3話 神の試練
辺りを見回すと、十人程近くにいるのに気づいた。
皆同い年くらいだ。
いくつかの輪が出来ている。
知り合い同士で話し合っているようだ。
何人かと目が合うと、軽く会釈された。
どうやら無視されているわけではないらしい。
深呼吸をしていると、リイナの声がした。
「神の試練を受ける方はこちらへどうぞ」
カウンター横のドアが開かれ、ぞろぞろと皆が動き出す。
俺も後をついていく。
リイナと目が合うと、ぱちりとウインクされた。
期待されて悪い気はしない。
思わず顔がにやけてしまう。
「それでは一人ずつ、ライセンスカードの提示をお願いいたします」
案内された小部屋の隅に机が置かれている。
リイナが反対側に座り、書類に何か書き始めた。
皆が一列に並ぶ。
俺は最後尾に立った。
鎧や剣が目立つが、魔女っ娘やリザードマンもいる。
寝巻替わりのジャージを着て短剣二本を腰に下げた俺はさぞ滑稽に見える事だろう。
どうやらジョブの有無を確認されているようだ。
俺のライセンスカードもジョブは無しになっている。
皆も冒険者登録をしたばかりの駆け出しか。
ホッとした。
試練と言っても、どうやら危険ではなさそうだ。
ライセンスカードを提示し、一人ずつ番号札を受け取り、反対側へと移動していく。
ゼッケンのような番号札を服に張り付けると仮装マラソン大会のようだ。
全員の確認を済ませるとリイナが説明を始めた。
「神の試練は当ギルドの地下ダンジョンにて行われます。ここにいる全員で入り、最深部の神の祭壇へと辿り着けた方は世界神からジョブを授かることができます」
ちょいまて。
この下にダンジョンがあるんかい。
それに世界神て。
神の祭壇て。
「これは、世界を創造された世界神の試練です。しかし、世界神は信者を従えません。したがってどの宗派の方でも神の試練を受けることが可能です。もちろん、無神論者でも問題ありません」
ああ、なんだ。びっくりした。
どんなヤバい宗教の勧誘かと思ったよ。
「試練中の行動や各々の才能を鑑みて、世界神があなたに最も適したジョブを授けてくださいます。ご存じでしょうが、ジョブにも色々な種類があります。それぞれに獲得条件があるので、ある程度は狙ったジョブに沿って行動をすれば、それを授けていただけるでしょう」
なるほど。
剣士のジョブを得るには剣を使う、とかかな。
そういえば魔法使いの甥が素手でモンスターを倒したら拳闘士になった、ってジュリアが言ってたな。
「試練中は監視魔法が展開されます。危険を感じたら両腕でバツの字をしてください。ギルド職員が迎えに行きます」
ほうほう、途中でやめることもできる、と。
「最後に、神の試練は毎週行われます。今日失敗しても来週また挑戦できるので、無理はしないでください」
ん?
え、週一?
ジュリアさん、今日でなくてもよかったんじゃね?
「それでは皆さん、頑張ってくださいね」
ドアが開かれ、地下へと続く階段が現れた。
冷たく淀んだ空気が部屋の気温を下げた。
皆の顔が引き締まる。
心臓がうるさい。
怯えや緊張に高揚感が入り混じった妙な鼓動だ。
俺にはどんなジョブが与えられるのだろうか。
階段を降りると、小部屋にでた。
岩を重ねて出来ているような、洞窟風の小部屋だ。
「よし、みんな揃ったな。じゃあ行こうか」
革の鎧を着た剣士風の男の子が言った。
立派な装備なのに顔が幼いのが残念な印象だ。
サイズも合っていない。
まるでパパのスーツを着た子供のようだ。
浮足立って一本道を歩き始めるパパスーツ。
皆もぞろぞろとついていく。
かなりの大所帯だ。
とりあえず皆について歩くことにした。
こんなところに一人でいられるか。
待ってー。
石だらけで殺風景な通路を歩く。
しばらくすると、自然と三つのグループに分かれてしまった。
先頭を歩くのはパパスーツ。
その隣には、身の丈ほどある盾を軽々と担ぐ丸い甲冑。
ピッタリした服を着てメリケンサックを両手に持つポニーテール。
顔色が悪く、覆面で顔の下半分を隠している中二君。
数歩下がって、毛皮やら鳥の羽やらを体中にくっつけたリザードマン。
最後尾には、一昔前の教会に居そうな、聖女っぽい恰好をした金髪少女。
つばの広い三角帽子をかぶった魔女っ娘。
そして俺。
合計八人。
俺ってこんな後ろで良いのか。
可愛い女の子二人に挟まれてるから良しとしよう。
辺りを警戒しながら進んでいくと、前方から声がした。
十字路にでたらしく、どの方向に行くか話し合っているらしい。
「斥候の俺に任せろ。サーチ」
中二君が言い放つ。
なにやらブツブツと唱え始めると、魔法陣が浮かび上がった。
すごい。
魔法だ。
やっぱりこの世界には魔法があるんだ。
カッコいいな。
俺も魔法使ってみたいな。
目を輝かせてマホーマホー呟く俺を横目でみる魔女っ娘。
やめて、恥ずかしい。
中二君が魔法を唱えていると、甲冑がいきなり盾を左に構えた。
何かがぶつかって鈍い音がダンジョンに響く。
床に何かが落ちたのを見て、リザードマンがすかさず飛びかかった。
喰いつくのかと思ったら、両手で地面の蝙蝠を拾い上げた。
リザードマンの掌からでも零れ落ちるようなジャンボサイズの蝙蝠だ。
なにやら話しかけている。
次の瞬間、蝙蝠を半透明の球体が覆った。
タブレットのそれよりもかすかに黄色い。
すると蝙蝠が羽ばたき始め、リザードマンの周りを飛び始めた。
「流石ね。あの一瞬でテイムしてしまうなんて」
魔女っ娘が言う。
え、テイムしたの?
