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第17話:買い出しカルテット

放課後の新宿は、魔法と科学が混ざり合った独特の熱気に包まれていた。

 かつての高層ビル群の間を、最新の浮遊型広告ドローンが飛び交い、路地裏からは魔導回路のハンダ付けをするような、焦げ付いた匂いが漂ってくる。

 僕たち「買い出しカルテット」は、陽向ひなたの手書きのリストを手に、この魔都の雑踏を縫うように歩いていた。


「見て見て! この『残像投影機ホロ・プロジェクター』、型落ちだけど回路をいじれば、お化け屋敷の幽霊役にピッタリじゃない!?」

 陽向がジャンクショップの店先で、子供のように瞳を輝かせる。

 その後ろでは、既に両手に何袋もの部品や資材を下げた雷翔ライトが、額の汗を拭いながら溜息をついた。

「……重い。陽向、お前予算の計算してるか? 闇雲に買っても、設置場所がねーぞ」

「大丈夫だって! 一ノ瀬くんが完璧な帳簿をつけてくれてるもん。ね、一ノ瀬くん!」

「あ、ああ。……一応、あと三千円くらいなら余裕があるよ。さっきの店で、雪城さんが値切ってくれたおかげだね」

 僕は手元のメモ帳をめくりながら答える。

 実際には、僕が店主との交渉の際、指先でわずかに魔素を揺らして、店主の深層心理に働きかけていた。「この客にはサービスしておこう」という、ほんの少しの幸運を演出する。平穏を維持するためには、限られた予算を賢く使うスキルも必要なのだ。

「ふふ、一ノ瀬くん。君って意外とお買い物上手なのね。……それとも、何か魔法トリックでも使ったかしら?」

 かりんが、不敵な笑みを浮かべて僕の横に並び、耳元で囁いた。

「……ただの節約術だよ、雪城さん」

 そんなやり取りをしながら歩いていた、その時だった。


「やっほー! ってか、放課後になんか超仲良しグループ発見しちゃったんだけど! マジ運命すぎ!」


 人混みを真っ二つに割って現れたのは、派手な金髪サイドポニー。

 魔法衣をギャル風に改造して着崩し、片手にはタピオカドリンクを持った少女――七賢者が一人、炎の魔女・不知火 煌々(しらぬい きらら)だった。

「……っ、きらら様!? どうしてここに……」

 雷翔が、反射的に荷物を置いて直立不動の姿勢をとった。

「あー、深層の時の子たちじゃん! 傷、もう治った感じ? マジ良かったわー。ウチ、あの後超心配してたんだから、マジで!」

「きらら様……あの時は、本当にお世話になりました」

 陽向が深く頭を下げる。きららは「敬語とかマジ勘弁! ウチのことは、きららって呼んでよ!」と豪快に笑い飛ばし、僕たちの輪の中にずいと割り込んできた。

 そして。

 彼女の緋色の瞳が、スローモーションのように動き、僕の顔を正面から捉えた。

「……んー? ってか、一ノ瀬くん、だっけ? 君……なんかどっかで会ったことない? その……魔力の『匂い』っていうかさー……波長が、ウチの知ってる人に超似てんだよね。……マジで、瓜二つってレベルでさ」

 ドクン、と心臓が早鐘を打つ。

 変装の術式は完璧なはずだ。だが、炎という激しい属性を操る彼女の直感は、隠蔽ステルスを突き抜けて、魂の輪郭に触れようとしていた。

『蓮、動揺を見せちゃダメ。……今、貴方の心拍が0.1秒乱れたわよ』

 肩の上のレイが、氷のように冷徹な念話を飛ばす。

「……いえ。僕はただの十級ですから。……きららさんのような雲の上の存在とお会いしたことは、一度もありません」

 僕は努めて感情を殺し、無機質な声を出す。

 きららは、じっと僕の目を見つめたまま、数秒間の沈黙を保った。新宿の喧騒が遠のき、彼女の放つ熱気だけが肌を焦がすような錯覚に陥る。

 やがて、彼女は「てへぺろ」と、可愛らしく舌を出して笑った。

「あはは! そっか、ウチの勘違いかな! ごめんごめん、変なこと言っちゃって! 学園祭の準備でしょ? マジ頑張ってね。ウチもサプライズで遊びに行っちゃうかもよー!」

 空気を読めるお姉さん、というべきか。彼女はそれ以上追及せず、ヒラヒラと手を振って、雑踏の中へと消えていった。

 ……危なかった。

 隣のかりんが、去り際のきららと僕を、品定めするような鋭い視線で見つめていたのが、何よりの不安要素として胸に残った。




 翌日。学園の演習教室は、陽向が持ち込んだ大量のジャンクパーツと段ボールで溢れかえっていた。

「よーし! 買い出しもバッチリ。私たちのクラス展示は、魔法具を駆使した『極限・魔法お化け屋敷』で行くよ! コンセプトは、現代魔法の限界を超えた恐怖!」

 陽向の宣言により、準備は一気にギアを上げた。

 陽向は、昨夜から一睡もしていないのではないかというテンションで、最新の投影機を分解し、独自の魔導回路を組み込んでいく。

「雷翔、ちょっとテストプレイヤーやってみて! 恐怖で魔力が乱れると、センサーが反応してギミックが動く仕組みなの! 最強の六級である雷翔が驚けば、一般のお客さんは腰抜かすはずだから!」

「……なんで俺なんだよ。……わかった、行けばいいんだろ、陽向」

 渋々暗幕の中へ入っていく雷翔。

 数分後。

「うわぁっ!? おい陽向! なんだ今の、氷の幽霊は! リアルすぎるだろ、本物の霊かと思ったぞ!」

 慌てて飛び出してきた雷翔を、陽向が「大成功ー!」と抱きつかんばかりの勢いで喜ぶ。

 真っ赤になって顔を背けながらも、どこか嬉しそうな雷翔。

 

 その光景を眺めながら、かりんが僕の耳元で密やかに囁いた。

「……ねえ、一ノ瀬くん。あの二人、本当にお似合いだと思わない?」


「……え?」


「学園祭当日。あの二人を、二人きりにしてあげましょう。作戦名、『学園祭カップリング作戦』。……一ノ瀬くん、君も当然協力するわよね?」

 不敵に笑うかりん。


 一方で、僕は校舎の屋上に、不自然なほど静かな魔力反応を感じ取っていた。

 陽向の技術を狙うのか、あるいは僕たちのデータを欲するのか。魔法省の、冷たく濁った影。

(……やれやれ。カップリングの策略に、魔法省……今年の学園祭は、僕の人生で一番忙しくなりそうだ)

 学園祭まで、あと三日。

 祭りの喧騒の裏で、運命の歯車が静かに、そして確実に回り始めていた。


こんばんは!よつばです!

次回からはついに学園祭。かりんの大作戦に魔法省の影。はたしてどうなるのか?

次回もお楽しみに!

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