2話 冒険者登録
「冒険者って、だれでもなれるんですか」
ダガーの付いたベルトに浮かれながら、ジュリアの背中に問いかける。
だって男の子だもん。
こういうのってかっこいいじゃんか。
「ん?15歳以上で犯罪歴が無ければね」
前を向いたままジュリアが返事をする。
「それだけで食べていけるような職業なんですか」
「さあね、自分の腕次第だ。ランクの高いクエストを受ければ報酬こそ良いが、その分危険だ。反対に安全なクエストは稼ぎが少ない」
しばらく歩くと石畳の大通りへ出た。
でも並んでいる店が今朝とは違うような気がする。
黙って彼女についていくと、今度は広場を横切って行く。
「さっきとは違う広場ですね」
「今朝アタシらがいたのは北の広場だ。ここは南の広場だよ」
「そんなにいくつもあるものなんですか」
「4つだけだね」
なんとなく会話が続かず、俯きながら無言でついていく。
だってさ、目のやりどころに困るんだもん。
美人だし。
若干モデル歩きでくねくねしてるし。
胸張って歩くから強調されるし。
横に並んだらチョッキからはみ出る胸に目が行ってしまう。
でも後ろを歩くとぷりぷりのお尻に目が行ってしまう。
しまった。
ムスコが元気になってしまった。
こ、これはれっきとした生理現象だ。
思春期の男子高校生に大人の女性について歩けと言ったら、誰だってこうなりますですよ。
不可抗力だ。
冤罪だ。
俺は無実だ。
「ところで、ジュリアさんは魔法とか使えるんですか」
気を紛らわすために聞いてみる。
リザードマンがいるんだ、魔法があってもおかしくない。
「いや、アタシは使えねえな。代わりに体を鍛えてる。全身凶器だぜ」
ジュリアさん、貴方の体は違う意味で全身凶器ですよ?
「ほら、あれが冒険者ギルドだよ」
広場を抜けると一際大きな建物が見えた。
デカい。
バッキンガム宮殿みたいだ。
周りの建物が大抵二階建てだから場違い感が凄まじい。
ポカンと佇む俺を尻目に、ジュリアはズカズカと正門へと歩いていく。
俺は慌てて後を追った。
黒く変色した真鍮色の取手を両手で掴む。
腰を入れて引くと、リザードマンが二人並んでも楽々通れる大きさの扉がゆっくりと開いた。
エントランスホールを真っすぐ見据えるとカウンターが横長の凹の字に設置してある。
そのカウンターに隣接している壁の左右と中央にドアがあり、ギルド職員と思わしき人が頻繁に出入りしている。
ジュリアは軌道を逸らし、カウンターの左端へと一直線に歩いていく。
俺はヒヨコのように後をついていきながら、きょろきょろと辺りを見回した。
右には大きな掲示板のような物が壁にかけてある。
その周りには人だかりが出来ている。
あそこにクエストでも貼ってあるのかな。
あの人たちは冒険者かな。
ふと左を見ると4人掛けのテーブルが雑多に配置されていた。
やはり沢山の人がたむろしている。
俺もいつかはあの中に混ざるのかな。
そうこう考えているうちにカウンターに着いた。
すぐ横のドアからは中庭らしき風景が見える。
「やあリイナちゃん。元気?」
ジュリアが誰かに話しかけた。
「あ、ジュリアさん、お疲れ様です。古城の調査いかがでしたか?」
一目で年季ものだと分かるカウンターに立つ受付嬢を見て息を呑んだ。
長い睫毛とアーモンドアイ。
すっと通った鼻筋。
ふっくらとした薄紅色の唇が瑞々しい光沢を放っている。
赤茶色の髪を一本の三つ編みに纏めている。
フレンチブレイドと言うやつだ。
ちょっと前に映画の影響でクラスの女子がその髪型にしていて、校則違反だと怒られていた。
その時にネットで調べて知ったヘアスタイルだ。
「まぁボチボチやってるよ」
ジュリアの声を聞いて我に返る。
「今日は新人を連れてきた。登録してやってくれよ。ホレ、突っ立ってないでこっちに来な」
細くしなやかな指で腕をつかまれる。
本当に剣闘士だったのか疑ってしまう。
「こんにちは。聖フランシスコ王立冒険者ギルド、ベルモント支部へようこそ!」
優しく微笑まれる。
これが営業スマイルか。
「よ、宜しくお願いします」
「新規登録ですね。こちらの書類に記入をお願い致します」
「はあ」
情けない声で書類と羽ペンを受け取る。
羽ペンなんて初めて見た。
まじまじと見てしまう。
おう、しまった。
ジュリアとリイナの視線が痛い。
こういうときは第一印象が大事だって聞いたな。
俺の第一印象は聞くまでもないだろう。
悲しいな。
「文字の読み書きはできますか?代筆も承りますが」
「いえ、読めるんで大丈夫です」
あれ?
