15話 買い物 ②
防具屋に入ると、豪華なフルプレートや神々しいローブが飾ってあった。
カッコイイが、これらは買えないだろう。
奥を見ると髭もじゃの店主がいた。
後ろ姿を見た感じ、なんとなくドゥアンと似ている。ドワーフかな。
いらっしゃいなどの挨拶もなく、カウンターの後ろで金槌を振るってカンカンと音を立てている。
スキル 鍛治 をラーニングしました。
鍛冶師のジョブを授かりました。
鍛冶師の恩恵を授かりました。
相変わらずチートな能力だ。
カウンター越しに声を掛ける。
「店中で鍛冶をされるのですか」
「ん?ただの修理じゃよ。こんな狭い所で鍛冶なんて、危なくてできんわい」
ただの修理で鍛冶をラーニングしちゃったよ。
なんかゴメン。
店主が金槌を置いて立ち上がった。
「いらっしゃい。探し物かい?」
「ええ、防具一式。二人分欲しいのですが」
店主が俺とアイカを交互に見る。
武器を除くとジャージにサンダル、そしてマキシワンピースに裸足だ。
どう見ても冒険者を舐めてるようにしか思えない。
「駆け出しかい?どんな防具が欲しい?予算は?」
「動きやすくて丈夫なのが良いですね。予算は5千ドルクほどで」
「そんなはした金で二人分揃えようってのか。なら木と皮の防具じゃな。こっちこい」
はした金か。そうかもしれない。
でも残金7千ちょいしかないからな。
「装備一式揃えるとなると、頭、体、足、そして盾の4点じゃな。ウチにあるので手頃なのはこれで全部。値札は壁に貼り付けてある。質問があったら呼びな」
大きなフロアスペースの一角に皮のジャケットと鎧が数着、壁に掛けられている。
床には木の盾が並び、隣の棚には皮のサンダルやブーツが収められている。
その棚の上には帽子が積んであった。
並んでいる商品を全て鑑定してみたが、どれにも【空き】はない。
そう簡単にはいかないか。
皮のジャケット3000ドルク
皮の帽子1000ドルク
皮のサンダル 500ドルク
木の盾 500ドルク
装備一式、しめて5000ドルクなり。
二人分揃えられんがな。
待てよ、サンダルも盾も俺には必要ない。
そろえようと思ったらジャケット二着、帽子二つ、サンダル一足、盾一つ。
合計は、と。
9千ドルク。
全て買うには金が足りない。
何を購入すべきか迷っていると、アイカが自分の分は要らないと言ってきた。
「まずはご主人様の装備を揃えてください。私は大丈夫です」
そんなこといわれてもなぁ。
モンスターと戦闘する以上、危険にさらされることになる。
でも奴隷だからと言って紙装備でバトルはさせられない。
防具は絶対に与えるべきだ。
良い武器を持っていても死んでしまったら意味がない。
悩んだ末、ジャケット二着とサンダル一足を購入することにした。
合計6500ドルク。
これを買ったら残金1260ドルク。
厳しくなってきた。
あー、しまったな。先に防具屋にくれば良かったな。
もう遅い。仕方がない。
「まさかとは思うが、その上からこれを装備するつもりかい」
会計を頼むと店主が睨んだ。
「何か問題でも」
「大有りだ。あんたはまだ良いわい。見たことのない服だが、一応はシャツとズボンみたいじゃからな。問題は嬢ちゃんの方だ。そんなヒラヒラを着て戦闘するつもりかい。冒険者をなめるんじゃないわい」
確かにマキシワンピースを着て戦闘はできない。
「実はこれ以外に服が無くて。これから買いに行くところです」
「おかしな奴らじゃの。普通なら防具の前に服を買うと思うが。武器も最後にするべきじゃ」
ごもっとも。
「中古でよければ先に隣へ行きな。必要な物をそこで揃えて、支度が済んだら戻ってこい。お前さんらには防具はまだ売れん。これは取っておいてやる。ほれ、いったいった」
追い出され、店主に言われた通り隣の店に入ると古着屋だった。
ごちゃごちゃしている店内だ。
ドアを開けると視界が服や小物で埋めつくされた。
買い物が面倒くさくなってきたので、アイカに服を選ばせる。
恐れ多い、とかなんとか言っているが構わず押し付k、じゃなくて任せる。
ベンチがあったので座って待つ事にした。
少しすると長袖のシャツとズボンを手にもってアイカが戻ってきた。
「早かったな。それでいいの?」
「はい。これが動きやすそうです」
それが基準か。
でもなにか忘れている気が。
あ。
「下着はいらない?」
「えっと…必要ではありませんが」
「でもあった方がいい?」
「はい」
「じゃ下着も2,3着買って。あ、ついでに俺の分もお願い」
「かしこまりました」
防具代を引いたら1260ドルクある。
ギリギリだがここは古着屋だ。そんなに高くないだろう。
下着を古着屋で調達するのは少し抵抗があるが、我慢しよう。
洗えば大丈夫だ。
シャツとズボンがそれぞれ100ドルク、下着は1枚10ドルクで4枚買うことにした。
胸の下着は要らないのかと聞いたらアイカが眉を寄せて4枚の下着を持ち上げた。
どうやらこの世界にブラジャーは無いらしい。
小声でよかった。
