第22話:発明少女の矜持
クイズ大会の会場が、一人の「十級」が残した静かな衝撃に揺れる中、第一回魔法学園祭の熱気は、昼下がりの太陽と共にその温度をさらに上げていた。
校内放送が次々と10組の快進撃を告げるたびに、校舎の窓が震えるほどの歓声が沸き起こる。
『――速報です! 魔法障害物競走、10組代表がまさかの三位入賞! さらに、魔法料理対決でも……!』
「……ふふ。一ノ瀬くんが作った流れに、みんな必死で食らいついているみたいね」
人混みの中、かりんが満足げに、隣を歩く蓮に微笑みかけた。
その隣では、雷翔が腕を組み、当然だと言わんばかりに頷いている。
「当然だ。その上あいつら、昨日のお化け屋敷の成功で、かなり自信がついている。。……ま、一ノ瀬のあの演算速度は、俺でも計算ミスを疑うレベルの速さだったがな」
『あら。蓮のあんな退屈な指遊びに、いちいち驚くなんて。人間というものは、本当に感性が豊かで羨ましいわね。……ねえ蓮、次は何を見せてくれるのかしら? 私の退屈を、もっと上等な驚きで塗り替えてちょうだい』
銀髪を翻し、特注の生クリーム増しクレープを優雅に口に運ぶレイが、くすくすと不敵に笑う。
「……レイ、歩きながら喋ると危ないよ。……ほら、急ごう。次は陽向の出番だ。遅れたら、あいつ一生根に持つからね」
4人が向かったのは、校舎裏に広がる広大な特設演習場。
そこでは、本日の目玉競技の一つ『魔道具製作・耐久試験対決』の準備が進んでいた。
ルールは至極単純。制限時間内に、支給されたスクラップ同然のジャンクパーツから「最強の防御結界」を展開する魔道具を組み上げ、実際に教官が放つ攻撃魔法にどれだけ耐えられるかを競う。
教員レベルである2〜3級の術式にどれだけ迫れるか。理論と技術の限界を競う、まさに「魔導科学」の真髄とも言える競技だ。
「――見てよ、あの陽向。完全に『職人』の目になってる」
蓮の視線の先、教壇に陣取った陽向は、鋭い眼光でパーツを検分していた。
周囲の生徒たち――平均的な8級や、優秀とされる5〜6級の生徒たちでさえ、陽向の作業台を遠巻きに眺め、警戒の視線を送っている。彼女は「10組」という枠を超え、既に学園内で「魔道具の天才」として一目置かれる存在なのだ。
「……あれは、負けないわね。彼女、あんなに熱く、真っ直ぐに燃えているもの」
かりんが呟いた、その直後。
「――製作、開始ッ!!」
合図と共に、会場にハンダ付けの激しい火花と、魔導回路が駆動する独特の高周波音が響き渡る。
陽向の指先は、まるで意識を持つ生き物のように淀みなく動いた。不要な金属片を無造作に弾き飛ばし、複雑な配線を最短距離で結んでいく。その圧倒的なスピードと迷いのない構成は、観客席の他校生たちからも「……あいつが、深層から生還したっていう発明屋か」と感嘆の声が漏れるほどだった。
だが。
完成まであと数分という極限の状況で、陽向の手がピタリと止まった。
カチ、カチ……と不吉な金属の空転音が、静まり返った演習場に虚しく響く。
「……え? うそ、魔導コンデンサが……過負荷で焼き付いてる……!? 予備、予備は……っ!」
陽向の顔から、みるみるうちに血の気が引いていく。
周囲のライバルたちが、彼女の異変に気づき、色めき立つ。
「……おい見ろ、あの天才がミスをしたぞ! 今のうちに差をつけろ!」
「陽向……っ!」
観客席の柵を掴み、雷翔が身を乗り出した。
絶望に震える陽向の細い肩。その瞳に、堪えきれない涙が溜まるのを、雷翔は見逃さなかった。
「――おい、陽向ッ!! 俯くな、馬鹿野郎!!」
静寂を切り裂く、雷翔の魂からの怒号。
「お前が昨日、三時間も粘って勝ち取ったこの舞台は、そんな安物のパーツ一つで終わるのか!? 自分の作ったもんを信じろよ!! お前の『最強』を、俺に見せてみろ!!」
陽向の身体が、電流が走ったように跳ねた。
彼女はゆっくりと顔を上げ、観客席で拳を握りしめ、顔を真っ赤にして叫ぶ雷翔を真っ直ぐに見つめる。
二人の視線が火花を散らすように重なり、陽向の瞳に、再び獰猛なまでの「発明屋」の火が灯った。
「……雷翔。……あんたにそんなこと言われたら、無様な負け方なんて、死んでもできないじゃん!」
陽向は壊れたコンデンサを迷いなく投げ捨てると、自分の髪を留めていた使い古された「ヘアピン」を引き抜いた。
『……あら。あの子、自分の髪飾りに魔素を強制循環させて代替回路にする気かしら? 人間の「無茶」という術式、案外、嫌いではないわよ』
レイが面白そうに銀色の瞳を細める。
――10分後。
教官の放つ強力な火炎魔法の濁流が、演習場を飲み込んだ。
他クラスの魔道具が次々と悲鳴を上げて砕け散る中、陽向が掲げた「ヘアピンを核にした歪な機械」からは、透き通るような、それでいて鉄壁の青い幾何学模様の結界が展開されていた。
「――勝負あり!! 優勝は……10組、火野陽向!!」
爆発的な歓声の渦。
陽向は乱れた髪をそのままに、教壇の上で、最高の笑顔で雷翔に向かって、指先を高く突き出した。
「……ふぅ。一時はどうなるかと思ったけど、相変わらずあの二人は、見ていて飽きないね」
蓮が安堵の溜息を漏らすと、レイが当然だと言わんばかりに頷いた。
『ええ。人間の『感情』という不確定要素。……たまには、計算通りの理論よりも、あんな熱いだけの叫びの方が、世界の理を動かすこともあるのかしらね』
演習場に舞い落ちる火花の粒子が、夕刻の光に反射して金色の砂のように煌めいている。
勝ち誇る少女の笑顔と、それを眩しそうに見つめる少年の横顔。
第一回学園祭、二日目の午後は、未完成な若者たちが放つ情熱という名の魔法によって、どんな高位術式よりも鮮やかに、秋の記憶を塗り替えていった。
こんばんは!よつばです!
今更感はあるのですが、この後書を読んでる方はいるのでしょうか?
思えば有名作品なんかは後書きがないこともあり、作品に没頭できるのです。
でも私は好きなので後書きを書きます!
話は変わりますが、私はいつも物語を書き終わった際、aiに誤字脱字添削をしてもらってます。でも最近はちょっとめんどくさくてしてしてないので、誤字脱字あったらごめんなさい。報告お願いします。
さて、学園祭も終盤に差し掛かってきました。次回もお楽しみに!