怪しいシャーマンかと思ったらテイマーだったのか。
「テイマーのジョブなのか?でも神の試練を受けてるってことはジョブ無しのはずだけど」
「リザードマンの種族別特異体質技よ。テイマーのジョブ無しでもモンスターをテイムできるの」
特異体質って、なんて理不尽な。
リザードマンがテイムしたばかりの蝙蝠を放ち、十字路の真ん中で佇んだ。
しばらくしてから蝙蝠が戻ってきた。
こっちだ、とリザードマンが右の道を進み始める。
十字路をいくつか通り過ぎ、真っすぐ進む。
何本目かの道で階段を見つけた。
歓声が上がる。
中二君が舌を鳴らした気がしたが、口が見えないので何とも言えない。
パパスーツが意気揚々と先陣を切り、地下二階へと潜った。
ダンジョン攻略が怖いほど順調に進んでいく。
「サーチ。前方に2匹確認。来るぞ」
中二君が斥候役を勤め、モンスターをいち早く察知する。
「どりゃあああ!そっち流すぞい!」
「任せろ!」
「問題...無い」
甲冑が盾を構えて突進し、モンスターを左右に分ける。
パパスーツとポニーテールが各個撃破していく。
しかし敵は前方からだけとは限らない。
横穴から飛び出してくる敵は、リザードマンが自前の爪や牙で撃退する。
返り血を浴び、咆哮を挙げながら縦横無尽に飛び回る。
「ファイアボール!」
「ヒール」
飛んでいるモンスターや物理攻撃が効かないスライムの様なモンスターは魔女っ娘が担当し、怪我人が出たら金髪少女が手当てをする。
「あんたらも魔法とか使えるのか」
「もちろん。魔法と聖魔法はヒュムとエルフそれぞれの種族別特異体質技よ。その中でもファイアボールとヒールは基礎中の基礎」
「アイツのサーチってのは?あれも魔法だろ」
「サーチは狩猟スキル。ダークエルフの種族別特異体質技よ。あなたこんなことも知らないで冒険者になったの?」
ダークエルフなんてカッコイイ種族なのか。
顔色が悪いだけかと思ってた。
「田舎者なんでね」
説明が面倒くさいので自分は田舎者という事にする。
「ふうん」
釈然としない顔つきだが、魔女っ娘は深く追求してこなかった。
それにしても、寄せ集めでこれだけ連携が取れるとは。
なかなかどうして、良いパーティーではないですか。
ネトゲなら即フレ申請してますよ。
そんな中、俺はというと。
最後尾で只々皆をじっと観察していた。
柔道の心得はあるが、いかんせんスポーツの枠を出ない。
実戦ではどう動いて、どう連携を取れば良いのか全く分からない。
だから皆を観察して、それを見極めようとする。
聞かずに見るだけなのは、それが自分の中で普通だからだ。
両親は物を教えるのが得意なほうではなかった。
下手な説明を聞くよりも見て覚えろといわれてばかりだった。
物心つく前からそう教育されてきたから、人を観察するのが当たり前なのだ。
だが人にジロジロと見られるのは気持ちのいいものではない。
同じクラスの女子が数学の問題を解くのを見ていたら、誤解を招いて放課後に袋叩きにあったこともある。
それがきっかけで柔道を始めたわけだが。
そうこう考えているうちに中二君が次の階段を見つけた。
ドヤ顔の中二君に続き階段を降りると、教室くらいの大きさの部屋にでた。
そこは洞窟の中とは思えないほど鬱蒼としていた。
樹木が生い茂り、天井や木々を覆い尽くしている苔が蛍のように不規則に発光している。
妖精の森に迷い込んだのかと思ってしまった。
小部屋の中心辺りがぽっかりと空いている。
そこに軽自動車ほどの大きさの長方形の物体が置かれている。
エジプトの古墳にあってもおかしくない石造りのオブジェだ。
あれが神の祭壇か。
たった3階層のダンジョンだったのかよ。
拍子抜けだ。
呆れた俺とは逆に、皆は歓喜の声を上げている。
何はともあれ、ゴールしたぞ。
これからジョブがもらえるかと思うと胸が踊る。
皆と共に祭壇へと歩み寄った。
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