店員に聞かれていたら変な奴だと思われていただろう。
なにはともあれ、古着は合計240ドルク。
やっす。
会計を済ませてアイカを試着室に行かせた。
着替えを待つ間に壁を眺めていると、ショルダーバッグがあった。
アイテムボックスがあるから要らないと思うが、大っぴらに使えないからデコイとして使える。
鞄の中から物を取り出すふりをして、アイテムボックスを展開するのだ。
肩掛けよりもリュックサックの方が体に固定されて良いんじゃないかな、と思い店員に聞いてみたが品切れらしい。
そうこうしているうちにアイカが出てきた。
マキシワンピースは胸を強調させていたが、今着ている白シャツは谷間を完全に隠している。
でも大きいのに変わりはない。
下もデニムではなくヨガパンツのようなピッタリした服だ。
形の良いお尻の上に尻尾が垂れている。
「鞄ですか。これから物も増えますし、良いと思います」
「うん。ちょっとこれ背負ってみて」
ショルダーバッグを渡すと、なんと斜めに掛けやがりました。
鞄のベルトが白い双子山の間に沈む。
隠れていた渓谷がはっきりと見えるようになった。
それによって元から大きかったものが更に大きく見えるようになった。
わぁお。
眼福だ。
拝ませて頂こう。
これ、買ってしまおうかな。
でもぶら下がって邪魔だろうし、やはりリュックサックにしたほうがいいか。
悩んでいるとアイカが鞄のベルトをいじりだした。
「これは良いですね。長さを調整すれば体に密着するので邪魔になりませんし、こうやって前に持ってくれば鞄を降ろさずに中身を取り出せます」
アイカがバッグをぐるりとベルトコンベアの様に回し、背中にあった収納部分を前に持ってきた。
リュックサックの場合は背負っているから降ろさなければならない。
降ろさなくて済むというだけで数秒稼げる。
戦闘中など一刻を争う時にはアイカの言うようにショルダーバッグの方が良いのかもしれない。
なるほど。
ポーションなどを素早く取り出せれば、それだけ安全だ。
では安全のためにショルダーバッグを購入しよう。
安全のために。
代金の200ドルクを支払い、さっきまで着ていたワンピースと買ったばかりの服をバッグに詰め込んだ。
防具屋へ戻り、代金を払って防具一式を購入した。
一日で貯金が消えた。
すっからかんだ。
悲しきかな。
いつかお金の心配がなくなるくらいリッチになりたいものだ。
装備を整えた後、ギルドへ向かった。
ギルドの掲示板に雑多に貼られている張り紙に目を通していく。
EランクとFランクモンスターの討伐クエストが目立つ。
Cランクのギガントラットを一人で倒してしまったのでEとFは簡単すぎると思うが、建前上まだFランクの見習いだ。
アイカがいるとはいえ、高ランクモンスターの討伐は止めておいたほうが吉だと思う。
EとFランクモンスターの討伐クエストの張り紙を1枚ずつ持って、カウンターに向かった。
「おーう。お、戦闘奴隷買ったんか」
カウンターでリイナと話し込んでいたジュリアが声を掛けてきた。
今日も今日とてチョッキを着ていな…
!?
き、今日はシャツではなく、ボタン掛けのYシャツを着ている。
布の服がこの大ボリュームを抑えきれるわけがなく。
ブラも無く。
だから、その。
ボタンの隙間から。
肌色が、プルプルが。
直に見える。
「アイカです。よろしくお願いします」
「可愛いね。本当に戦闘奴隷?」
ジュリアがアイカの顔を覗き込む。
「そうですけど?」
「いやさ、戦闘奴隷でなかったらアタシん家で一発お手合わせ願おうかと思って」
ぐっふぁぼ。
急所にクリティカルヒットだ。
昨日までの俺だったら即死級の大ダメージだ。
「ちょ、ジュリアさん!?」
リイナが赤面して慌てふためく。
この間もあったな、こんな反応。
あの時は分からなかったが、今では分かる。
賢者タイム経験者ですから。
昨日の夜、悟りの書を開きましたから。
「模擬戦ですか。私は構いませんが」
アイカが俺を見た。
絶対に勘違いしている。
ちょっと残念だが、代わりに辞退しておいてあげよう。
「ジュリアさん、今回は遠慮しておきます」
「そっかぁ。残念」
結構マジで残念そうなんだが。
こんな人だったっけ。
アイカがジュリアの警棒と剣をちらりと見た。
「二刀流の方ですか」
「まあ、両刀使いという点では合ってるな」
「二刀流のスキルは珍しいと聞きます。凄いですね」
「ん?アタシは二刀流じゃないよ」
「え?」
やっぱり分かってなかったか。
「こ、このクエストを受けたいのですが」
「はい、承ります!」
会話が途切れたところでリイナに掲示板からはぎ取った張り紙を渡した。
「ええと、ラージラットとダンシングバニーですね。あの、お言葉ですがこれらはユウキさんには役不足なのでは」
「そんなことありません。まだまだFランク冒険者なので、Eランクでも荷が重いと思います」
「あ、あー。そうでしたね。申し訳ありませんでした」
ジュリアとアイカの間に立ち、さっさと手続きを済ませてから逃げるように出発した。




