6話 レッサードラゴンを運ぼう
シュラは遺跡と思われる地点で、レッサードラゴンに追われながらも、マニューバを発見した。
発見したら次は回収だ。街に連絡をつけないといけないが、この世界には無線がない。
とりあえず、どうしようか迷ったシュラであったが、マニューバの前方を確認すると、天井が高く広い通路を歩き出した。
100m程歩いて終点まで行ってみると、外へ繋がっていたのだが、太い木の根が垂れ下がり出口が塞がれている。
(よし、とりあえずは、この木の根を取り除かないと)
その後は、ここでキャンプをすることにした。
本当は、マニューバの近くにいたいのだが、あそこにはドラゴンの屍がある。
そのうち腐臭を放ち始めるだろう。そんな状態になったら、とてもじゃないが、あそこにはいられない。
ドラゴンに追われて、あちこち走り回ったが、上がったり下がったりしていただけなので、迷うこともない。
彼が開けてくれた通り道は、ちょっと人は通れそうにないので諦めた。
3回程往復して荷物を運び終えると、通路の出口に積む。
荷物の中から弾薬を取り出すと、シュラは腰からピストルを抜いた。
ドラゴンに1発使ってしまったので、折って空薬莢を排出。次弾を装填して上に狙いを定めた。
引き金を引くと、炸裂音と共に太い木の根がバサバサと落ちてくる。
そして次弾を装填して次の根を打つ。それを5回程繰り返すと――出口は、ほぼ綺麗に口を開けた。
「ふぅ……」
『こっちにはこないのか?』
ゼロの声が聞こえてきた。
「そこには生き物の死体があって、腐臭が漂いそうだからね」
『承知した』
「ちょっと聞きたいんだけど、何年ぐらいそこで待ってたんだい?」
『この世界の暦が変わってなければ1000年程だと思われる』
「1000年?!」
マニューバや遺跡を残した文明が滅びて、そのぐらいたつと言われているが、生き証人がいるとは。
(人じゃないけどね――だけど話し相手ができたのはよかった)
シュラは、炸裂弾で落とした木の根を集めて、火をつけることにした。
狼煙を上げて、近くを飛んでいるマニューバと連絡を取るためである。
無線機がないので、こういう方法しかない。
ピストルから発射する信号弾もあるが、すぐに落下してしまうので、相手が近くにいないと使えない。
周りの枯れ木も集めて、細かく削り火種を作る。
落とした根っこは生木なので、よく燃えないだろう。持ってきた斧と鉈を使ってなるべく細かくする。
普段は燃えない生木は煙を出すのは好都合とも言える。
出口付近に木を積んで、火をつけるとモウモウと白い煙が立ち上る。
(近くを誰か通ってくれればいいけど……)
じっと待っていても仕方ない。
「そういえば、腹が減ったな。散々動きまわったからな」
食料なら、仕留めたばかりのレッサードラゴンの肉が山ほどある。
血抜きはできていないが、なんとかなるだろう――だが、この階には水がないのに気がついた。
(キャンプするなら下の階の方が便利だったな。けど、ここには話し相手もいるし)
「ゼロ? 聞こえてる?」
『ああ、聞こえている』
「ここら辺に水はないかな?」
『解らない』
(そういえば、彼はどうやって物を見ているのだろう?)
