10話 ギルドマスター
観客を置き去りにしてエントランスホールに戻り、受付カウンター後ろのドアを通り二階に上がった。
ジュリアとリイナもついて来ているが、階段を上がってすぐにロイが追い払った。
渋々と引き返す後ろ姿が可愛らしい。
二人のお尻も可愛らしい。
面会室の札がある部屋の中央にはソファが二脚置いてある。
向かい合って座ると、ロイがお茶をだした。
口をつけると白湯だった。
「さっきは悪かったな。で、見習い君。どういうことか説明してもらおうか」
「なんのことでしょう」
ラーニングのことは黙っておこう。
「しらばっくれるな。スキルだ。二発目のファイアボールを俺が受け流したとき、瞬歩で逃げただろう。あれはバトルマスターのスキルだ。お前がなぜそれを使える?」
なぜって、ラーニングしたからねぇ。
「パリイもだ。斬鉄剣には武器破壊のスキルが付与されている。実際ダガーの先端を折っただろう」
武器についているスキルまでラーニングしたのか。
魔道具の結界も覚えたし、相変わらず便利なスキルだ。
「だが二撃目は見事に受け流された。ダガーが折れなかったということは、パリイを使ったって事だ。使えるのならばなぜ、最初から使わなかった。ヒールが使えるのも妙だ。ファイアボールは種族別特異体質技だから可能だとして、ヒールはエルフのだ。ジョブチェンジしたならともかく、お前には使えないはずだ」
ロイが一気にまくし立てた。
あらら、勘のいい事。
隠さないほうがいいのかな。
今更隠しようも無いしな。
あー、色々と使わなければ良かったなあ。
でもそうしなければ納得させられそうになかったし、冒険者歴一日で免許剥奪とか後免被りたいし。
逃げようがないな。
仕方がない、諦めよう。
「ラーニングというスキルです」
「なんだそれは」
「俺もよく理解できていません。任意で使おうとしても使えません。でも他人がスキルを発動するのを見たら、何故かそれを使えるようになるんです」
ロイが目を丸くして身を乗り出した。
「見たらって…見るだけか」
「ええ。ですから瞬歩も最初にお使いになられたときにラーニングしました」
「エントランスホールでか」
「更に言ってしまえば、パリイも戦闘中にラーニングしました。ロイさんがファイアボールを受け流したときです」
大きなため息をつきながらロイが頭を掻きむしる。いぶし銀な髪が台無しだ。
「いいかユウキ。それが本当なら、そのスキルは規格外だ。この事は絶対に口外するな。寄ってくる奴らは適当にあしらっておけ」
「そのつもりです」
「しつこく質問してくるような奴がいたら俺の名前を出せ。よほどのバカでなきゃそれで黙る」
それはありがたい。
「で、ランクはどうするよ。Fランクのままがいいか。ユウキの実力なら俺の権限でBまで上げられるぞ」
「いやいや、そんな前代未聞なランクアップはやめてください。注目されたくないんで、Fのままでいいですよ」
「そうか、もったいないな」
少し間が開く。
白湯を啜る。
「ところでユウキは一人か?」
「ええ、まあ。見習いとパーティーを組むような酔狂な人はいませんよ」
「それもそうか。しかしそのスキルを隠しながら冒険者として活動すると、一人では色々と面倒な事になるぞ」
「正直どうしようかと思っています」
スキル以前に、この世界の常識を何も知らないから一人では渡り歩けないと思う。
海外旅行とは訳が違う。
「なら奴隷を買ったらどうだ。高ランクモンスターを討伐しても奴隷の手柄だといえば良い」
「奴隷…を買えるのですか」
「知らんのか」
「田舎者なので」
「よほどの田舎でも犯罪者は奴隷に落とされるだろう。どこだ、アスティ辺りか」
アスティは分からないが、地名だろう。
「多分もっと遠くです」
「そうか。奴隷もないような遠方から来たんだな」
あっさりと引き下がってくれた。
