8話 レストア作業
シュラのマニューバのレストアが始まった。
機体の周りに小屋を建てて、目隠しをしてから作業が行われる。
狭い街なので、ある程度の噂が立つのは仕方ない。
まずは、タイヤがないので、巨大な管虫から作ったものが装着された。
そう――シュラが倒した管虫である。肉としては使えなかったが、皮は加工に回されてタイヤや、その他の大型の製品になる。
この管虫も結構な値段で売れた。管虫から作ったタイヤは黒くなく、濃い飴色をしている。
「ゼロ、とりあえず動けるようになったよ」
『ああ、タイヤがついたな。これで駆動機関さえ始動できれば飛び立てる』
「そりゃ、まだ気が早いよ」
余り大声でゼロと話すと気味悪がられるので、ひそひそ話をする。
胴体に梯子をかけ、セラミック製の外板を外し、中身をチェックしている親方に声を掛ける。
一緒に深緑色のツナギを着た、20代後半ぐらいの女性が覗きこんでいる。
「親方! 炉の方は、どうですか?」
「う~む、炉はすぐに動くと思うが、制御系が見たこともない作りだな――こりゃ」
「難しそうですか?」
「はっはっはっ! 大丈夫だ! うちには、こいつがいる」
親方は、目の前にいる女性を指さしたのだが、機体の中を覗きこんでいる女性が叫び声を上げた。
「ギャーッ!」
「どうした?!」
「これって、タービン機関じゃないの!? こんなの壊れたら直せないよ!」
普通のマニューバーは、蒸気でピストンを動かしているが、この機体はそうではないらしい。
「あの、タービン機関って、ピストンじゃないんですか?」
「そう!」
女性は、そう言うと――梯子から降りて、シュラの前へやって来た。
薄い茶色の髪をポニーテールにして赤い布で縛っている。外での作業が多いのか、日焼けをした顔には、そばかすが多い。
そのそばかすよりも、シュラの視線は目の前にある彼女の胸に誘導されてしまった。
ツナギの前が開けられて、胸の谷間が丸見えなのだ。
「は、初めまして、シュラです」
「あなたがシュラ君ね! こんな素晴らしいものを見つけてくれてありがとう!」
女性が、シュラに抱きついてきた。
「おいおい、レオナ。そいつは、これの持ち主で金主様なんだぞ」
「おっと! こんな天女のような機体を整備させてくれて、ありがとうございます!」
「はぁ……」
シュラは胸を押しつけられて、苦しいのか嬉しいのか、複雑な表情をしている。
「ちなみに~、シュラ君は年上は嫌い?」
「すみません、俺は結婚してまして……」
「え゛?」
レオナの顔が、途端にとてつもなく嫌そうな顔になる。
「はっはっはっ! この女は腕は凄いんだが――顔に出るし、言いたいことを言いまくる奴でな」
親方は笑って腕を組み、彼女に呆れている。
「ふん! 空気を読むなんて、私はできませんからね」
「それで、あちこちの街でもめてな、こんな辺境にいるわけだ」
「余計なお世話ですよ。でも、そのお陰でこんな素晴らしいものに、巡り会えたんじゃないですか」
「そりゃ、そうだがな」
彼女の話では、この機体の駆動機関はピストンではなくて、タービンだという。
「蒸気タービンなんてもう作れないから、壊れたら修理不可能よ」
正確には蒸気タービンも作れるのだが、この世界の技術では耐久性に問題があり、実用にならない。
「はぁ……なるべく壊さないようにします」
タービン機関はピストン機関に比べて効率がいい。ただ車のようにストップアンドゴーを繰り返すような乗りものだと、燃費が著しく悪い。
その点、飛行機はエンジンを回しっぱなしだ。
それにしても蒸気タービンを使ってプロペラを回しても、ターボプロップ機というのかは定かではない。
その他の制御系の解析にも時間が掛かるが、問題ないと言う。
シュラは機体の構造をゼロに尋ねてみた。
「ねぇ、ゼロ? この機体の構造って解らないの?」
『勿論解っているぞ? 機体を管理しているのは私だし、自己診断機能もある』
ゼロに話を聞いて――先に直して欲しい所を、教えてもらう。
「あの~レオナさん」
「何かな?」
「まずは、水制御バルブを動かしたいんで、バルブの電装のチェックしていただけますか?」
「まぁ、基本よね」
炉が動いていないので、機体の発電機も動いていない。電装をチェックするために外部電源のキャパシタを使う。
電源がきたので、ゼロが自己診断機能を使ってチェックを行っている。
「1~4番まで水管があるんですが、1番と4番のバルブが動かないそうで……」
「え? なんでそんなこと解るの?」
「いやぁ……勘で」