「君は、さっきの目玉で景色を見ているの?」
『そうだ……それと超音波レーダーだな』
この世界にはレーダーもないが、シュラの中にある謎の記憶が補完してくれる。
「レーダーっていうのは、ある種の探知装置のことか……」
『その通りだ』
ゼロは、4基の全周カメラと超音波レーダーによって、周囲の地形を把握している。
彼によると、小動物が機体に脇の消えているので、抜け道があるのではないか――という。
シュラは、セラミック製のバケツを荷物から出すと、それを片手にマニューバの所へ戻り通路を探す。
バケツは発掘されたセラミック製の容器に後付でヒモなどを使って取手を付けたものだ。
「あった、木の根っこに隠れていたのか」
根を鉈で切り払うと、信号機で先を照らす――すると階段を見つけた。そこを上へと登っていく。
(かなり広い遺跡だな。探せば他のマニューバや、無尽炉もあるかもしれない)
これだけ大きな遺跡なら、セラミック鉱山としても優秀だろう。
帝都の開発業者と手を組めればいいが、勿論シュラにはそんなコネはない。
「ゼロのいるあそこの通路を滑走路にして、ここに住んでもいいぐらいだ」
階段を登って行くと、広間に出た。広い場所だが、草に埋もれており、白い羽虫が多数舞っている。
(これだけ草が生えているってことは、水があるってことだ)
探すと、壁から水が湧き出ていた。遺跡の上に降った雨水などが、滲み出ているのだろう。
持ってきたバケツに水を汲んで、元の場所へ戻る。
途中で、レッサードラゴンの頭の肉を切り取ってみた。ほんの少しだが、これでも腹一杯になるだけの量がある。
(勿体無いなぁ……なんとか運べたらいいのに)
街の人間に配ってもかなりの量になるだろう。
荷物の場所に戻ると、肉の処理をする――とはいえ、血抜きをしていない肉は始めてだ。
とりあえず、肉を床に置いてぶっ叩く。そして潰れたら水に浸す。
(これで血が抜けると思うけど……こんなの初めてだよ)
燃えている炎で加熱された床に肉を置くと、ジュージューと音を立て始める。これが本当の岩盤焼きだ。
野生動物故、寄生虫の心配もあるので、しっかりと焼く。
「うわぁ、いい匂いだ」
いい感じに焼けたので、フォークとナイフで切り分け、塩と香辛料を振って口へ運んでみた。
「美味いぞ、これ!」
口の中に広がる甘みと香ばしさ。野獣臭さもほとんどない。
シュラは残っている肉も、同様に処理し始めた。
(ああ、ここに冷蔵庫があれば……)
彼もそれがないものねだりだと解っている。冷蔵庫がなくても、明日の朝の分までは、なんとか大丈夫だろう。
――シュラが、一生懸命レッサードラゴンの肉を焼いていたその頃。
一機のマニューバが、シュラのいるギョヨの近くを通りがかった。
数日前に、遺跡の上空を飛んだ上面を赤く塗った機体だ。
操縦しているのは、前と同じ男。
「この果てしない~樹海に待つのは~」
相変わらず大声で歌いながら、のんびりと飛んでいるのだが――彼は、近くにあるギョヨに調査の人間が入っているのを知っている。
何かトラブルが起こった時のために、気にかけていたのだ。
救助は勿論だが、連絡の仕事を受ければ金になる。この世界には通信機がないので、こういう仕事も稼ぎになるのだ。
「おっ! 盛大に煙が上がってるじゃねぇか! ちょっと行ってみるか!」
彼の操るマニューバはギョヨの周りを旋回し始めた。
すると、ギョヨの中腹からチカチカと光る発光信号が返ってきた。
『エスラン、ギュオール運送ニ連絡乞ウ』
「おほっ! こりゃ、何か見つけたのか? エスランのギュオール運送ってあの爺の所か」
男は座席の後ろから取り出した発光信号機を準備すると、返信を行った。
『了解』
男は発光信号機をしまうと、操縦桿を握る手に力を入れた。
「ははっ! こりゃ超特急で飛ばして、ご祝儀をもらわねぇとな! ボヤボヤしていると暗くなっちまうぜ!」
男は操縦桿を引くと急上昇――そして降下しながら、リヒートに点火した。
リヒート――瞬間的に加速を得るために可燃性の燃料を炉に送り込み、高圧噴射された燃料に点火して加速する機能だ。
このリヒートは、ラムジェットに相当する物で、ある程度の速度がないと使えない。
速度だけではなく、熱対策の問題から全力運転だと数十秒程度しか機関が保たない。
過熱すると安全装置が働き、機能が停止する。