「まあ頭の隅にでも置いておけ。この街にも奴隷商館はあるから、旅が厳しいと感じたらパーティーメンバーを増やしていけばいい。早速行ってみたらどうだ」
「分かりました。そうします。助言ありがとうございます」
立ち上がり、部屋を出ようとして、足を止めた。
「ところで、良いんでしょうか」
「何が」
「この際だから言ってしまいます。パリイと瞬歩以外にもロイさんのスキルをラーニングしました。ロイさんが苦労して手に入れたスキルを盗んでしまったわけです」
自分が盗まれた側だったら激怒する。
なぜロイは平気でいるのか。
なぜ、こんな何処の馬の骨かも分からないような奴に良くしてくれるのか。
「で?」
つるりとした顔で、それがどうしたと聞き返された。
「人のスキルを勝手に盗んでしまうような奴ですよ。放っといて良いんですか。さらにスキルを隠すことに協力していただいたり、奴隷について助言を頂いたり、なぜこんなに良くしてくれるのでしょうか」
「まあ、信用できると思ったからな」
あっさりと言われた。
「何故でしょうか」
数秒の沈黙の後、ロイが笑い出した。
「何か変な事でも言いましたか」
「いやー、素直な奴だなと思って。なぜ信用できると思ったか、だって?特に理由はないが、勘だ。理由が欲しければ、その素直さだ」
「そう…ですか」
「納得いかないか。気にするな。ギルドマスターの俺が信用してるって言ってんだ。胸張って冒険者してこい。ほら、行った行った」
釈然としないが、追い出されたので礼を言って辞した。
一階に降りるとジュリアとリイナが待っていた。
「あ、お疲れ様です」
「お疲れ。で、ギルマスなんだって?」
「大した話ではありませんでしたよ。冒険者ランクを上げるかどうか、あとは仲間はいるのかって聞かれました」
嘘は言っていない。
ラーニングの事は絶対に秘密だ。
ロイにはバレてしまったが、だからと言ってジュリア達に説明する必要も義理もない。
「ランクを上げてくれるのか。良かったな。飛び級でDランクか?」
「Bまで上げられると言われました」
「「はああ!?」」
ジュリアとリイナがハモった。
意外と息合うな、この二人。
「す、凄いな。一日でFからBとは。う、うけたのか?」
「辞退しました。そんな前代未聞なランクアップの仕方をして注目されたくありません」
「そ、そうだな。賢明な判断だ」
明らかに動揺しているジュリアの横からリイナが口を挟む。
「それで、パーティーの方は?お仲間はいらっしゃらないと仰ってましたが」
「あー、いないといったら奴隷を買ったらどうだ、と進められました」
「戦闘奴隷ですか。良い提案だと思います」
「それで、この町には奴隷商館があるとか言われて。何か知ってますか?」
ジュリアが軽くため息をついた。
「アイツそこまで言って場所を教えていないのか。相変わらず適当な奴だ」
ギルマスを軽々しくディスれる貴方は何者ですか、ジュリアさん。
「奴隷商館なら南内区にありますよ。ベルモント亭のある路地を過ぎて、真っすぐ進んで右側です。その一角だけ高い塀で囲まれているので、すぐに分かると思います」
「ドゥアンの所か。ちょっと待ってろ」
ジュリアがカウンターから紙と羽ペンを取り出し、何か書き始めた。
「ほら、紹介状。ドゥアンは知り合いだ。アタシの紹介だと言えばすぐに通してもらえるぜ」
紹介状を受け取り、礼を行って出発しようとしたらリイナに呼び止められた。
手を掴まれ、大銀貨を4枚渡された。
「ギガントラットの討伐報酬4万ドルクです。ゴタゴタがありましたが、確かにお渡ししました」
仕事もきっちりこなせる美人さんだ。
惚れてしまう。
俺が惚れるのではなく俺に惚れて欲しいのだが。
そういえば魔石を渡してないんだけど良いのかな。
ま、いっか。
礼を言ってギルドを後にし、南広場を抜けて奴隷商館へと向かった。