「はぁ?」
レオナが両手を腰にやって、シュラの顔を覗きこんでくる。
「おい、レオナ! 先ずは金主様の言う通りに動け」
親方にせっつかれて、レオナが渋々動き出した。
「はいはい、1番と4番ね――」
しばらく作業をして、水制御バルブのチェックしていたレオナであったが、シュラの言う通りの故障だったので、驚きの声を上げた。
「あとですね――リヒート用の燃料バルブも動いていないようです」
「え゛?」
次々と故障の箇所を的確に指摘するシュラに、レオナは疑うことなく従っている。
「すみません、レオナさん。俺みたいな素人が口を出してしまって」
「何いってんの! 君の指摘はどれも的確よ? この機体の構造が手に取るように解っているじゃない」
(そりゃ、本人――人じゃないけど、直接聞いているんだから当たり前だよな)
水管や燃料管はセラミック製なので、破損や劣化はないが、ジョイント部分やパッキンがダメだ。
管虫を使ったジョイントや、パッキンに交換。プロペラを動かす白いタービン機関は、丸ごとクレーンで吊るして降ろされた。
その後、全バラされて、タービンブレードや軸受の摩耗などのチェックが行われている。
その中に、傘のような風車らしき白い部品が見える。
「ゼロ、あの風車みたいのは何なの?」
『あれは、リヒートに使う遠心コンプレッサーだ』
通常のリヒートは、炉に送り込んだ、高温高圧の燃料に外部から引き込んだ空気と混合して燃焼――推力を生み出す。
この発掘された機体は、さらに外から引き込む空気をコンプレッサーによって圧縮して、効率と推力を高めているのだ。
遠心コンプレッサーには手動のクラッチがついていて、コクピットからオンオフが可能だ。
「あの、レオナさん。リヒート用の遠心コンプレッサーって、扱ったことがありますか?」
「ああ、これ? よく知っているわね! 一度、発掘マニューバの整備を手伝ったことがあるから、構造は知ってるわよ。この部品も2度と作れないから、破損させたらパーよ」
遠心コンプレッサーの形状は、複雑な3次元構造になっていて、手作業では製作するのは不可能といっていい。
CNCなどの機械加工機がなければ製造は困難を極めるだろう。
シュラの頭の中にも、謎の記憶が蘇ってくる。こいつの構造は、遠心式のジェットエンジンとほとんど同じ。
簡易のジェットと呼んでもいい代物だが、このリヒートには排気タービンがついておらず、コンプレッサーを駆動機関で動かしている――一種のダクテッドファンエンジン。
普通のマニューバのラムジェット式のリヒートに比べれば、一歩進んだ機構と言える。
この世界の一般家庭で使われている冷蔵庫などにもコンプレッサーが使われているが、ピストン式である。
作業を見ていた親方が話しかけてきた。
「しかし、シュラよ! 女房を放っておいていいのか?」
「ちゃんと夕方からは相手してますよ。それに、このマニューバを動かさないと、生活の糧になるんですから」
「まぁ、そうだな」
「それに女の子が何を考えているか、よく解らなくて……」
「そりゃ解らん! 俺だって解らん! ウチのと50年近く一緒だが、未だに解らん!」
親方とシュラが頭を抱えていると――そこへ、シュラが発明した可変スパナを持った、レオナが割り込んできた。
発掘機の規格は、今の時代のものとまったく違うため、シュラの発明が役に立つのだ。
この世界にはおおよそ、3つの規格がある。
1つは帝国規格――軍事物資や生活用品などは、この規格で統一されて製造されている。
2つ目は――マニューバ等を製造している工房が採用している、独自規格だ。
これが、千差万別で非常にやっかい。
3つ目は――発掘品などに使用されている、失われた規格。
遺跡からは各種動力に使われている無尽炉だけでなく、マニューバの本体も発掘される。
今この世界を飛んでいるマニューバは、この発掘されたオリジナルのコピーなのだ。
シュラが発掘したマニューバーをはじめ、オリジナルは構造体や外板にセラミックが多用されており、軽量で強靭。
発掘物に使用されている、セラミックの加工技術はすでに失われており、破損すると修理が厄介となる。
家庭などで使われているセラミック材料は、遺跡鉱山から発掘された物だが――。
かつて存在したセラミック溶接技術なども失われて、破損した場合は接着剤でくっつけるぐらいしかできない。
「シュラ君ってちょっと朴念仁っぽいからねぇ」
レオナがちょっと呆れたようにつぶやいた。
