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第18話:恋の策略 忍び寄る影

 学園祭前日。

 夕暮れ時の演習教室は、段ボールの切り屑と、魔法具のハンダ付けの匂い、そして祭りを待つ若者たちの浮ついた熱気に包まれていた。


「――いい、一ノいちのせくん。これが明日の『雷翔ライト陽向ひなた急接近計画書』よ。一文字たりとも読み飛ばさないで」

 雪城かりんが、分厚い計画書を僕の机に叩きつけた。

 中から出てきたのは、もはや軍事作戦かと見紛うほどの密なスケジュール表。分刻みで記された誘導ルートと、想定される雷翔の動揺パターン、それに対する僕の「誘導セリフ」まで網羅されている。

「……雪城さん、これ、気合入りすぎじゃないかな。……っていうか、僕の役割、多すぎない?」

「当然よ。一ノ瀬くん、君は雷翔の親友でしょ? 彼を自然に『魔法お化け屋敷』の最後尾へ誘導し、陽向と二人きりにする。……失敗は、許されないわよ?」

 不敵に笑うかりんの背後で、氷の魔力が微かに揺れた気がした。脅しじゃない、これは「本気」だ。


 一方で、ターゲットの二人はといえば。

「おい、陽向。こっちの回路、魔素が逆流してるぞ。……危ねーから、俺が絶縁しといてやる」

「あ、ありがとライト! さすが、頼りになるぅー!」

 相変わらずの距離感。だが、深層を経て、雷翔の陽向を見つめる瞳には、以前よりも増して「守らなければ」という強い意志が宿っている。

 ……そんな二人を、恋の迷宮へ突き落とそうとする参謀。

「……わかったよ。やるだけやってみる」


 僕は生返事をしながら、窓の外に目を向けた。

 夕闇が迫る校舎の屋上に、不自然な「歪み」が一つ。

 それは、生徒たちの歓喜とは無縁の、冷徹な監視者の魔素だった。




 深夜。

 時計の針が一時を回った頃、僕は「買い出しの忘れ物」を装って、静まり返った校舎に足を踏み入れた。

 

れん、三階の第一演習室よ。ねずみが三匹、陽向の試作品をいじっているわ』

 肩の上のレイが、冷たく告げる。

 足音を消し、闇に溶け込みながら廊下を進む。

 演習室の扉が、わずかに開いていた。中では、黒いタクティカルウェアに身を包んだ男たちが、陽向が開発した『ホロ・プロジェクター』に、不審な魔導チップを埋め込もうとしていた。

「……よし、これで明日、特定の波長で暴走する。……混乱に乗じて、開発者の少女と『深層生還者』を確保するぞ」

 男たちの低い声。

 拉致のための下準備。

 平和な学園祭を、彼らは「狩場」に変えようとしていた。


「……やれやれ。大人の事情ってやつは、いつだって不粋だな」

 僕が暗闇から声をかけると、男たちが一斉に振り返った。

「何者だ!? ――ぐあぁっ!?」

 彼らが魔法を『展開』する暇すら与えない。

 僕が指を軽く弾いた瞬間、室内を満たした「不可視の風」が、真空の刃となって男たちの手足を縛り上げ、壁へと叩きつけた。

「な……!? 詠唱も、構成もなしに……ッ! お前、何者だ!」

「ただの掃除屋だよ。……悪いけど、明日は友達の大事な日なんだ。汚い足跡を残さないでくれるかな」

 僕はゆっくりと歩み寄り、彼らが埋め込もうとしたチップを指先で粉砕した。

 現代魔法のことわりでは説明できない、空間そのものを削り取る風。

 

『蓮、こっちの男、魔法を仕込んでいるわ。……少し痛めつけてもいいかしら?』

 レイが実体化し、銀髪を翻しながら男の喉元に氷の針を突き立てる。

「……命までは取らなくていい。ただ、明日の学園祭が終わるまでは、魔法省に連絡できないように『眠って』もらう」

 僕は彼らの記憶の一部を魔素で塗り替え、意識を刈り取った。

 明日の朝、彼らは「深夜の警備中に居眠りをした」という記憶と共に、校門の外で目を覚ますことになるだろう。




 翌朝。

 雲一つない秋晴れ。

 校門には色とりどりのアーチが飾られ、開門を待つ一般客の行列ができていた。

「――一ノ瀬くん、おはよう。準備はいい?」

 登校した僕の耳元で、かりんが不敵に囁く。

 彼女の手には、昨日よりもさらに分厚くなった「作戦指示書」が握られていた。

「……ああ。完璧だよ、雪城さん」

 深夜の死闘など微塵も感じさせない、いつもの「冴えない十級」の顔で、僕は微笑んだ。


 平和な恋の策略と、血の匂いのしない闇の掃除。


 世界の命運を握る少年の、あまりにも忙しい「学園祭当日」が、今、ファンファーレと共に幕を開けた。


こんばんわ!よつばです!

これを書いている現在、私の浪人が確定しました。泣きそう。私はもう少し描きたいけど予期せぬことがあるかもしれない。ここまで読んでくれた方のために結末までは書き切りたい!ちなみに50話構想で書き始めているので、半分くらいはきたかな?とりあえず今は全力で書きます!勉強も執筆も応援よろしくお願いします!

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