11話 奴隷商館
リイナに言われた通りに進むと、小綺麗な洋館があった。
手入れの行き届いた庭が心を癒してくれそうだ。
敷地全体を囲んでいる鉄の柵を無視できれば、だが。
門の隣には四角い小屋があり、近づくと大柄な男がぬっと出てきた。
2メートルを優に超える巨体が無言で立ちはだかる。
警備員だろうな。
あれは詰所だったのか。
奴隷を扱うだけあって、厳重なんだろう。
「戦闘奴隷を買いたいのですが、ドゥアンさんはいらっしゃいますか。ジュリア ヴァンダイクの紹介で来たのですが」
「ヴァンダイク家の。左様でございますか。紹介状はお持ちですか」
ヴァンダイク家?
フルネームを出したのはまずかったかな。
紹介状を確認すると、おもむろに紙と筆ペンを取り出し、何かを書き始めた。
スキル 写生 をラーニングしました。
絵描きのジョブを授かりました。
絵描きの恩恵を授かりました。
絵を描いてるの?
そうか。監視カメラが無い世界だ。
誰がいつ入ってきたか記録に残しておくんだろうな。
それにしてもこのゴッツイ看守が絵描きって。
アンバランスでコミカルだ。
ゴリラがクレヨン持ってる様にしか見えない。
暫くしてからペンを置くと警備員が門を開き、中庭に通してくれた。
門が閉められると警備員は詰所へと戻り、代わりに使用人らしき人が出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました。こちらへどうぞ」
蝶や蜂がまばらに飛び回る庭園をゆっくりと歩き、白亜の洋館へと案内された。
入り口すぐ右の部屋へと通され、お茶を出された。
レモンの香りがするハーブティーだ。
ふっくらと座り心地の良いソファに凭れ掛り、しばらく待つとドアが空いた。
小太りの中年男性が入ってきた。
「大変お待たせいたしました。当家の主人のドゥアンと申します」
お辞儀をしている間に、ちらりと鑑定。
ドゥアン
ドワーフ ♂
Lv46
ジョブ 奴隷商人
奴隷商スキル
体力【妨害されました】
魔力【妨害されました】
筋力【妨害されました】
耐久【妨害されました】
敏捷【妨害されました】
器用【妨害されました】
【妨害されました】 【妨害されました】 【妨害されました】
妨害?
スキル 鑑定妨害 をラーニングしました。
奴隷商人のジョブを授かりました。
奴隷商人の恩恵を授かりました。
ん?
奴隷商人が鑑定妨害のスキルって、関係なくないか。
あ、売り物を鑑定されたくないからかな。
なんか腹黒いな。
人身売買してるわけだから腹黒くて当たり前か。
「ヴァイダイク家の皆さまにはいつもご贔屓にさせて頂いております。戦闘奴隷がご入用だと伺っておりますが」
なんかよく分からんがジュリアの実家がそれなりにセレブな事はなんとなく分かる。
「駆け出しの冒険者なのですが、モンスター退治のクエストなどを受けようと思いまして」
「さようでございますか。丁度生きのいい奴隷が何人かおります故、連れてまいりましょう。どのような戦闘奴隷をお探しでしょうか」
「どのような、とは?」
一瞬ドゥアンが沈黙する。
もしかしてお馬鹿な質問しちゃった?
「戦闘奴隷をお買い求めになられる多くのお客様は、ご自身の戦闘スタイルに合わせてパーティーを組むために、条件をお出しになられます。当家には体力のある前衛向けから支援や魔法攻撃を得意とする後衛向きの者もおりますが、いかがいたしましょうか」
なるほど。
それもそうか。
戦闘スタイルは千差万別。
一口に戦闘奴隷といっても色々あるのだろう。
盾として動いてくれる前衛を求める人もいれば、サポート役や魔法使いを探す人もいる。
パーティーの穴埋めが必要な場合もあるだろう。
ともあれ、自分の戦闘スタイルと合うような人でなければならないな。
俺はまだ自分の戦闘スタイルというものが良くわからないが、前衛に分類されるだろう。
じゃあ後衛が良いか?
