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第21話:理論の深淵 十級覚醒

 国立第一魔法学園、記念すべき第一回魔法学園祭。

 二日目の朝を告げるファンファーレは、昨日よりも一層高く、秋の澄み渡る空へと吸い込まれていった。

 校内の石畳は、色とりどりの魔法投影ホログラムの紙吹雪で彩られ、模擬店の通りからは、魔法釜で一気に熱せられたソースの香ばしい匂いと、甘いわたあめの香りが混ざり合って、訪れる人々の鼻腔をくすぐっている。


『――ねえ蓮れん、あそこの『魔力綿菓子(わたあめ)』。食べるごとに色が変わるんですって。不合理極まりないけれど……少しだけ、興味を惹かれるわね』

 銀髪を秋の日差しに輝かせ、お嬢様然とした足取りで歩くレイが、ポシェットを揺らしながら屋台を指差した。

 今日の彼女は、蓮の「従姉妹いとこ」として堂々と実体化している。その圧倒的な美貌に、すれ違う他校の生徒たちが思わず足を止め、ため息を漏らすのが日常の風景のようになっていた。

「さっきイカ焼き食べたばかりだろ。ほら、もうすぐクイズ大会が始まるんだ。陽向があんなに鼻息荒くしてるんだから、遅れたら一生恨まれるよ」

『ふん。あの子の熱意には、時折、私の魔素さえも圧倒されそうになるわ。……いいわ、蓮。せいぜい、無様な姿は見せないことね』

 レイはくすくすと、鈴を転がすような不敵な笑みを浮かべ、メインホールへと続く大階段を軽やかに登っていく。



 ――メインホール。

 

 ステージ中央には、第一回の記念すべきタイトル『第1回・魔法理論大会』のホログラムが浮かんでいる。


「――さあ、皆様! お待たせいたしました!!」


 実況アナウンスの絶叫が、ホールの喧騒を切り裂いた。

 数千人の観客が放つ期待と、調整中の魔法具から漏れ出す微弱な放電の匂いで満ちたその場所は、まさに祭典の主戦場だった。



「一ノ瀬くん、こっちこっち! 早く座って!」

 客席の最前列で、陽向が大きく手を振っていた。隣には、少し照れくさそうに腕を組む雷翔らいとと、静かにステージを見つめるかりんがいる。

 レイは優雅な所作で彼女たちの元へ向かい、当然のようにかりんの隣に腰を下ろした。

「一ノ瀬、やっと来たか。……おい、頼むぞ。お前の理論は、俺たちも認めてるんだからな」

「……わかってるよ、雷翔。適当にやるよ」

 蓮が壇上へ向かう背中を見送りながら、かりんが不敵な笑みを浮かべてレイに語りかけた。

「……ふふ。他クラスの連中、今は笑っていられるのも今のうちね。一ノ瀬くんが本気で理論を解き始めたら、自分たちがどれだけ無知か思い知ることになるわ」

『ええ、その通りよ、かりん。蓮は、あんな「残りカス」のような理論を捏ねくり回している連中とは、見ている深淵が違うのだもの。……せいぜい、高い場所から見下してあげましょう』

 レイが扇子を口元に当てて同意すると、隣の陽向も「そうだそうだ! 一ノ瀬くん、やっちゃえー!」と拳を突き上げる。



 ステージ中央。


 1組の代表、佐伯拓海(さえき たくみ)が、特注の魔導ペンを弄びながら、隣の席に座った蓮を一瞥した。

「……10組は、一ノ瀬か。実技がダメな奴は、せめて座学で点数を稼がないとな。ま、10級の頭脳でどこまで耐えられるか、見物だ」

「……頑張るよ」

 蓮は努めて淡々と答えた。

 そして、運命の第1問がモニターに展開される。


「第1問!! 現代魔法の基礎、第二術式における『魔素の逆流現象』を抑える、標準的な循環定数を答えよ!」


 佐伯が計算を開始しようとした、その時、

 ――カチッ。

 誰よりも早くボタンを沈めたのは、蓮だった。

「回答。循環定数は4.21。……ただし、術式の末端を少しだけ絞れば、3.8まで効率化できます」

 ――ピンポン、ピンポン!!

 ホールに鳴り響く正解音。観客席の他クラスの生徒たちが、「えっ、早すぎないか?」「今の、10級の奴だろ?」とざわつき始める。

「……な、なんだ今の。偶然か!?」

 焦る佐伯を尻目に、クイズは中盤から後半へと加速していく。


「第15問! 古代語術式『アグニ・イグニス』の構成不備を指摘し、再構築せよ!」


 難易度が跳ね上がった。会場にいる教師陣ですら唸るような問題。だが、蓮の指先は迷いなくボタンを叩く。

「回答。第三音節の『呼吸』が抜けている。これを『真の音』で補完すれば、威力は三倍になる」



『――ふん。当然ね。あんな基本中の基本、間違える方が難しいわ』

 客席でレイが優雅に足を組み、当然の結果だと言わんばかりに鼻を鳴らす。

「……見てなさい。これからが本番よ」

 かりんが、自慢げに周囲の他クラスの生徒たちを、冷徹なまでの「賢者の視線」で見渡した。


 後半戦。問題はもはや、現代魔法の域を超え始めていた。

 最新のダンジョン解析データに基づく、未知の数式。

 佐伯をはじめとするエリートたちが、額に汗を浮かべて計算を停止させる中、蓮だけが、まるで呼吸をするように解答を積み重ねていく。


「第30問、正解!! 10組、一ノ瀬蓮選手、驚異の30問連続正解!! これで10組は単独1位!!」


 実況の声が裏返る。

 会場の空気は、もはや困惑を通り越し、一つの「怪異」を目撃しているかのような戦慄に包まれていた。

 佐伯はペンを握る手すら震わせ、椅子に深く沈み込んでいる。

(……やれやれ。これくらいでいいかな。陽向、あんなに喜んでるし)

 蓮はモニターに映る「圧勝」の文字を見つめながら、ふっと力を抜いた。

 その視線の先では、レイが「当然だ」と言わんばかりに満足げに頷き、かりんが勝利を確信した笑みを浮かべていた。



 第一回学園祭、二日目の午前。

 10級の少年が、数式の深淵から世界を嘲笑い、クラスに最初の勝利をもたらした瞬間だった。

こんばんは!よつばです!

蓮が本気を出しました!理論だけど。

学園祭はいよいよ2日目!盛り上がっていこーー!

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