リヒートの稼働時間は短いので、それを使っても、さほど到着時間は変わらないのだが――リヒートを使うぐらい大急ぎでやって来たと、アピールはできる。
――そして、暗くなる前に男が操る赤いマニューバはエスランの街へやって来た。
マニューバの最高速度は約時速400km――勿論、最高速でずっと飛べるわけではないが、リヒートを使えば、もっとスピードが出せる。
たとえ、シュラがいる遺跡まで200km離れていても、40分もあれば到着する。
「あらよっと!」
男が鮮やかに着陸を決め、マニューバから飛び降ると、そこへ滑走路の管理をしている男がやって来た。
「悪い! 急ぎの用があるんで、水と油を入れて、駐機場へ回しておいてくれ」
「あいよ」
男は、そのまま走って、滑走路に隣接しているギュオール運送の事務所へ飛び込んだ。
「親方の爺さんいるかい?!」
「親方なら輸送機の所だ」
事務所を飛び出し、運送屋の敷地内に駐機してある、潜水艦のような輸送機の所へ向かう。
親方は輸送機の下で、部下にアレコレと指示を出していた。
「ハァハァ――親方いるかい?」
「ん? なんだお前か、しばらく顔を見なかったな。落っこちたかと思ってたところだ」
「そんな話はどうでもいいんだよ。ここから120リーグ程離れたギョヨから、ここに連絡を頼まれた」
それを聞いた親方の顔色が変わった。
「なんだとぉ! 救助じゃなかったのか?」
「いや違う。連絡だけだ」
「てめえ等! 炉を起動しろ! 今から坊主の所へ向かう!」
その命令を聞いた部下が集まってきた。
「親方! 本気ですかい? 途中で暗くなっちまいますよ?!」
「輸送機なら、暗闇飛んだって落ちることはねぇだろ」
「そりゃそうですが……」
輸送機の最高速度は時速200kmだが、巡航速度は100kmぐらいしか出せない。
速度は遅いが、空中静止もできるので、普通のマニューバよりは安全だ。
「探すのを諦めるにゃ時間が早過ぎる。しかも救助じゃねぇときたら――お宝発見に決まっているじゃねぇか!」
「爺さん、お宝ってなんだい?」
「発掘マニューバだよ」
それを聞いた男の顔色が変わった。
「マジかい? 最近、とんとそんな話は聞かなくなったけどな」
「そんなお宝を、いち早く見てぇじゃねぇか!」
それを聞いた部下達が呆れている。
「こりゃ、今日は残業だぞ」
「馬鹿、それで済めばいいが――ヘタすると徹夜だ」
ぼやく部下に親方が気合を入れた。
「野郎共! 10分で支度しろ!」
「「「へい!」」」
あっけに取られている男の所へ、親方がやって来ると――。
ツナギの胸のポケットから出したメモ帳に、何やら書き込むと男へ手渡した。
「繋ぎをつけてくれてありがとな。これを事務所に持っていけば金がもらえる」
男はその金額を見て、ぎょっとした。予想よりも遥かに多かったのである。
「これって、口止め料も含まれてるんだろ?」
「もちろんだ」
男はそれをもらったのだが――言うか言うまいか少々悩んだ末――意を決して叫んだ。
「爺さん! 俺も乗せて行ってくれねぇか?」
「ああん? お前のマニューバはどうすんだ?」
「駐機場に停めてあるけどよ――一緒に行って、そのお宝を拝みてぇじゃねぇか」
マニューバ乗りは、輸送機を鈍亀だと普段は馬鹿にしているので、こんなことを言うのは普通ならありえない。
この親方も、それは解っている。
「運賃は取るぞ」
「ははは! 上等!」
それから10分弱で、輸送機は重低音を響かせて、紫色の空へ飛び立った。
暗い輸送機のコクピットに沢山の小さな明かりが灯っている。そこに6人の男が乗り込む。
「機関正常 反重力炉安定」
「上昇、高度ミル(100m)。航路間違うんじゃねぞ?」
「親方、今日は天気もいいし、月も星でも出てる。大丈夫でさぁ」
炉の重低音を響かせ――徐々に小さくなっていく前後に光る赤い航空灯の点滅を、街の住民が見上げている。
「こんな暗くなってから飛ぶのか?」
「何事だ? 事故とか救助か?」
「さぁ?」
滅多にない光景に、街の住民達も顔を見合わせている。
夜空を輸送機が飛ぶ。辺りは暗くなりつつあるが、月が出ているので真っ暗ではない。
暗い青の空からグラデーションがかかり水平線に近づくにつれ黄色い色に変わる。
樹海は黒く見え、水平線の境目がはっきりと解る。
目的地まで200km――輸送機の巡航速度で約2時間の飛行。
「自分の操縦で飛ばないなんて、ケツが落ち着かねぇだろ?」