攻撃魔法で敵を殲滅とか、夢が広がる。
それでなくてもヒーラーや、バッファーのような支援タイプとか。
でもこれは魔王を倒す為に某酒場で新規登録するような仲間じゃない。
あくまで奴隷だ。
戦闘奴隷が後衛なら、戦闘中はもちろん俺の後ろに陣取ることになる。
奴隷に背中を預けるわけだ。
戦闘中に後ろからグサッとやられない確証がない。
少なくとも俺が奴隷なら逃げるためにそれくらいやるかもしれない。
ならば前衛職にするか。
一口に前衛と言ってもやはり種類がある。
大きく分けてタンクとアタッカーだ。
タンクがいてくれれば心強いけど、そうすると攻撃を俺が全負担することになりかねない。
それは困る。正直めんどうだ。
となると一択か。
「前衛が欲しいですね。盾ではなく、敵に接近して攻撃するタイプで」
「かしこまりました。それならば獣人族が良いでしょう。連れてまいりましょう」
ドゥアンが部屋を出ていった。
ハーブティーを飲みながら暫く待つと、四人連れて戻ってきた。
男が二人と、女が二人だ。
みんな露出の激しい服を着ている。筋肉を見せる演出だろうか。
「狼、狐と猫の獣人族でございます」
男性陣は筋肉もりもりのマッチョマンだ。
女性陣も負けず劣らずの体格だが、つくべきところには柔らかそうな肉がついている。
とりあえず鑑定。
ダニー
狼人族(奴隷)♂
Lv12
ジョブ 狂戦士
体力【妨害されました】
魔力【妨害されました】
筋力【妨害されました】
耐久【妨害されました】
敏捷【妨害されました】
器用【妨害されました】
【妨害されました】
アリーナ
狐人族(奴隷)♀
Lv10
ジョブ 女戦士
体力【妨害されました】
魔力【妨害されました】
筋力【妨害されました】
耐久【妨害されました】
敏捷【妨害されました】
器用【妨害されました】
【妨害されました】
テオ
猫人族(奴隷)♂
Lv8
ジョブ 剣士
体力【妨害されました】
魔力【妨害されました】
筋力【妨害されました】
耐久【妨害されました】
敏捷【妨害されました】
器用【妨害されました】
【妨害されました】
キーラ
狼人族(奴隷)♀
Lv10
ジョブ 剣士
体力【妨害されました】
魔力【妨害されました】
筋力【妨害されました】
耐久【妨害されました】
敏捷【妨害されました】
器用【妨害されました】
【妨害されました】
あらま。
また鑑定が妨害されちゃった。
しかも全員。
スキル 対象変更 をラーニングしました。
対象変更?なんのこっちゃ。
あー、たぶんドゥアンだ。
鑑定妨害は自分にかけるスキルで、対象変更でそれを奴隷にかけたのだろう。
色々と応用がききそうなスキルだな。
ありがたく頂いておこう。
でも困ったな、これだとレベルしか判断材料がないぞ。
黙ったまま四人を見ていると、違和感に気づいた。
敵意を向けられているわけではないが、全員からネガティブな空気が漂ってくる。
なんか嫌だな。奴隷として買われるのだから仕方がないのだろうが。
「お気に召しませんか」
四人を見たまま何も言わないでいると、ドゥアンの方から切り出してきた。
「他にはいませんか」
「前衛に適した獣人族ならばもう一人います。しかしこの四人に比べ見劣りしますが」
「構いません。連れてきてください」
「かしこまりました」
ドゥアンが指を鳴らすと、先ほど案内してくれた使用人が部屋に入ってきた。
廊下で待機していたのだろう。
耳打ちをされ、頭を下げて部屋を出た。
すぐに一人を連れて戻ってきた。
小汚くてみすぼらしい恰好の女性だ。
ボサボサの頭の上に茶色いたれ耳が乗っている。
部屋に俯きながら入ってきた女性が顔をあげると俺を見据えた。
その瞬間、胸が揺れた。
プルプルと柔らかそうに弾む胸から視線を上方にずらすと、くりくりした目があった。
丸い小顔が小動物を連想させる。
あら、可愛い。
「犬の獣人族です。種族的に他の獣人族と比べ温和ですが、その分主人への忠誠心が極めて
強く戦闘奴隷としてよく扱われます」
先の四人とは違い、なぜか雨合羽のような服を着ている。
そのせいで体形が分からないが、着痩せしそうなタイプだと思う。
首や手足は細いのに、胴体が厚く見えるからだ。
胸の双丘が雨合羽を支えて、体のラインを隠しているのだろう。
しかし見た目華奢なこの女性は、本当に戦闘奴隷として仕事ができるのか。
アイカ
犬人族(奴隷)♀
Lv5
ジョブ 獣戦士
体力【妨害されました】
魔力【妨害されました】
筋力【妨害されました】
耐久【妨害されました】
敏捷【妨害されました】
器用【妨害されました】
【妨害されました】




