14話 買い物 ①
朝起きると、頬をつねった。
夢じゃない。
夢のような時間は現実だった。
お隣さん、素敵なスキルをありがとう。
もう一回戦、と行きたいが我慢しなければ。
今日はギルドに寄ってクエストを探すのだ。
定期収入のない冒険者だから自分から仕事を探して金を稼がねばならない。
リスポンシビリティー溢れるアントレプレナー、それが俺。
でもどんなクエストが良いのか。
薬草採取は大変で割に合わない。
やはり戦闘奴隷のアイカもいるし、モンスター関係のクエストだろうな。
「んん…」
布団がもぞもぞと動き出した。
「お早う」
「お早うございます、ご主人様」
「良く寝れた?」
「ええ、昨日は、その…凄かったので。ぐっすりと眠れました」
朝から夢のような事を言ってくれる。
裸のアイカを抱きしめ、軽くキスをした。
昨夜は二人で寝落ちしたのだ。
「あっ…」
「何?」
「ふふっ。ご主人様も良くおやすみになられたようですね。だって朝からこんなに元気」
「実は元気すぎて少し苦しいんだ。介抱してくれないかな」
「喜んで」
食堂に降りるとがらんどうだった。
朝食の時間を過ぎてしまったようだ。
幸い、昨日ジェンに貰った余りのパンが両方とも残っている。
旅亭を出て、歩きながらパンを齧る。
「今日はギルドの掲示板を見て手頃なモンスター退治のクエストを探そうと思う」
「モンスター退治ですか」
アイカの耳がぴくぴくと動いた。
マキシワンピースに身を包んだアイカはもはや歩く凶器だ。
「嬉しい?」
「はい。戦闘は好きです」
ストレートに言われた。
いうことやること直球だな、この子。
「冒険者だったらしいけど、どんな戦闘スタイルなの?」
「そうですね。前のパーティーでは前線で敵を煽り、攻撃を躱しながら反撃を入れていました」
さらりとすごい事を言った。
「じゃあ武器と盾が必要だね。なにが良い?」
「大抵扱えますが、片手剣と小振りな盾が扱いやすいです。大きすぎると素早く動けません」
「でも小さい盾だと敵の攻撃を受けるとき危ないんじゃないかな」
「基本的に敵の攻撃は全て躱します。盾は躱しきれない攻撃をいなすときに使います」
事も無げに言う。
昨夜の動きを見る限り、身体能力が高いのは確かだ。
「おっけ。俺のダガーも折れてるし、防具も必要だ。まずは武器屋と防具屋だね。一緒に行こう」
「かしこまりました」
西内区へ向かい、狐のお姉さんの武器屋に入った。
片手剣が入れてある樽を覗き込むが、善し悪しが分からない。
種類も豊富で片刃だったり両刃だったり、曲がっていたり真っすぐだったり。
「アイカ、好きな剣をいくつか選んで。そしたらその中から一本買うから」
「よろしいのですか」
「うん。決めたら教えて」
ここはアイカに丸投げしておこう。
武器の選び方なんて分からないし、そもそもアイカが使うものだから彼女に選ばせてあげたほうがいい。
アイカが慎重に剣を見比べている間に店の反対側に回り込んだ。
短剣は仕切り付きの机に収められている。
剣同様、こちらも何を基準に選べば良いのか分からない。
大丈夫、そのための鑑定スキル。
銅のダガー
銅のダガー
銅のダガー
銅のダガーばかり。色気も何もない武器だ。
別にこれに拘る必要もない。
最初に手に入れた武器がダガーだってだけだからな。
だからといって何を武器として選んだら良いのか、平和な現代日本で生まれ育った自分には皆目見当がつかない。
だが小具足という日本古武術があるくらいだ。
それに倣って、柔術と相性が良いとされる短刀を使ってみようか。
欲を言えば両刃よりも片刃がいい。
鍔迫り合いで押し負けても峰があったら自分を切る事はない。
片刃の短剣を探してみると、奥のほうに数本置いてあった。
鉄のサクス
鉄のサクス 【空き】
銅のサクス
流石に脇差とか鎧通しとかは置いてないか。
これは確かスクラマサクスよりもやや短い、ヨーロッパの戦闘用ナイフだっけ。
刃渡りはダガーと同じくらいだ。
【空き】とはなんだろうか。
「いくらですか」
「銅のサクスが一本千ドルク、鉄のは一本5千ドルク」
狐のお姉さんが両手に持った武器を一瞥して値段をいう。
営業スマイルも何もない。
ぶっきらぼうだがそれがイイ。
ていうか銅から鉄になると値段が跳ね上がったな。
「じゃこれは?」
鑑定で【空き】と出た方の鉄のサクスを手に持つ。
「それも5千ドルクだ」
「何か空いてるのは関係ないんですか」
「空いてる?傷でもいってるのか」
狐のお姉さんが怖い顔をして【空き】のサクスを取り上げた。
じっと見つめる。
「冗談はやめてくれ。どこにも損傷はないぞ」
【空き】が分からない?