「はは、だが落ちる心配はねぇからなぁ」
暗闇の中を輸送機は進む。
――すっかりと暗くなった、シュラがいる遺跡の中。
レッサードラゴンの肉を腹いっぱい食べたシュラは、満足していた。
普通じゃ食えないぐらいの肉を食い、焚き火に薪を足して、寝袋に脚を突っ込む。
「はぁ~美味かったぁ。毎日、肉がこれだけ食えればいいのに」
管虫は捕まえるのは簡単だが、鳥や獣の類を獲るのは、それなりに大変だ。
腹いっぱいで、まったりとしてたシュラだが、異変に気がついた。耳に低周波音が聞こえてきたような気がするのだ。
「これって、まさか……輸送機の反重力炉?」
シュラは慌てて起き上がると、置いてあったピストルを持ち、荷物の中から取り出した信号弾を装填した。
そして夜空に向けてそれを打ち上げると――白い光の玉がひらひらと暗闇の中に落ちていく。
暗闇の中――エスランからやって来た輸送機が、シュラのいる遺跡に近づいた。
「左前方に信号弾!」
輸送機のコクピットから暗闇に目を凝らしていた乗員が大声を上げた。
「どんぴしゃだな。周囲を警戒! 進路左へ微速前進」
「ヨーソロ」
ヨーソロは帝国軍の符牒であるが、民間でもそのまま使われている。
輸送機がギョヨに接近すると、チカチカと光る発火信号がはっきりと見える。
「ギョヨの中腹から発火信号! 『コチラハシュラ』」
「返信! 『ギュオール運送スイサン』わっはっは!」
「ギョヨの中腹に接近します!」
「当てるなよ?! ライト点灯!」
輸送機が機首についているライトを点灯すると、ギョヨの中腹に黒く四角い穴が開く。
親方が見下ろす先には、四角い穴の縁で手を振る、白いシュラの姿が見えている。
「おおっ! 坊主だ」
「坊主って本当にガキなのか?」
「15で女房持ちなら、立派な大人か。呼び方を変えねぇとな。ゆっくりと降下しろ」
「ヨーソロ」
親方の命令通り、輸送機はゆっくりと降下。
すると、ライトに照らされて、四角い穴が巨大な通路に早変わりした。
「なんでぇ、こんなに良いドックがあるじゃねぇか。通路内に進入しろ。上下左右の確認怠るな!」
「おい、爺さん! 本気かよ!」
後ろで様子をうかがっていた、赤いマニューバの男が叫んだ。
「このぐらい、輸送機ならどうってことはねぇ。帝都なら、もっと狭いドックへ入ったりするからな」
「マジかよ」
その話に、乗員たちが笑っている。
それを下で見ていた、シュラは慌てた。眩しい光と共に、輸送機が接近して来たのだ。
「えっ! まさか、ここに入って来るつもり?!」
まさかと思ったのだが、輸送機は遺跡の通路内へ進入を開始。
彼は慌てて、輸送機を追って走り始めた。
その光景を上から見ていた、輸送機の親方が笑っている。
「ははは、まさか入ってくるとは思わなかっただろ」
「無茶苦茶だぜ」
「わっはっは!」
「親方! 前方に何かありますぜ!」
その時、乗員がライトに照らされた黒い山を発見した。
「マニューバか?」
「違いますぜ、黒くてデカい――こいつはドラゴンだぁ!」
「なにぃ!?」
輸送機のコクピット内に緊張が走る。こんな所に入ってしまっては、簡単には逃げられない。
(くそっ、俺としたことが、舞い上がっちまった――こいつは、しくったか?)
焦った親方だが、そのドラゴンの横で、シュラが手を振っている。
「まさか、死んでいるのか?」
コクピットにいた全員がガラスにへばりつき、下の様子をうかがっている。
「動かないようですし、頭から血を流して死んでいるみたいですぜ!」
「本当かよ……坊主が倒したのか?」
「爺さん、ありゃレッサードラゴンだな」
「レッサーだろうが、ドラゴンはドラゴンだ。普通じゃ対抗できるはずがねぇ」
親方は機を停止させて、コクピットの後ろにある昇降機に乗った。
円盤に足を乗せると、シャフトが下に伸びてそのまま下へ降りることができる。
彼は、シュラの元気な姿を見て、安心したようだ。
(若い奴のやることが気になるとは――俺も歳かな)
「坊主! そのドラゴンは死んでるのか?」
「はい! 死んでますよ」
「坊主がやったのか?」
「奥にあるマニューバの魔砲を使ったんです?」
「なにぃ?! 魔砲? 坊主、お前さんは稀人だったのか?」
「自分でも良く解らないけど、そうだったらしくて……」
頭を掻きながらトボけた回答をするシュラに、親方は大笑いをした。
