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第31話:反逆の四人組(カルテット)

四人組(カルテット)「――僕が、七賢者が一人。水の賢者、『あおい』だ」


静まり返ったマンションの一室。

 僕の口から放たれた「七賢者・葵」という告白は、物理的な衝撃を伴って、三人の時間を止めていた。

 室内を満たす、現代魔法のことわりを塗り替える圧倒的な魔力圧。どこにでもいる高校生の格好をした僕の背後に、誰もが畏怖する「紺色の賢者」の幻影が重なる。

「……あ、葵……さま……。一ノ瀬くんが、本当に……?」

 陽向ひなたが、引き攣った声を漏らす。

 かりんは、組んだ指先が白くなるほど強く握りしめ、僕の瞳を射抜くように見つめていた。

「……疑ってはいたわ。君の知識、君の戦い方、そのすべてが『十級』という枠に収まっていなかったから。……でも、まさか。この国で最も気高く、最も冷徹だと言われた水の賢者が……私の隣で買い出しの荷物を持っていたなんて」

 かりんの声は震えていた。それは恐怖ではなく、あまりにも巨大な真実を飲み込もうとしようとしてのことだ。

 雷翔ライトも呆然と口を開けていたが、やがて「ふっ」と短く息を吐いた。


「……言われてみれば、そうだよな。あのクイズ大会の解き方、お化け屋敷でのあの風……。全部、普通の生徒にできる芸当じゃなかった。……クソ、俺たちは世界最強に、お節介を焼いてたってわけか」

「一ノ瀬くん……。ううん、葵さま……?」

 陽向がおどおどと僕を呼ぶ。僕は苦笑いして、首を振った。

「やめてよ。僕は、君たちの前ではただの一ノ瀬蓮だ。……みんな、ごめん。黙っているつもりだった。最後まで、君たちと普通の友達でいたかったんだ」

 僕の悲痛な告白。


 だが、次の瞬間、室内の空気は驚くほど軽やかになった。

 陽向が、いつものように「えへへ」と明るく笑ったのだ。

「いいよ! 一ノ瀬くんが葵さまでも、一ノ瀬くんは一ノ瀬くんだもん! むしろ、最強の友達がいて心強いじゃん! 誇らしいよ!」

「ああ。一ノ瀬。お前が葵だろうが指名手配犯だろうが、俺たちが今さらお前を見捨てるわけないだろ。……親友なんだ、当たり前だろ」

 雷翔が、僕の肩を力強く叩いた。

 かりんもまた、不敵な、それでいてどこか誇らしげな笑みを浮かべて頷く。

「……魔法省を阻止して、レイを救い出す。……学園祭を勝ち抜いた私たちなら、不可能じゃないわね。最強の四人組カルテット、再結成よ」

 絶望の夜に、消えない灯がともった。

 僕の胸の奥に、熱いものが込み上げる。

「……みんな。ありがとう」




 時間は残されていない。

 僕はソファに横たわるレイの元へ歩み寄った。彼女の身体は今にも霧散しそうなほど、魔素の供給が途絶えている。

「……レイ。少しだけ、ここで眠っていてくれ」

 僕は彼女の首元にある「蒼いネックレス」を手に取った。

 水の賢者としての全魔力を指先に集束させ、現代魔法では再現不可能な精密な保護術式を編み上げていく。

 青い光の糸がレイを包み込み、彼女の意識と存在を、ネックレスの中心にある宝石の中へとゆっくりと封じ込めていく。これ以上、彼女の魔素がこの世界の歪みに吸い取られないようにするための、苦肉の策。


『……蓮……。……信じて、いるわ……』


 宝石の中に消える直前、レイの声が脳裏に直接響いた。

 僕はそのネックレスを握りしめ、パーカーの下に隠すようにして首にかけた。


「――行こう。あの公園へ」




 夜の東京を、僕たちは駆け抜けた。

 かりんの氷の霧で気配を消し、陽向の魔道具で監視カメラを無効化し、雷翔の索敵で追手をかわす。

 辿り着いたのは、第一話のあの日と何も変わらない、寂れた公園だった。

 中央の広場。ネックレスが共鳴し、激しい光を放ち始める。

 だが、その瞬間――。


「――見つけたぞ、指名手配犯『葵』。……そして、その協力者共もな」

 背後から響く、冷徹な声。

 黒いタクティカルウェアに身を包んだ魔法省の執行部隊が、一斉に僕たちを包囲した。その中心には、鬼龍院仁が差し向けたであろう、古代魔法の残滓を纏った精鋭たちの姿がある。

「一ノ瀬、ここは俺たちが食い止める! 早くしろ!!」

 雷翔が雷を纏い、かりんが氷の壁を築き上げる。

 僕はネックレスを掲げ、あの日と同じ『裂け目』のイメージを脳裏に叩きつけた。

 

「――展開!! 繋がれ、始まりの場所へ!!」

 空間が、ガラスが割れるような音を立てて激しく歪んだ。

 ネックレスの光が一点に収束し、公園の中央に、真っ黒な奈落のような『裂け目』が口を開ける。

「行け!!」

 僕たちは一斉に、その闇の中へと飛び込んだ。

 背後で、魔法省の職員たちが必死に手を伸ばし、攻撃魔法を叩き込む音が聞こえる。

 だが、一瞬早く、空間の歪みは僕たちを飲み込み、パァン!! と弾けるような音と共に完全に閉じた。

 

 

 次の瞬間、僕たちの視界に飛び込んできたのは、赤黒い雲が渦巻き、硫黄の臭いが立ち込める、あの日の地獄と同じ風景。

 すべてが始まり、そしてすべてを終わらせる場所。

「……ここが、深層……」

 陽向の震える声。

 僕は背後に閉じた世界を一度だけ振り返り、ネックレスの中のレイを想って、一歩、赤黒い大地を踏み締めた。


こんばんは!よつばです!

ということで第5章も完結!

暗い話が多かった第5章だったけれど、書きたいことも書けてよかったです。

舞台は始まりの場所に戻ってきました。

物語はいよいよ最終局面。

次の章もお楽しみに!

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