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1話 ジュリア

 眼前の風景にたじろぐ。


 左右には無数のテントが所狭しと並んでいる。

 テレビで見た覚えがあるぞ。

 これが露天商か。


 どうやらここは商店街のようだ。

 とすると、自分の来た道は路地裏か。


 後ろを振り向くと、そこには壁があった。

 さっきまで道があったのに。


 二店の露天商に挟まれ、困惑しながらあたりを見渡す。


 それにしても凄い人混みだ。

 コミケのど真ん中にいるようだ。


 フルプレートでがっしょんがっしょん歩いてる人。

 踊り子の服と魔法使いのローブを足して二で割ったような、露出の激しいドレスを着たエルフっぽい女性。

 ボディビルダーのような体躯の上半身裸の褐色オジサン。

 そのオジサンよりも二回りは大きいトカゲスーツ。

 頭に耳の生えた少女もいる。


 無数の足音や声が重なり合って、けたたましいノイズと化している。


 人の頭しか見えないので、隣の露天商のものであろう空き箱の上に立ってみた。

 道を挟んで向こう側に広場が見えた。

 ここで突っ立っていてもしょうがないので、とりあえず向かってみる。




 道を横切るのに思いのほか手間取った。


 人多すぎだろ。

 スクランブル交差点顔負けだぞ。


 広場の中央には噴水があった。

 それを囲むように座り込んで雑談をしている人たちが数組いる。

 ぽっかり空いたスペースに腰を落ち着かせると、右隣の人達の会話が聞こえてきた。


「でさ、このあいだ甥が神の試練を受けて帰ってきたんよ。何のジョブもらったと思う?」


 防弾チョッキのようなものを着た栗毛の女性が言う。

 肩までかかる長い髪が時折風になびく。

 よく見ると剣やら警棒やらを腰や背中に装備している。


 お巡りさん、ここに怪しい人がいます。

 いい年したが姉さんがなにやってんだか。


 そんなことを考えながら傍観していると、その隣にいるトカゲスーツが返事をした。


「アイツももう15歳カ。やっぱ魔法使いじゃネ?」


 かなりしゃがれた声だ。


「そう思うだろ?親が二人とも魔法使いでAランク冒険者だからな。それが聞いて驚け。なんと拳闘士だってよ」

「はぁ?なんでまタ」

「途中でワンドが折れて、飛びかかってきたモンスターを死に物狂いで絞め殺したんだと」


 防弾チョッキが自分で自分の首を絞める動作をする。


「可哀想ニ。あいつ引きこもり気味のインドア派じゃないカ。それが脳筋向けの前衛職とワ」

「剣闘士のアタシが鍛えてやるよって言ってんのに怖がって部屋から出てこねえんだ」

「そりゃあそうだロ。ずっと後衛だと思ってたら前衛だゾ。体を張ることになるんダ。怖いのも当然ダ」

「そんなものかな。男ならどっしり構えていてほしいもんだが」

「お前は加減を知らねえからナ。それに、魔王がいた頃と違って今の世代は甘ちゃんダ」

「リザードマンのお前さんに加減云々言われたくねえなぁ。仕方がない、少しずつ慣らしていくか」


 おいおい。

 聞き捨てならないワードが大量に出てきたぞ。


 ジョブ?

 魔法使い?

 冒険者?

 魔王までいたのかよ。

 ってか神の試練って何。

 それにリザードマン?トカゲのスーツじゃないの。


 混乱してきた。

 深呼吸してちょっと歩こう。


 防弾チョッキの女性が俺を見た気がするが、それに反応できるほどの余裕が無い。

 その場を離れ、石畳の大通りへと戻る。


 おぼつかない足取りで歩きながら考える。


 やっぱりここは異世界なのか。

 さしずめ剣と魔法のファンタジー世界ってところか?


 魔王がいて、いや、いたのか。

 誰かが倒したんだろうな。

 

 リザードマンがいるってことは、あのコスプレイヤーたちは本当にエルフやドワーフや獣人なのか。


 ふらふらと歩いていると、いつの間にか汚い路地に出てしまった。

 太陽が真上にあるのに、薄暗い。

 湿気がこもり、異臭が漂う。


 所々に座り込んでいる人がいる。

 ブツブツ呟いていたり、ゾンビのように呻き声を上げている者もいる。

 麻袋を服代わりにした子供もいた。


 やっべ。スラムかな。


 来た道を戻ろうと思い、振り向くと何かにぶつかった。

 ふと見上げると男が二人立っていた。


「痛ってぇなぁ」

「おいアンタ、何してくれてんだよ。あぁ?ツレの腕が折れちまったじゃんかよ」

「ああああ、うでがあああ」


 棒読みにもほどがある。


 え、それより今何が起こってるの。

 もしかしなくとも、スラムでチンピラ二人に絡まれちゃったの、俺。


「こりゃあハイポーションが必要だな。金貨一枚寄越せや」


 金貨て。

 価値が分からないけど、かなりの金額である事は分かる。


「え、いや、あの」

「とっととだせや!」


 返答に臆し、まごまごしていると胸ぐらをつかまれた。


 条件反射で相手の脇を掴み、腕を突っ張ってから体を反転させ、相手の懐に滑り込んだ。

 一本背負い投げで地面にたたきつける。


 あ。

 やっちゃった。

 ついクセで。


 気絶した相方をみて、腕が折れたはずのチンピラは短剣を両手に持った。


「てめぇ、なめた真似しやがって」


 いやいや、いちゃもんつけてきたのはそちらさんですがね。


 チンピラが突進してきた。

 めったやたらに腕を振り回してくる。


 え、いやだ怖い。

 ナイフ怖い。

 