「それは否定するつもりはありませんよ。ただ、それは彼女も解ってくれていると思ったんですけど」
「そりゃ解っていても、女にはへそを曲げたい時があるんだよ」
そんな話をしつつ、順調にレストアが進み――ある日の夕方。
シュラは、マキと一緒に夕食を摂っているのだが、彼女の機嫌はあまりよろしくない。
テーブルの上に並ぶ料理は美味しい。「アレンジをしなくていいから――」とお願いした成果が出ている。
「マキ――ごめんよ。マニューバばかりで、君に構ってあげられなくて」
「ぷー! でも私のわがままだから、それは解ってる。マニューバは、シュラの商売道具なんだもん。ちゃんと使えるようにしなくちゃ、私達の生活にも関わってくることだし」
「そうなんだよ。マニューバって落ちると危ないしね」
実際に、事故も結構起きている。キチンと整備をしていれば落ちることはないが、事故が起きれば命にも関わる。
そして落ちた機体はすぐに回収しないと、人に盗られてしまう。
それを専門に行う回収屋もいるぐらいなのだ。
二人の生活のため――マキも頭で解っていても、心では寂しいのだろう。
それを察したシュラは、彼女にある提案をした。
「マキ、明日一緒に、俺のマニューバを見てみないか?」
「え? いいの? ほんとに?」
「ああ」
(マキの顔が明るくなったような気がする)
まさか彼女がマニューバにヤキモチを焼いているわけではあるまい。
(俺と一緒にいたいってだけだと思うけど……)
シュラは、彼女をマニューバのレストア現場へ連れて行くことにした。
――発掘したマニューバーのレストアが始まった次の朝。
シュラはマキを連れて、ギュオール運送の片隅に作られたレストア小屋へやってきた。
少々離れた所にマキを待たせると、親方の所へ行く。
「おはようございます」
「あっ! シュラ君! ここ見て、ここ! 解る?」
レオナに手を引っ張られて、マニューバの中を覗きこむと、ゼロに確認をする。
「う~ん――ここに信号が来ていないので、回路ブロックの不良かと……」
回路ブロックというのは、集積回路に近い。
「へぇへぇ~ふ~ん。在庫あったかなぁ……ふぅ」
「大変ですね」
「本当だよ。この機体は、すべての制御が回路ブロックを中継して行われているのね。発掘マニューバも何機か見たけど、こんな造り見たことがないよ」
通常の機体は、操縦桿からワイヤーが伸びて、直接方向舵や補助翼に繋がっている。
普通はそういう構造になっているのだが、この機体はすべての信号が一旦回路ブロックに入力されてから、動力を使って操舵を行う――フライ・バイ・ワイヤ方式だ。
この構造のため、ゼロが行う機体制御だけでもマニューバは飛べる。
「ちょっと、回路ブロックの在庫を見てくる」
レオナから開放されたシュラは、親方に確認を取ることにした。
「親方、ちょっと妻にレストアの様子を見学させてやりたいんですが? いいですか?」
「ん? そりゃ、お前さんが金主だからな。お前がいいなら、いいぞ」
マキの所へ走っていくと、彼女をお姫様抱っこして、マニューバの下へ連れてくる。
「これが、シュラのマニューバなの? ――白くて綺麗だね!」
「べっぴんさんだろ?」
何故か、親方が鼻高々だ。
「これが、俺たちの生活を支えてくれるものになるんだよ」
『シュラ、それが君のパートナーか?』
「……そうだよ、今はちょっとごめんね」
機体に近づくと、ゼロとひそひそ話をする。
「あ~っ! だ~れ? こんな所に女の子をいれたのは?」
「俺の妻のマキですよ」
「マキです、皆様よろしくお願いします」
彼女がぺこりと頭を下げた。それを見たレオナが不機嫌そうな顔になったのだが、すぐに悪い笑みを浮かべて、シュラに抱きつく。
体中を撫でまわし、シャツの中へ指をいれてきた。
手が油で汚れているので、シュラの身体やシャツも油だらけだ。
「ねぇ、シュラ君。私を~君の愛人にして、この機体の専属整備士にしない?」
「ええっ?」
「そうすればぁ――こんな糞爺の下で働かなくても済むしぃ」
「おいおい、言いたいことを言ってくれるじゃねぇか」
彼女の言葉に親方が呆れた顔をしている。
「私が、空気読まずに言いたいことを言うのは知ってるでしょ?」
「専属整備士の話は、とても魅力的な提案なんですが、断りします」
「もう! 即答?! ちょっとは悩むとかしてよ!」
「おい、レオナよ。お前さん、男の話を聞かないと思ったら年下趣味か?」
親方の言葉に彼女が憤慨している。
(そんな訳ないでしょ?! たまたま気の合う男がいたら、年下だったってだけだし!)
