㉕ 体育祭トーナメント (side:ウィリデ)
カティアのやつ、完全に説明をめんどくさがったな。あと、オレらで商売するな!普通に不敬だろ。
高笑いが聞こえそうなほど浮かれたカティアの声にウィリデはため息をつく。
ウィリデは杖で素早く複雑な魔術陣を書き上げる。
精霊たちが陣に込められた魔力を求めて集まる。
「“風の刃”」
ウィリデは緑色に染まっている大量の風の刃を敵味方関係なく乱射する。
ついでに日々のアレクへの恨みも込める。
「”防御壁“」
一瞬で相手の方にはタクトを持った魔術師の女は男と一緒に包み込むように防御結界を張った。
風の刃は壁に当たると消えていった。
だろうな。
わかりきっていたことにウィリデはさして驚かない。むしろ、これくらいすぐさま対処し、味方を守ることもできなければ、この学園の教師など務まらない。
この学園は生徒よりも教師の方が危険なのだ。
一歩間違えた判断を教師がくだせば自分も、生徒も死ぬ。
そういう場所なのだ。
「ウィリデ、俺にも当てに来たな?」
アレクの方は絶対に見ない。
ウィリデの後方では今にもその木刀で刺殺さんばかりの殺気を垂れ流していたのだ。こういう時のアレクはマジでするから、振り向いたらおわる。
「き、気のせいだろ?たまたまだ」
「それで、貴重な一回を消費したのか?随分と甘い魔力操作のようだな、一から修行し直すか?」
アレクの顔を一切見ず、ウィリデは冷や汗も凍りつきそうなほどの冷たい視線を受けながら答える。
ウィリデとアレクの腕についている見慣れない石のついたブレスレット。
これは魔石である。この石は一定の魔術の余波などでも魔力を溜める、それが限界に達すると、その時点で文字通り弾け飛ぶのだ。
カティアからウィリデとアレクは失格条件を追加されている。それはこの石が割れた時点で棄権をすること。
つまり、回数制限がかかっているにも関わらず、先ほどウィリデは2回分を使ったようなものなのである。
言い合っている間に相手は魔術陣を構築し始めた。
ウィリデはそのことをわかっていながらも防御壁を展開せずただ突っ立ったまま、不敵な笑みを浮かべている。
「じゃあ、アレクはあっちの男の方な」
「わかった」
ほんの一瞬の会話で、アレクは魔術師の女性教師の方ではなく、もう1人の屈強な男の方へと向かう。
一瞬で間合いに入り、木刀を振りかざすアレクを横目に、ウィリデは杖を持ち直した。
さて、やりますか。乗り気はしねーけど。
「“水の弾丸”」
魔術陣が完成すると、水球が宙にいくつも浮き、ウィリデを目掛けて飛んでくる。
ウィリデは無言でそれらの間を走り抜け、無傷で立っている。
「じゃあ次、こっちの番な。面倒だけど、カティアに多少のパフォーマンスはしろって言われてんだよ」
ウィリデは気だるそうに杖を動かす。
一瞬で出来上がった先ほど放たれたものと同じ魔術陣。
「“水の弾丸”」
ウィリデから放たれた魔術は先ほど撃たれたものよりも精度が高く、数も多い。それなのに込められている魔力は少ない。
避けきれない。
圧倒的な実力差にそう思わざるを得ない、自分たちが相手にしてきた者の異常さと、自身の弱さを痛感したウィリデの目の前の対戦相手は両手を挙げる。
「棄権します」
静かにそう告げた。
誰も野次を飛ばせない。
たとえ同じフォルトゥーナ学園の教師であれど、ウィリデのやったことは誰の目から見ても”異常“だったのだ。
小話
相手が棄権してしまい展開した魔術をどうするか迷っているウィリデの心
「展開した魔術どうしたらいいんだ?消せるけど、その分魔石が吸っちゃうしな〜。アレクの方にやるか。うん、援護射撃、援護射撃」




