってば!!」

 陽向が叫びながら駆け寄るが、雷翔の意識はすでに、紫の霧が作り出す「精神の牢獄」へと引きずり込まれていた。





 雷翔が見ていたのは、降りしきる雨の風景だった。

 重く立ち込める硫黄の臭い。

 ダンジョンを攻略したあの日。深層の崖下で、彼はただ震えていた。

 

(……ああ、またこれか。……俺は、いつもそうだ)

 

 幻影の中の雷翔は、泥にまみれ、自分の杖さえ握れずにいた。

 目の前には、巨大なワイバーン。

 そしてその鋭い爪の下には、傷つき、弱々しく自分を呼ぶ陽向の姿がある。


「雷翔……助けて……っ、痛いよ……」

 彼女の泣き声が、雷翔の心臓を抉る。

 助けたい。今すぐ駆け寄って、その怪物を雷で焼き尽くしたい。

 だが、幻影の世界の自分は、指一本動かすことができない。足元から這い上がってくる「無力」という名の泥が、彼を底なしの絶望へと沈めていく。


(……一ノ瀬がいなきゃ、俺は何もできない。……あいつが葵として現れなきゃ、俺はあの日、死んでたんだ。……今だって、そうだ。俺は、アイツの影に隠れて、強いフリをしてただけだ……)


 ワイバーンの顎が開き、陽向の頭上を覆う。

 暗い絶望が、雷翔の精神を完全に塗り潰そうとした、その時だった。


『……信じてる……。雷翔なら、絶対……っ』


 どこからか、今の陽向の声が聞こえた。

 それは幻影の悲鳴ではない。震えながらも、気高く、自分を必死に守ろうとしている「現実」の彼女の魂の叫び。

(……違う。……陽向は、俺を信じてくれたんだ。……一ノ瀬が強いからじゃない。……俺が「星光雷翔」だから、アイツは俺の側にいてくれるんだ……!!)

 雷翔の脳裏に、あの日、学園祭で陽向に告白した時の光景が蘇る。

 不器用で、格好悪くて、それでも自分の想いを全部ぶつけた、あの瞬間。

 

「……ああ、そうだ。……俺は、カッコいい男になりたかったんじゃねえ。……アイツを、守れる男になりたかったんだ!!」

 雷翔の心臓が、黄金の鼓動を刻み始めた。

 

「――詠唱なんかいらねえ……。俺の雷は、俺の意志だァァァァッ!!」

 爆発的な雷光が、幻影のワイバーンを、そして偽りの雨空を、内側から粉々に粉砕した。






 現実の世界。

 陽向は、ボロボロになりながら雷翔の体を抱え、ガーディアンの槍を間一髪で避けていた。

「……っ、うあぁぁ!!」

 肩をかすめた衝撃で、陽向は床を転がる。右腕はすでに感覚がなく、愛用の銃を握る指先が激しく震えていた。

「……はぁ、はぁ……。……負けない。私は、あんたたちに……雷翔を、渡さない……!!」

 ガーディアンの三体が、一斉にトドメの熱線をチャージし始める。

 絶望的な光の集束。

 だが、その瞬間、陽向の脳内の「回路」が、かつてない速度で回り始めた。

 眼前のガーディアンから漏れ出る魔素の波長、術式の構築アルゴリズム、そのすべてが、数式となって彼女の視界に浮かび上がる。


(……これだ。……現代魔法の欠陥は、魔素を『外部』から借りること。……古代魔法は、魔素と『同期』する……!)


 陽向は、落ちていた銃を掴み直し、その銃口を自らの左胸へと押し当てた。

「――私の魔素を、全部あげる。……だから、応えて! 私の、最高の発明!!」

 陽向の全魔力が銃に吸い込まれ、桃色のボディが白熱した金属のように光り輝く。

 それはもはや既存の魔道具ではない。

 彼女の知恵と愛が、古代の理を食らい、進化した「真なる魔導兵器」。

「――ヒナタ式!! 『桃色・雷鳴砲プロトタイプ』!!」

 陽向が引き金を引き、同時に、意識を取り戻した雷翔が、地を爆ぜさせて飛び出した。

「――ぶっ飛べ、ガラクタ共ォォォォッ!!」

 雷翔の拳から放たれた黄金の雷鳴と、陽向の銃口から放たれた桃色の光軸。

 二つの光が螺旋を描き、一つの巨大な「神の雷」となって試験場を飲み込んだ。

 

 ドォォォォォォォォォォォォンッ!!

 天地がひっくり返るような大爆発。

 ガーディアンの三体は、装甲も、核も、その存在の痕跡さえ残さず、光の中に溶けて消えた。

 静寂が戻った。

 焼けた空気の匂いと、微かな放電の音が、激闘の終わりを告げている。

 




「……はぁ……はぁ……」

 陽向は、元の姿に戻った銃を抱えたまま、膝から崩れ落ちた。魔力が底をつき、指一本動かす余力もない。

 そんな彼女の視界に、ゆっくりと近づく足音があった。

「……陽向」

 顔を上げると、そこには、服をボロボロにし、満身創痍ながらも、見たこともないほど清々しい顔をした雷翔が立っていた。

 雷翔は、震える陽向の肩を、大きな手で力強く、そして壊れ物を扱うように優しく引き寄せた。

「……雷翔……? 雷翔なの……?」

「ああ。……遅くなって、悪かったな。……お前が守ってくれたから、俺、本当の自分を見つけられたよ」

 雷翔の声が、優しく陽向の耳元で響く。

 その瞬間、堪えていた感情が、陽向の瞳から涙となって溢れ出した。

「……バカ。……本当に、バカなんだから……っ! 怖かったんだよ、私……っ、独りにしないでよ……!」

「ああ、もう二度と離さねえ。……約束だ」

 雷翔は、泣きじゃくる陽向を、その太い腕で力いっぱい抱きしめた。

 陽向もまた、彼の温もりに縋るように、その胸に顔を埋める。

 

 二人の心音。

 過酷な地獄の底で、重なり合う二人の鼓動は、何よりも強く、確かな生の実感となって響いていた。


 

 抱き合う二人の背後。

 崩れ落ちた壁の向こうに、最深部へと続く、静謐な「博士の部屋」が姿を現していた。

 勝利を喜び合う二人の絆は、これから明かされる過酷な真実をも、きっと乗り越えていける力になると信じさせてくれた。

こんにちは!よつばです!

あまあま展開。雷翔もひなたも無事でよかった。

強くなったね、、

次回から6章も終盤に入ります!

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想などお待ちしてます!

次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