③サクラの出会い
以前、この木についての絵を見たことがあった。
その写真があまりにも綺麗に撮られていたため、ルナはいつか本物を見てみたいと思いを馳せていた。実際に機会がなく断念したが、来てよかったと思えた。
名は確か
「サクラ」
「桜だ」
ルナと重なるもう一つの声。
周囲には誰もいないと思っていたのか、それともこの見事な桜並木を見に来たのだろうか。
ルナと同い年くらいの少年がこちらを凝視している。
ここまで綺麗な黒目黒髪は珍しいわね。
黒曜石のような瞳と同色の髪、本人の気配も相まって優しい印象を与える。
ルナも思わず、少年を食い入るように見てしまった。
「あなたも、学園に入学するの?」
ルナは少年がアストと同じ制服を着ていたため、会話を広げようとする。
「そうだが、君もか?」
「ええ、兄と入学するの」
「兄?」
この場にはルナしかおらず、少年が困惑するのも無理はない。
兄さんはどこで道草を食っているのよ。
ルナは列車を降りてすぐにテンションが上がってしまい、そのままどこかへ行ってしまった兄に内心憤りを覚える。
ルナが探しに行かないのは、アストはすぐに迷子になるのに、最終的にきちんと戻ってくるからである。
下手に探して迷子が増えるよりも、のんびりと待っていれば戻ってくるなら、誰だって後者を選ぶ。
身内であるルナはそのことをよく知っている。
「おーい、ルナ!学園はこっちだって!!」
「兄さん!そっちは逆方向よ!!」
噂をしていたら、アストが戻ってきた。
真っ直ぐ、海の方を指すのだからルナは頭が痛くなる。加えて、この場には見ず知らずの少年もおり、身内の恥を晒している気分だ。
補足するならば、ルナは地図を見て行こうとした、しかし、その前にアストがどこかへ行ってしまったのだ、
方向音痴なのに。
先導する者がいなければ、真逆方向に突き進み、真っ先に迷子になる方向音痴なのに。
「なんだ、もう友達ができたのか?ボクがいない間に」
何事もなかったかのように、ふてくされながら隣にくるアストにルナは若干苛立ちを覚える。
毎度毎度、自覚がないから恐ろしい、誰のせいで私は余計な時間を過ごしていると思っているのだろうか。
「初めまして、ボクはアストだ。よろしくな」
ルナの恨みを知らず、アストは少年に挨拶をする。
「俺はツバサだ。こちらこそよろしく」
ツバサと名乗った少年は差し出されたアストの手を握る。
完全に名乗るタイミングを逃してしまったルナ。
今、言うべきか戸惑ってしまう。
「よろしく、…えっと…ルナ…さん」
「ルナでいいわ。よろしくね、ツバサ」
完全に気を遣われてしまったが、改めて自己紹介ができたため、まあ、良いだろうとルナは無理矢理自分を納得させる。
「ああ!!」
アストが不意に声を上げた。
「ルナ、時間!」
焦りの混ざった声にルナは慌てて時間を確認する。
時刻は10時を過ぎたくらい。
そして、学園長に呼び出されたのは11時。駅から学園まで歩いておよそ1時間くらい、ギリギリだ。
「急いでいたのか。引き止めちゃってごめんな」
謝ったツバサにルナは罪悪感を抱く。
元を辿れば、好奇心に負けたアストと、時間をしっかり見ていなかったルナも悪いのだから。
次からは兄さんは置いて行こう。
そう何度も思ってはいるが、結局付き合ってしまうのはなんともルナらしい。
「ううん、こちらこそ。また、午後の入学式でね」
二人は大きなトランクケースを担ぎながら、学園の方へと走る。
もちろん、ルナを先頭にして。
お気づきかもしれませんが、1章①の少年はアストなのですが、しっかりと迷って、ルナが先導しました。
列車に乗る時間がギリギリだったのは、途中で行き止まりに引っかかったからです。
小話
「あれ?」
「はぁ」
これで、4回目だ。もうそろそろ、列車も着いてしまっている頃だろう。
「今度こそ!!」
「もうやめて、これ以上は本当にだめ」
猪突猛進に走り出そうとするアスト。
もうそろそろ、体力の限界が近いルナ。
「私が前に行くから!!」
ちゃんと、間に合いました。
2026/02/20 加筆修正




