16話 *
東外区の門でサワヤカ門番に挨拶してから町を出た。
ラーベンダの咲いている平原を通り過ぎて奥へと進む。
ギガントラットと遭遇したのはこの奥だ。
いつモンスターが出てきてもおかしくない。
戦闘準備を整えておかないとな。
そういえばまだアイカのステータスを見ていない。
パーティー編制は出発前にするものだが、最近は気が散りすぎて雑になってしまっている。
なぜかは言うまでもない。
アイカに目をやると、にこりと微笑まれた。
にヘらぁと情けない顔になってしまうのも仕方がないことなのだ。
生写真一枚で一晩忙しなく過ごせるお年頃なのに、モノホンが自分の奴隷なのだから。
ちょっと真面目にならないと危ないかもしれない。
何かあってからでは遅すぎる。
気を取り直し、アイカに断りを入れてから鑑定する。
アイカ
犬人族(奴隷)♀
Lv5
ジョブ 獣戦士
剣士スキル
・ダブルスラッシュ
・パリイ
・カウンター
剣闘士スキル
・剛力
・武器の心得
・白刃取り
獣戦士スキル
・電光石火
体力26 (+105)
魔力10 (+45)
筋力30 (+145)
耐久18 (+135)
敏捷36 (+135)
器用14 (+130)
ショートソード 皮のジャケット 皮のサンダル
所有者 サイトウ ユウキ
うおおおい。恩恵凄すぎなんですけど。
それにカッコイイ響きのスキルが並んでる。
前はスキルが見えなかったのに、今は見える。
なぜだろう。パーティーメンバーだからか?
ジョブスキルが三つもあるのも不思議だ。
ロイはSランク冒険者で、確かレベルも80超えてたから不自然に思わなかった。
ゲームではOPなキャラは総じてスキルもOPだ。
「ねえ、なんで三つもジョブスキル持ってるの」
「獣戦士ですから」
「ん?どういうこと」
「えっと。獣戦士は獣人族の固有ジョブですが、剣士と剣闘士のジョブをある程度経験しないとジョブチェンジできない上級ジョブです。現在のジョブに関係なく、過去に得たスキルはジョブチェンジした後も使えるので、ステータスに表示されたままになります」
おおっと。
固有ジョブでさらに上級ジョブの方でしたか。
でもこれって俺の認識と同じなのかな。
ゲームでいう固有ジョブは特定のキャラしか就けないジョブのこと。
そして上級ジョブといえば通常のジョブよりも高性能のジョブで、特定の条件を満たさないと就けないジョブのこと。
この世界での固有ジョブや上級ジョブは、似て非なるものである可能性が十分にある。
だから常識であっても確認のために質問しなきゃいけない。
聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ってね。
可愛い女の子に現を抜かして基本的な情報さえミスって死んだらアホ以外の何者でもない。
「上級ジョブって?」
「初級ジョブをいくつか経験した後に任意で就けるジョブです。冒険者はみな、ジョブ無しから始まり、世界神から最初のジョブを授かります。その後、ギルドに申請すればジョブチェンジできます」
そこまでは分かる。リイナとジュリアに聞いた通りだ。
「チェンジしたいジョブになるためにはいくつか条件があり、条件がないものが初級ジョブ、条件があるものが中級ジョブと上級ジョブになります」
中級まであるのか。
なんか無駄にややこしく感じる。
「中級に就くためには初級を一つ、上級に就くためには中級を一つ経験する必要があります」
「なるほど。で、獣戦士になるためには剣士と剣闘士の経験が必要だと」
「はい。ちなみに剣闘士になるためには剣士の経験が必要になります」
剣士→剣闘士→獣戦士という流れか。
あれ、アイカってベテラン?