「わっはっは! 人生、何があるか解らんな!」
その時、輸送機のライトをバックに、もう1人の男が手を振りながら降りてきた。
「お~い! ドラゴンもいいけど、発掘マニューバを見せてくれよ」
「あなたは?」
「さっきマニューバで外を飛んでただろ?」
それを聞いたシュラもピンときたようだ。
「ああ、あの赤いマニューバのナイツですか?」
「そうだ! あんたもマニューバを見つけたってことはナイツになるんだろ? これからは仲間だな。俺はリオだ! よろしくな」
「俺はシュラです」
2人は握手を交わした。輸送機の荷物室から、他の乗員も降りてきて、ドラゴンの屍に驚いている。
「ドラゴンよりマニューバだぜ」
リオの言うとおり――男3人でマニューバの所へ向かう。
穴の奥には、輸送機のライトに照らされた白い機体。白く流線型の艶めかしいボディ、羽ばたく鳥のような逆ガル翼――。
それを見たリオは息を呑んだ。
(くそ、こいつは――むしゃぶりつきたくなるような、いい女だぜ)
彼が乗っているマニューバは、発掘品を元にして製作された複製品だ。
似たような構造を金属で再現して、虫の翅で外板を形作っている。
「さすが発掘品だな。ほとんど傷んでねぇ。これなら、レストアもすぐにできるかもしれん」
「さすがにタイヤとかは腐ってなくなってしまってますけど……」
「魔砲も使えたんだろ?」
「はい」
それを聞いた、リオが機体を叩いた。
「魔砲だって? それじゃ、あのドラゴンはこいつでやったのか?」
「らしいな。この坊主――おっとドラゴン殺しの勇者に対して坊主はイカンな。このシュラは稀人らしい」
「どうも、そうらしいです」
「こいつはたまげたぜ……発掘マニューバの魔砲を使えるなんて、近衛のテンプルナイツぐらいだぜ?」
どうもそれっぽくない勇者にリオは呆れると、翼に乗りコクピットを覗く。
「かぁ~! 電影照準器がついていやがる! これだけでも、お宝だぜ」
リオが照準器を欲しがっているのだが、勿論譲れない。
普通のマニューバに装備されているのは、ライフルのスコープのような覗き込みサイトだ。
「シュラよ――あのドラゴンを売れば、マニューバのレストア費用どころか、家が建つぞ?」
「ああ、それなんですけど親方――マニューバより先に、あのレッサードラゴンを運んでいただけませんか?」
「あいつをか?」
「さっき食ったら、凄く美味いんですよ! あのまま腐らすなんて勿体ないじゃないですか。街の人にも食べさせてあげたいんですけど……」
それを聞いた親方が大笑いして答えた。
「わっはっは! 本気か?」
「はい、ちょっと仕留めてから時間がたっているので、肉質は怪しいんですけど……」
「なぁに、タダなら虫のように群がる奴らが街にゃ百万といる」
「そうだぞ、シュラ。多少、臭くたってドラゴンの肉がタダなんだ、文句いったら天罰が降るぜ」
リオも親方と同じ意見のようだ。
「はは……よっしゃ! それじゃドラゴンを運んでみるか」
親方は部下にドラゴンを運ぶための指示を出し始めた。
「あの、親方! 最初に俺を降ろした所で、デカイ管虫を倒したので、それも使えるかもしれないんですけど……」
「おおっ! 管虫もあるのか? 肉はダメでも、皮は使えるだろ」
「俺も、そう思ってるんですが」
「虫はよく運ぶが、ドラゴンなんて初めてだぜ。全く――墓に片足突っ込んだ状態になってから、こんな面白いことに出会えるなんてよ。人生、何があるか解らねぇ」
作業を見ているシュラにゼロの声が聞こえてきた。
『私を運ぶのか?』
「ああ、ドラゴンの後にね。早く飛べるようにしてあげたいんだけど」
『1000年待ったのだ。これから1年2年、伸びたとしてもどうってことはない』
(彼が話せるってことは、しばらく内緒にしておいた方がいいよな)
彼も運んでやりたいところだが――どのみちマニューバの前に、こんなデカいドラゴンの屍が転がっていたんじゃ、作業の邪魔になる。
――1時間程の作業の後。
輸送機はドラゴンの死体を吊り下げると――暗闇の中、エスランの街へ飛び立っていった。
シュラは遺跡に残り、その姿を見送っている。輸送機が帰ってくるのを待つのだ。
なるべくゼロの所にいてあげたい。
1000年ひとりぼっちだったなんて可哀想じゃないか。
シュラがそう言うと、ゼロは無機質な声で答える。
『私に感情はない』
彼は、ぼっちでも寂しくはないらしいのだが。





