第19話:開幕!魔法学園祭
学園祭当日。
秋晴れの空に、開門を告げるファンファーレが鳴り響いた。
国立第一魔法学園の正門が解き放たれると同時に、新宿の街から待ちわびていた一般客や他校の生徒たちが、濁流のように校内へと流れ込んでくる。
校舎の壁面には魔法投影による色鮮やかな看板が踊り、模擬店の通りからは、魔法釜で一気に炊き上げられたソースの香ばしい匂いが漂っていた。
「……うわ、すごい人だな」
僕はクラスの出し物である『極限・魔法お化け屋敷』の入り口付近で、客整理のプラカードを手に立ち尽くしていた。
陽向が昨晩まで心血を注いだギミックの噂は、SNSを通じて瞬く間に広まったらしい。入り口の前には、既に校舎を半周するほどの長蛇の列ができていた。
『あら。人間という生き物は、わざわざ恐怖を買いに並ぶのが好きなのね。……ねえ蓮、私があそこに混ざって、本物の「絶望」をトッピングしてあげましょうか?』
肩の上のレイが、可笑しくてたまらないといった様子で囁く。
(……レイ、絶対にダメだよ。今日はただの学園祭なんだから。……おっと、通信だ)
僕の耳に装着された小型の魔法通信具から、冷徹な声が響いた。
『――一ノ瀬くん。聞こえる? ターゲットは今、入り口の受付を通過したわ』
声の主は、作戦本部(という名の受付裏)に陣取る雪城さんだ。
彼女の指示通り、僕は周囲を警戒する。
『陽向は「自分の作った仕掛けの反応が見たい」と言って、雷翔を誘ったわ。……作戦フェーズ、開始。一ノ瀬くん、君の「風」で、彼らを最短ルートで最奥の「密室ポイント」へ追い込みなさい』
僕は溜息を押し殺し、人混みの中に二人の姿を探した。
自分の傑作を前に鼻息を荒くしている陽向と、彼女の予備バッテリー代わりの魔石を抱え、律儀に後ろをついて歩く雷翔だ。
「よし……行こう、レイ」
『ええ。……精霊の力をこんなことに使うなんて、博士が知ったら泣くでしょうね』
僕は目立たないように指先を動かし、微弱な「風」を編み上げた。
お化け屋敷の内部は、陽向がジャンクパーツから組み上げた特殊な術式により、視界が極端に制限されている。そこへ僕が、さらに「闇」の密度を上げる風のカーテンを張る。
「うわっ!? ……おい、陽向。急に暗くなったぞ。こっちであってるのか?」
「ええっ? おかしいな、センサーの感度上げすぎたかな……きゃああっ!?」
陽向の足元で、僕が「風」を使って小石を跳ねさせる。
バランスを崩した陽向。それを反射的に支える雷翔。
『――いいわ。素晴らしいわ、一ノ瀬くん。そのまま、右の通路を「壁」で塞ぎなさい。彼らに残された道は、最奥の袋小路……通称「告白の小部屋」だけよ』
かりんさんの通信は、もはや戦場カメラマンのような興奮を帯びていた。
僕は言われるがまま、無詠唱で不可視の風の壁を構築し、他の客が迷い込まないよう誘導しながら、二人だけを特定のルートへと押し流していく。
だが、ここで予期せぬ事態が起きた。
『蓮。……今のままだと、あの雷翔って子、冷静すぎてちっとも隙がないわ。……少しだけ、私が「演出」を手伝ってあげる』
「え、ちょっとレイ――!?」
止める間もなかった。
レイは実体化を解き、幽霊の姿となってお化け屋敷の天井裏へと消えた。
直後、屋内からは、今日1番の悲鳴が聞こえた。
「な……ッ!? 今の、なんだ!? 陽向、俺のそばを離れるな!」
「ら、雷翔……怖い、今のマジで怖いよぉ……っ!」
暗闇の中、雷翔が陽向の肩を抱き寄せ、守るように歩を進める。
レイの放った冷気が、室内の温度を劇的に下げ、恐怖をリアルな生存本能へと変えていく。
『……完璧よ。一ノ瀬くん、見て! ターゲットが袋小路の最終ポイントに到達したわ!』
通信具越しに、かりんさんのガッツポーズをする音が聞こえた気がした。
僕は通路の影に身を潜め、二人の様子を伺う。
そこは、陽向が「一番の自信作」と言っていた、お化け屋敷の出口付近の映えエリアだ。出口の扉は、外から僕が「風」で固定した。
「……あ、あれ? ライト、扉が開かないよ?」
「……故障か? それとも演出か? ――おい、陽向。……そんなに震えるな。俺がついてる」
真っ暗な、二人きりの空間。
雷翔の声が、かつてないほど優しく、そして震えていた。
陽向が、彼の制服の裾をぎゅっと掴む。
外で見守る僕の隣に、満足げな顔をしたレイがスッと戻ってきた。
『……ふん。いい雰囲気じゃない。これなら、鈍感な彼らでも「何か」に気づくかしらね』
「……レイ。君、やりすぎだよ。後でまたお説教だからね」
僕は苦笑いしながら、扉の向こうから聞こえる、二人の小さな心音を数えていた。
平和な学園祭、初日の午前。
世界最強の魔術師(僕)と、銀髪の精霊、そして氷の軍師。
大人たちの汚い利権争いも、魔法省の陰謀も届かないこの場所で。
僕たちはただの高校生として、不器用な恋の行方を、静かに見守っていた。
こんにちは!よつばです!
自分たちで作った出し物でそんなにビビるか!!というツッコミが聞こえてきそう、、一応前日の魔法省関連と蓮によって、2人の進路は少し変わっているからそれで許して!
そんなわけで学園祭。みんなが楽しめてそうで嬉しいです!
学園祭は、まだまだ続きます!