そういえば文字が読める。
それ以前に言葉が通じる。
今更だが、よっぽど思考が追いついていなかったんだな。
「ほお、読み書きできるんだ。凄いじゃないか。あんた良い生活してきたんだな」
ジュリアのコメントに首をかしげる。
現代日本人としては平均的だと思うが、こっちの世界ではどうなんだろうか。
基準が分からない。
とりあえず手元の書類に目を通していく。
見たことのない文字だけど、意味だけは頭にダイレクトに入ってくる。
不思議現象だ。
簡単な情報収集のための書類のようだ。
これなら入学願書とかのほうがよっぽど複雑だ。
読めるけど、書けるのかな。
試しに自分の名前を書いてみる。
斉藤優樹
漢字で書いたつもりなのに、実際には見たことのない文字が書かれていた。
「サイトウ ユウキか。サイトウってのが家名か」
肩越しにジュリアが聞いてくる。
近い。
近いよジュリアさん。
さっきムスコを引っ込ませたばかりなのに。
「ええ、まあ」
「家名持ちとは珍しいな。あんた貴族かい」
いやいやいや。
普通の名字なんですが。
たしか全国苗字ランキングトップ20に入ってましたけど。
あれ、ジュリアもヴァンダイクって苗字じゃなかったっけ。
貴族なのかな?
詮索しないほうがいいかな。
視線をジュリアから書類に戻す。
住所欄で手が止まる。
何て書けばいいんだ。
日本とは書かないほうがいいだろう。
「住所は南外区って記入しときな」
ジュリアが耳元で囁いた。
生暖かい。
ちょ、ジュリアさんストップ。
ムスコよ、静まれ。
「南外区?」
「スラムだ。登録するときに情報が少なくても深く追及されない」
「はあ」
「説明が必要か」
おい、俺が転移者だと知ってるだろ。
説明してくれないと困るがな。
「お願いします」
「そうか。まずはこの町から説明するか」
別段嫌そうな顔もせず、ジュリアが説明してくれる。
「まず、ここは聖フランシスコ王国のベルモントっていう町だ。円形の外壁に囲まれている。中心に冒険者ギルドがあって、そこを中心に大通りが二本、バツの字に伸びて東西南北に街を4分割してるんだ。」
新規登録の用紙を裏返してジュリアが大きな丸を書き、その中にバツを書いた。
「ギルドから外壁までの半分くらいの距離に、円を描くように商店街がある。区画内でギルドと商店街の間が内区、商店街と外壁の間が外区だ。あんたが盗賊に襲われたのが南外区だ」
ふうむ。
どうやら今朝はだいぶ彷徨ってしまったらしい。
北からスタートしたのに南の、しかも外側にいたとは。
っていうか住所をそこに指定したくないんだが。
「ちなみに、旅行者などが迷わないように目印として内区にそれぞれ広場がある」
迷子防止か。
なかなか親切なシティプランナーがいるようだ。
渡された書類に名前を書き、住所に南外区とだけ書いて、リイナと呼ばれた受付嬢に返した。
「確認させていただきます。はい、大丈夫です」
南外区と書いたからか、殆ど白紙の書類はあっけなく受理された。
「それでは新規の冒険者なので、ギルドからライセンスカードを発行させていただきます。左手をこちらに置いてください」
タブレットのような板がカウンターに置かれた。
え、これなに。
大丈夫なの。
ジュリアに目をやると、顎をしゃくられた。
なにか言ってよ。
恐る恐る手を置くとタブレットが光り、半透明の白い球体が現れて左手を包んだ。
驚いて手を引っ込めようとするが、吸盤で吸い付かれたように動かない。
「え、わ、なになに」
「だからライセンスカードだよ。コレがユウキの左手にカードを書き込んでるんだ」
何言ってんのこの人。
球体が消えると、手が動いた。
バッと引き寄せ、右手で擦る。
痛くない。
「ライセンスカード、って念じてみな。出てくるから」
半信半疑で念じてみる。
自分の左手の甲からカードがぽんっと飛び出した。
うわ。
本当に出たよ。
サイトウ ユウキ
Fランク冒険者
ジョブ 無し
「ちなみにライセンスカードとは別にステータスカードってのもあるぞ。これは自分以外には見えないがな」
ステータスと念じると今度は目の前の空間にウィンドウが現れた。
斉藤優樹
ヒュム
Lv1
Fランク冒険者
ジョブ 無し
体力7
魔力0
筋力6
耐久5
敏捷4
器用3
ジャージ サンダル ダガー ダガー
ステータスには装備も表示されるみたいだ。
ライセンスカードの名前はカタカナ表記なのにステータスは漢字なのが不思議だ。
自分は漢字が読めるからそうなっているのかな。
「これから神の試練がございますが、挑戦いたしますか」
え、知らないよ。
「ユウキならやれるさ。あんな凄い投げ技使えるし、ダガーも二本あるし。問題ない。期待してるぜ」
「え、じゃ、じゃあお願いします。」
綺麗なお姉さんに期待されたら逃げられないじゃないか。
くっそー。
「かしこまりました。それでは、あちらでお待ちください」
リイナが真後ろ、つまりカウンターの反対側を指した。
掲示板のすぐ横だ。
エントランスホールを横切り、カウンターに着くと、ジュリアが隣にいない事に気づいた。
向こう側でリイナと一緒に手を振っている。
とたんに冷や汗が出た。
知人が一人傍から離れるだけでこれほど心細くなるとは。
見える範囲にいても関係ない。
「しっかりしな!大丈夫、ユウキならやれるさ!」
だだっ広いホールの反対側にいるのに、ジュリアの声がはっきりと聞こえた。
かーっ。
これでやらなきゃ男じゃないだろ。
手を挙げて無言の返事をする。
顔を叩き、気を引きしめる。
神の試練?
なめんなよ。
やってやる。
弾けそうな心臓を無視して、俺は覚悟を決めた。
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