「愛人よ! 愛人! 何をしたっていいんだからぁ! 男って皆、ハーレムを目指しているんでしょ? ほらほら! 胸だって大きいし!」
レオナが、ポニーテールを揺らし、自分の胸を寄せてあげる仕草をすると――それを見たマキが、むっとした表情をした。
彼女の胸は寄せて上げるほどないのだ。
「ハーレムなんて考えたこともないですよ」
「ええ~?」
「わっはっは! ふられたな。シュラはマニューバ一バカ一代だからな」
親方は実に嬉しそうである。
「畜生! この糞爺!」
レオナは吐き捨てると、マニューバの中に潜り込んでいく。
これで怒って、レストア整備を放り出されたらどうしようかと思ったが、その心配はなさそうだ。
レオナがシュラから離れると、今度はマキが抱きついてきた。
「わはは! もてもてだな色男! まぁ、それはおいといて――シュラ、武装はどうする?」
「う~ん、やっぱり下につけるしかありませんねぇ」
通常マニューバの胴体下面には、リボルバーカノンが装備されている。
普通はそうなのだが、この発掘マニューバは、その位置に魔砲が備えつけられているのだ。
「やだやだ! こんな美しい機体に、そんな無粋なものをつけるなんて!」
レオナが青筋を立てるが、武装は必要だ。
「魔砲じゃ、数発しか撃てませんからね」
発掘マニューバを操る者でも、魔力のない者は魔砲を降ろして、そこにリボルバーカノンを装備している。
「武装は後回しでもいいが、習熟訓練はどうするんだ? まさか、いきなり飛ぶわけじゃないよな?」
「そのつもりですけど」
「おいおい、正気か?」
マニューバは単座だ。無理やり乗り込んでの習熟訓練は少々難しい。
通常は、ナイツの家族が小さい頃からコクピットに乗せて、飛行に慣れさせる。子供なら、2人乗りができるわけだ。
ナイツの知識と技術は、身内から身内に受け継がれて血縁以外が入り込む余地は殆どないのだ。
日本のような育成機関があればそれも可能なのだが――この世界にそのような機関は存在しない。
それに近いものがあるとすれば――軍隊のマニューバ部隊がそれに当たる。
まさに、一子相伝と呼ばれるぐらいに、パイロットの知識と技量は受け継がれている。
ナイツが軍隊に入るのは、親が軍人の生粋の軍属か、何らかの理由でマニューバを失った者が多い。
国策上、ナイツの消耗が多い帝国空軍では、積極的に育成も行っている。
単座機での習熟訓練が無理な場合は、複座のマニューバをレンタルして習熟訓練をする。
それが普通の機体とナイツの関係だが、このマニューバは違う――ゼロという思考ユニットが乗っていて、機体のコントロールも可能なのだ。
その分、構造が複雑にできている。
「詳しくは説明できませんが、このマニューバは、ある程度の機体制御を自分でできるんですよ」
『ある程度ではないぞ、シュラ。自立飛行も可能だ』
「それを今バラすわけにはいかないからさ」
「ああ! それで、こんな複雑な構造をしているのね?! だって回路ブロックから、制御の回路が伸びてるんだもん」
会話を聞いていたマキが心配そうな顔をしている。
「大丈夫だよ、マキ。このマニューバが、俺を守ってくれるから」
「本当?」
「本当だよ。彼も大丈夫だって言ってる」
「彼?」
「マニューバだよ」
横で話を聞いていた親方が腕を組んで唸る。
「そんなマニューバは初めてだぜ――って言いたいところだが、1人で飛ぶマニューバの話は聞いたことがある」
「ええ? 本当に? 私は、そんなの聞いたことがないよ」
レオナが機体の穴から顔を出した。
「発掘マニューバに限られる話だがな。ナイツが死んでいたのに、マニューバが1人で着陸したとかな」
「それって、幽霊とかじゃなくて?」
レオナは穴から首を引っ込めて、恐る恐るこちらを覗いている。
(もしかして、レオナさんは幽霊とかオカルトが苦手なのかな? それにしても――親方の話からすると、他のマニューバにもゼロのような喋る奴がいるのか)
「ゼロのほかにも、喋るマニューバはいるのかい?」
『私と同型機は7機だが、その他の機種がどのぐらい残っているのかは不明だ』
「ゼロから7機ってこと?」