 逃げ惑うが地の利は相手にある。

 ナイフが腕をかすめる。

 血が出る。痛い。

 包丁で指を切ったことはあるが、その比じゃない。


 袋小路に追いやられてしまった。


 マジかよ、ここで死ぬのかよ俺。

 せめて童貞卒業したかった。

 こんな状況でくだらないこと考えんなよ俺。


 どーしよどーしよ。

 

「てめぇ、きっちり落とし前付けさせてもらうぜ。男でも奴隷商に売りつけたらちょっとは金にならぁ。死にさらせぇ!」


 売るのに殺してどうすんだよ。

 必死になって腕でガードする。


「ぐぁっ」

 

 アヒルの声がした。 


 とおもったらチンピラが床に倒れている。


 その背中に栗毛のお姉さんが膝を立てていた。

 左手でチンピラの腕を捻じ曲げ背中に押し付け、右手の警棒で首を抑えている。


 肩に掛かる長さの栗毛が、日に当たって赤く見えた。

 前髪に隠れている薄茶色の瞳が俺を見つめている。


 鼻と頬骨が高く、顎も細い。

 左右対称で凛々しい顔つきは、宝塚の男優役が似合いそうだ。


 大きく緩やかな胸の曲線は防弾チョッキ越しでも分かるほどだ。

 跪いているからか、ズボンが悲鳴を上げながら形のいいお尻を強調している。


 チョッキさんとズボンさんが可哀そうだ。

 脱いで楽にさせてあげたらどうですか。


「アンタ凄いな。あんな投げ技初めて見るぜ」


 見とれていると、言葉遣いに似合わない透き通った声が聞こえた。


「ほら、戦利品」 

 

 宝塚の男優がチンピラの持っていた短剣を鞘に入れ、ベルトごと放ってきた。

 慌ててキャッチする。

 鞘付きで良かった。


「戦利品?」


 鞘から抜いてみると鋭利な刃物が太陽の光を反射させた。

 刃渡り20cmくらいの両刃のダガーだ。

 ベルトに二本くっついている。


「ついでだ、コイツの靴も貰っとけ」


 宝塚が気絶しているチンピラのサンダルをもぎ取り、渡してきた。

 そういえば裸足だ。

 泥だらけになっている。


「ありがとうございます」

「良いっていいって。見たことのない服を着たヤツが神妙な面してたからさ、心配になって後をついてきたんだ。盗賊に絡まれたのを見て助けようとしたらあの投げ技じゃんかよ。痺れたね。二人目はどうすんのかなって思って後をつけてきてたんだ」


 髪を後ろにまとめ、ポニーテールに縛った。

 白くて細い首が艶めかしい雰囲気を出している。


 っていうか最初から見てたのかい。

 助けてよ。

 こっちは怖い思いをしたのに。


「アタシはジュリアだ。あんた名前は」

「ユウキですけど」

「そうか。あんた余所者だろ」

「ええ、まあ。自室を出たらいきなりこの街に出てしまって」


 それにしても綺麗な人だな。

 何処を見ていいのか分からず、情けなく足元に目をやる。


「ふうん。もしかして、来たはずの道が消えてたりしてないかい」


 勢いよく顔をあげる。

 風切り音が聞こえた気がした。


「…よく分かりますね」


「転移者か。あんたもしかしてニホンジンって部族かい」


 鼓動が早くなる。

 思わず後退る。

 なんで知ってるの。


「ああ、そんな警戒しないでいいよ。大昔に違う世界から来たって言い張る奴らがいたんだ。その中でもヒュムの体型で黒髪黒目だった男はニホンジンって部族だったらしいんだ。その反応を見ると、当たりだな」


 ちょっと待て。

 他にも転移者がいるってこと?

 その中に日本人も含まれてる?

 もしかして、帰れる?


「同郷者探すんなら諦めな。転移者自体稀なのに、ニホンジンなんて数百年前に一人だけだそうだぜ」


 芽出たばかりの希望が踏みにじられた。


「そんなこと、いきなり言われても信じられません」

「無理もないわな。でもアタシは信用していいと思うぜ。これでも国お抱えの考古学者だ。ほれ、ライセンスカード」


 ジュリアが左手を前に出すと、手の甲からカードのようなものが飛び出した。

 ふよふよと宙に浮いている。


 金縁のカードには何か書かれている。


ジュリア ヴァンダイク

Aランク冒険者

ジョブ 考古学者


「学者がこんな武闘派なはずがありません」

「偏見だな。遺跡を調査してるとモンスターも出てくるんだぜ?戦えなくてどうするよ」


 一理ある。


「でも、さきほどの広場では貴方は剣闘士だとおっしゃってました」

「盗み聞きは良くないぜ。それは前のジョブだ。ジョブは一つしか就けないからな」


 なんか胡散臭い。


「まあとにかく、あんたの今後の羽振りだ。帰れねえんだろ?何するかは考えてんのかい」


 少し間をおいて首を横に振る。

 現状を把握するのに必死で、この世界での生活については考えてなかった。


「そうか。一応は戦えるようだから、とりあえず冒険者登録でもしておくといい。誰でも登録できるし身分証も発行される。クエストを受けたら金も稼げる。やっておいて損はない」


 冒険者になるのか?俺が?

 しがない高校生だぞ。

 柔道しか取り柄のない16歳だぞ。

 これで冒険者って、おっかなすぎないか。


「じゃあ行こうか」

「え、どこに?」

「冒険者ギルド。場所知らねえだろ」


 俺の返事を待たずに武闘派考古学者は踵を返し、足早に歩いていった。


 頭の回転が追いつかないが、ついていく他ない。 

 ダガー二本を握りしめて、後をついていった。

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