「そっか、上級ジョブだからこんなにすごい恩恵なんだね」
「そこまでではないはずですが」
アイカが自分のステータスウィンドウを見て驚く。
「え、え、なんで」
「ね、多くない?ちなみに今までどれくらいだったの」
「獣戦士の恩恵は体力、筋力、耐久、俊敏がそれぞれ+30です。剣士と剣闘士の恩恵も半分ずつ入るので、合計体力+50、筋力+55、耐久+45、俊敏+40、器用+5のはずです」
口頭で羅列されても混乱するだけだ。
地面に枝で表を書いた。
つまりこうか
剣士 剣闘士 獣戦士 合計
体力 10 10 30 50
魔力 0 0 0 0
筋力 10 15 30 55
耐久 5 5 30 45
敏捷 0 10 30 40
器用 0 5 0 5
剣士と剣闘士の恩恵は半分ずつ。
剣士と獣戦士の恩恵と総合計が分かっているから、剣闘士は後から埋めた。
これってつまり、過去に経験したことのあるジョブは恩恵を半分キープできるって事か。
それならどんどんジョブチェンジしたほうが良いのではないか。
あ、でも獣戦士Lv5ってことはジョブチェンジしたらLvが1に戻ってステータスも下がるのかな。
それなら頻繁にジョブチェンジするわけにもいかない。
しかし今の恩恵はずば抜けている。
この違いはなんなんだ。
授かるはずの恩恵 実際の恩恵 デルタ
体力 50 105 55
魔力 0 45 45
筋力 55 145 90
耐久 45 135 90
敏捷 40 135 95
器用 5 130 125
んー、ちょっと分かんない。
俺の恩恵がこうだから
体力 110
魔力 90
筋力 180
耐久 180
敏捷 190
器用 250
あー、これ俺の恩恵の半分だ。
えー、俺の恩恵の半分プラスされんのか。すごいな。
「これ多分俺の所為だ」
「え?あの…え?」
「多分俺のスキルがアイカの恩恵を底上げしてるんだと思う」
「す、凄いです。他人の恩恵を上げるスキルなんて聞いたことがありません。どのようなスキルなのですか」
知らん。
「んー…秘密」
アイカには悪いが説明がめんどいので放棄する。
しばらく歩くと地面が凹んでいる所まで来た。
昨日ギガントラットを倒した場所だ。
「近くにいますね。あちらの方角に数匹います」
「分かるの?」
「はい、匂いがします」
犬だからだろうか。
信用していないわけではないが、サーチを使ってみる。
どういう感じなのか知っておきたい。
初めて使うからワクワクだ。
サーチと念じると、脳内にマップが浮かんだ。
自分を中心に近くを記した簡易マップのようだ。
半径何kmか分からないが、マップ内に赤い点がまばらに散っている。
中央には白い点。常識的にこれが自分かな。
アイカの指した方向に赤い点が2つある。
多分敵だろうな。
アイカに案内してもらい、少し進むと鼠型のモンスターが2体茂みから飛び出してきた。
もう知ってたから驚かないけど。
鑑定で確認してみたら、ちゃんとラージラットだった。
「アイカ、任せていい?」
「はい、問題ありません」
お手並み拝見。
ラージラットは威嚇しながら二手に分かれてアイカの両側に回り込んだ。
挟み撃ちにするつもりか。
対するアイカはリラックスしている。
右手でショートソードを構えてはいるが、どこか脱力感さえ感じる。
左のラージラットが奇声をあげて突進してきた。
アイカがそちらを向くと、今度は右のラージラットが大口を開けて突進してきた。
時間差で攻撃とか、モンスターのくせに連携をとるのか。
だがアイカにとっては問題なかったようだ。
1体目のラージラットがぶつかる瞬間に真上にジャンプし、頭上で前転してから片手で尻尾を掴んだ。
そのまま前転の勢いを殺さず大車輪のごとくぐるりと回転し、ラージラットを360度ぶん回してから真下にいる2体目のラージラットに叩きつけた。
空中でショートソードを逆手に持ち替え、着地すると同時に2体を頭からぶっ刺した。
うーん。おっそろしい子。
一瞬で終わったよ。
スキル 武器の心得 をラーニングしました。
お、剣闘士のスキルゲット。
でも何をしたんだろう。普通に戦ってるようにしか見えなかったけど。
あとで聞いてみよう。
魔石と尻尾をアイテムボックスに入れるとアイカが目を見開いた。
あ、まだ見たことなかったか。
「アイテムボックス。使えるから。これ、秘密ね」
「…はい」
驚きの反応さえなくなった。ちょっとつまらない。
「で、ラージラットどうだった」
「あ、はい。余裕です。準備運動にもなりません」
「うん、そう見えた。じゃワンランク上のダンシングバニーを探してみようか」
「かしこまりました。あちらにいます」
アイカの案内に従って歩く。
次に遭遇したモンスターは機敏で軽妙な動きを見せる兎だった。
結果。
健闘むなしくダンシングバニーもあっけなく倒してしまった。
木々の間を縦横無尽に飛び回る兎は敵ながら見ていて爽快だったが、アイカがショートソードを掲げたら勝手に真っ二つになってしまった。
アイカ曰く軌道を先読みすれば簡単とのこと。
いや、無理だから。
ダンシングバニーも討伐証明部位は尻尾だ。
兎の尻尾と魔石をアイテムボックスに放り込んでから一息ついた。
これならDランクモンスターも行けるかもな。
いや、油断は禁物。
格下だからと舐めてかかった黒帯が白帯に負けることもざらにある。
今日はとりあえずラージラットとダンシングバニーをとことん狩ろう。
森に入って30分も経っていない。
もっと狩って金を稼がないといけない。
アイカに敵を探してもらいながら歩くと、色違いのダンシングバニーが出て来た。
今までのは茶色い毛並みだったが今度のは雪のように白い。
だが両足に何かが渦巻いているような妙な模様がついている。
鑑定。
ラビッドラビット*
ダンシングバニーじゃない。
それにあのアスタリスクはなんだ。