武器鑑定で分からないのか?
あれは確かラーニングした時に鑑定に統合されたから、下位互換なのだろうか。
ともあれ俺しか分からないというのはラッキーだ。
どっちを買おうかな。
銅と鉄の性能の違いはよく分からないが、常識的に鉄のほうが良いだろう。
所持金は、と。
アイカを買って1泊したから、1万7千760ドルク。
意外とあるな。
ギガントラットありがとう。
見た目何も空いていないが【空き】のある鉄のサクスを手に取り、アイカの元へ歩く。
丁度選び終えた所みたいだ。
「この4本が良いと思います」
銅のショートソード
銅のシミター
銅のククリ
銅のタルワール
見事に4種類の剣を選んだ。
言葉足らずだったと思うのだが、見事にこちらの意図をくみ取ってくれた。
でも【空き】がない。
それが何か分からないが、存在する以上【空き】がある武器を探したほうがいいだろう。
樽の中を鑑定すると、30本ほど武器がぶち込んであった。
ざっと目を通す。
銅のショートソード 【空き】【空き】
【空き】が二つ付いている武器を見つけた。
樽から抜き、アイカに渡す。
「これにしようか」
「かしこまりました」
アイカが手に持っているショートソードと見比べるが、なぜこちらを選ぶのか分からないという顔をしている。
「いくらですか」
「銅のショートソードか。それは5千ドルクだ」
銅のサクスは千ドルクだった。
同じ素材でも短剣より長いので値段も高い。
鉄のサクスと銅のショートソードを合わせて1万ドルクか。
所持金の半分以上だ。
痛手だが買ったほうが良いかもしれない。
武器を40本ほど鑑定したが、空きのある武器が2本しかなかったのを考慮すると結構レアなのだろう。
「この2本をお願いします」
「合計1万ドルクだ」
大銀貨1枚を渡し、礼を言って武器屋を出た。
店を出るとアイカが質問してきた。
「なぜこちらのショートソードが良いと判断されたのでしょうか」
「あー、なんか鑑定したらこれが一番出来が良かったから」
わざわざ【空き】の事をいう必要はない。
「鑑定できるのですか。ご主人様、すごいです」
「ありがとう。はい」
照れながらショートソードをアイカに渡す。
鉄のサクスは鞘に入れてベルトに通した。
折れたダガーはそのままにしておく。
傍から見たら武器を二本所持しているように見えるから、牽制効果を期待しよう。
「えっ…と、よろしいのでしょうか」
「何が?」
「奴隷の私が武器を持つ事です」
「どういう意味?」
「奴隷は普通、武器を携帯しません。反逆を犯し、主人を襲う場合があるからです。戦闘奴隷ならば武器を持つことを許されますが、それでも戦闘中だけです。街中などで帯刀する奴隷はいません」
「ふうん。でもアイカなら良いと思う」
「そうですか。ありがとうございます」
確かに奴隷に武器を渡すのは危ないのだろうが、アイカに刺されるのならぶっちゃけ本望だ。
何度も挿したし、おあいこだね。
やかましい。
「じゃ、次は防具屋だね。あそこに入ってみようか」
通りを挟んだ所に店がある。
盾の形をした看板に大きく防具屋と書かれている。
この武器屋といい、わっかりやすい。




