0話 プロローグ
「ユウキー、朝ごはんよー」
母親の声が下から聞こえ、目が覚めた。
どうやら昨日はコタツで寝てしまったようだ。
腰が痛い。歪な体勢だったからだろう。
あくびをしながらコタツの上のスマホを手に取るが、画面が点かない。
電池が切れているようだ。
舌を鳴らし、そばにあった充電器を差し込む。
壁伝いに窓まで歩き、カーテンを勢いよく開ける。
目の前に広がるお隣さんの壁を見て、思った。
俺の人生って、つまらない。
別に不幸ではない。
何不自由ない生活を送っている。
実家で暮らし、ぐうたら生活できる事はむしろ幸福な方だと言えるだろう。
でも、幸せですか、と聞かれたらイエスとは言えない。
家と高校とを行き来するだけの生活だ。
これが幸せといえるのだろうか。
現状維持しやすく安定した生活だが、これが幸福とは言い難い。
やりたいこともないことはないが、無理にやろうとは思わない。
適当に高校に通って、適当に部活動をして、適当に人付き合いをして、適当に毎日を過ごしている。
趣味らしい趣味もない。
しいて言えばネトゲとラノベだ。
休日や週末は、部屋に籠ってネトゲとラノベを交互に楽しむ。
そんな人生。
詰まる所、刺激がないのだ。
だからつまらないと感じてしまう。
もっと人生になにかあっても良いんじゃないかと思ってしまう。
そう思いながら、何をするでもなく毎日をだらだらと過ごしていく。
そんな変わりない日々に飽き飽きしていた。
学校に行きたくないな。いっそのこと異世界に転移したい。
そう思いながら部屋のドアを開けると、見慣れた廊下ではなく薄暗い道がまっすぐ伸びていた。
「あれ?」
目をこすってみたが風景は変わらない。
夢を見ているのかと振り返り、部屋に戻ろうとする。
だが振り返ってみたらドアが無い。
その代わりに壁があった。
驚き、ぺたぺたと壁を触る。
ただの壁だ。
ただの、ではないかもしれない。
石の壁だ。
左右にも同じような壁がある。
冷たく湿っている石壁に三方向から囲まれている。
その存在感に押しつぶされるようだ。
息苦しい。
眩暈がする。
くぐもった呻き声が聞こえる。
それが自分の声だとは一瞬分からなかった。
足が冷たくなってきた。
下を見ると、舗装されていない、むき出しの地面に裸足で立っている事に気づいた。
「いったい、どうなってんの」
過呼吸気味に呟いた。
無意識にポケットのスマホに手を伸ばす。
無い。
しまった。コタツの上で充電中だ。
振り向いてみると道の先が明るかった。
恐る恐る足を踏み出す。
長い時間をかけてゆっくりと歩いていく。
道を抜けると、知らない風景が目に飛び込んできた。
コンクリートやアスファルトではない、石畳の道路。
写真でしか見たことのない、中世ヨーロッパ風の建物。
高層ビルなどない、広々とした空。
呆然としていると、目の前をコスプレした人達が横切っていく。
華奢な体躯で白く長い髪をなびかせる、エルフを思わせる美女。
我が物顔で胸を張って歩く、筋骨隆々のトカゲスーツを着た男。
明らかに酔っぱらっている、背の低いひげもじゃの丸いおじさん。
いや、これはコスプレではないのかもしれない。
「マジか…」
どうやら俺は、異世界へ転移してしまったらしい。