『いや、1から7までだったが、私は7だった』
「なんで7がゼロになったの?」
『私が優秀過ぎたため、ナンバーをゼロに戻されたのだ』
「それって自慢なの?」
『私に自慢するなどという感情はない。これは確固たる事実だ』
その時、マニューバの炉から、水蒸気が勢いよく噴き出した。
「やったぁ! 動いたよ! シュラ君!」
今は、駆動機関を降ろしているので、蒸気が吹き出したが、この蒸気でタービンを動かしてプロペラを回すのである。
原理的には蒸気機関と一緒だが、マニューバはボイラーではなくて、無尽炉を使うところが違う。
駆動機関は問題ないし、炉も動いた。これで飛ぶのが確実になったわけだ。
これから、レストアは細部に移っていく。
――その日の夕方。義理の母――マキの母親がシュラの家にやって来た。
テーブルに、義母の手作り料理が並ぶ。定番の管虫と野草の炒めもの、レッサードラゴンのハンバーグもある。
味つけは、マキに凄く似ているのだが――彼女の料理は、この母親から習ったものだから当然といえる。
「さぁ、たんと食べておくれ」
「「いただきま~す」」
「あ、美味しい」
「家から秘伝のタレを持ってきたからね」
「母ちゃん、その臭いの持ってきたの?」
義母が持ってきたのは、管虫の新鮮な内臓を塩漬けにして、発酵させたもの――虫醤だ。
「ほんとちょっとだけ、入れるんだよ。それで味の深みが全然違うから」
「それ、手につくと、臭いが取れなくて……」
「それよりマキ? ちゃんとした料理を作っているんだろうね?」
母親としても、娘が新婚生活をちゃんと営んでいるが、心配のようだ。
「大丈夫だよ母ちゃん。シュラと話し合って普通に作ることにしたんだから。でも、もうちょっと可愛い方がいいと思うんけど」
「いやマキ――料理に可愛いとか要らないと思うんだけど……」
「ええ~? 見た目が可愛いと、テーブルの上が明るくならない?」
「一理ある! ――って言いたいんだけど」
「全く、済まないねぇ……料理の筋は悪くないと思うんだけど」
「俺も、そう思います」
実際、マキは料理は美味いのだ。
料理を食べながら――シュラは、義父のことを聞いてみた。
「お義父さんは、まだ怒ってますか?」
「気にすることはないよシュラ。身内にナイツができたなんて、近隣にも自慢できるような凄いことになのにさ」
「そうだよね、母ちゃん」
「自分ができないようなことを、あんたがあっさりとやって抜けたんで、僻んでるのさ。小さい男だよ、全く」
実際はあっさりではなく、命がけだったのだが。
マキの両親には、マニューバを見つけてレストア中だと報告してある。
身内には大変なできごとなのだが、口外無用にしてもらっている。
「でも、シュラのマニューバが飛び始めれば、父ちゃんも認めざるを得ないと思うよ」
「全くねぇ……この前の冗談じゃないけど、あたいもここに住もうかしら?」
「俺は構わないですけど……」
「私は、やだ! ……母ちゃんに家事で絶対に怒られる」
「怒られるようなことをしているのかい?! あたいとマキがいなくなれば、あの男も帝都辺りに行って好きなだけ革命とやらができるじゃないか」
義母は、テーブルに肘をついて呆れた表情をしている。
「それって、父ちゃん絶対に行かないと思う……」
「だから、ダメなんだよ。このシュラを見習いなさいっての!」
「けど……マニューバのために、なにもかも犠牲するつもりでしたし、マキや、お義母さんお義父さんにも、ご迷惑を……」
「本当にね! そのぐらい真剣に人生投げ打って取り組まないと、何もできやしないのさ! そして、それを支えるのが女の役目! ちゃんと支えているんだろうね? マキ?」
「う~ん……多分……」
気のない返事に、義母はマキを睨みつけた。彼女は母親の言うことには全く逆らえない。
「お義母さん、マキはちゃんとやってくれてますよ」
「本当かい?」
(マキも、1人で待っているよりは、お義母さんがいた方が退屈しないと思うんだけど)
夕食後、義母が大人しく引き上げたので、マキはホッとしているようだ。
その日のマキは、普段よりくっついて離してくれなかった。





