5話 白いマニューバと黒い竜
樹海の中にある突起――ギョヨにやって来たシュラ。
苦労して崖を登ると、そにあったのは、どうみても人工の建造物。
(ここが父さんが訪れた所に間違いない)
そう確信した彼は、広いホールのような場所にキャンプを張ることにした。
キャンプ地を決定をしたのだが、荷物のほとんどは、まだ崖の下だ。ここまで何回かに分けて運び上げなければならない。
だが崖を登るために、シュラはほとんど体力を使い果たしてしまった。
ここで1泊して体力の回復を図る。幸い水もある。
(意外と緑も多いし、生き物もいるようだ。探せば食料に使えそうな物もある気がする)
暗くなる前に付近を捜索して、色々と使えそうな物を発見。
鍋やカップに使えそうな、セラミックの容器や、発光信号機に使われている燃料の石も見つけた。
壁際にちょうど良い凹みを見つけたので、そこをベースにして前に火を起こした。ここなら三方からの敵の攻撃を防げる。
拾った物は後で回収できるように一箇所にまとめておく。
(これで暗くなっても平気だな)
水がある近くでノビルを見つけた。根が球状になっている植物で、これは食える。
その近くには管虫もいた。
(こんな場所までどうやって登ってきたんだろうか?)
もしかして、ここにしかいない固有種なのかもしれないが、そんなことを考えている場合ではない。
珍しい種類だとしても、樹海の動植物のほとんどが分類されておらず、正確にはどのような種類の動植物がどれだけ生息しているのか、全く不明なのだ。
植物が生い茂っている壁には袋状になっている食虫植物も見つけた。
コイツの消化液は、薄めて酸として使用可能。消化酵素も含まれているので、管虫を漬ければやわらかくできる。
セラミックのカップの中に採ったノビルと捌いた管虫を入れて、希釈した食虫植物の消化液を入れる。
一晩置いて、朝飯の頃にはちょうどいい具合になるだろう。
拾ったセラミックの容器で、お湯を沸かしてノビルを湯がく。
食虫植物の消化液と塩のドレッシングで食べる。鼻に抜ける風味とシャキシャキとした歯ごたえが心地よい。
美味いので、むしゃむしゃと食べていると、舌が割れて血が出てきた。
食虫植物が持っていた消化酵素のせいだ。
(もうちょっと薄めた方がいいかも。こりゃ、尻も痛くなるな……)
管虫も、前後を切って内臓をしごいて出し、火で炙って食べる。
(色はちょっと白いけど、下にいる管虫と同じだな)
腹が膨れると辺りが暗くなってきた。
「おっと真っ暗になる前に、薪を集めておこう」
薪を集めて固めておく。寝袋は持ってきていたので、凹みに寝袋を敷いて、その上に寝る。
中に入らなくても寒くはないが、下が固いので布団代わりだ。
(そういえば、ここはレッサードラゴンの巣だって、父さんの日記には書いてあったけど、まだ遭遇しないな)
日記に書いてあったのは、数十年の前の話。個体が死んだか、他へ移った可能性もある。
辺りを散策すると、縦穴を見つけた。
(どこへ繋がっているか解らないが、ここをトイレにしよう。間違って落ちたら大変だ)
あちこちに、こんな穴が開いているので、注意しなければならない。
完全に日は落ち、辺りは暗闇に包まれる。焚き火の明かりだけが、辺りをオレンジ色に照らす。
(下まで、また降りるのが大変そうだなぁ)
だが、そんなことを考えていたシュラの耳に何かが聞こえた。
『……こ…………い』
彼は身体を起こすと辺りを見回す。
(なんだろう?)
耳を澄ますが、何も聞こえない――。
(気のせいか……)
彼は再び寝袋の上に寝転がった。
------◇◇◇------
――石の壁を登った次の日。明るさでシュラは目を覚ました。
(あまり、よく眠れなかったな)
森の中でキャンプをしたこともあったのだが、こんな樹海の深層で泊まったのは始めてなのだ。
いつ竜種や虫などに襲われてもおかしくないのだが、今のところは問題はない。
もしも虫の巣なら、輸送機が近づいただけで、警戒飛行等の反応を示すことが多い。
先ずは腹ごしらえだ。昨日、シュラは食虫植物の消化液に漬けたノビルに口をつけた。
(うん、美味い)
酸っぱく、シャキシャキとした歯ごたえ。シュラの頭の中に『らっきょう』の言葉が浮かぶ。
だが、それが何かは解らない。そして、同じく漬けた管虫は刻んで、野草の茎と一緒に煮てスープにする。
ここで拾ったセラミックの容器で、くつくつと煮ると管虫から出汁が出てくる。
塩を投入して、味をみる――。
(美味いけど、肉が欲しいな。括り罠を作って鳥でも捕ろうか)
白い糞で汚れている壁もあるので鳥もいるようだ。管虫を餌にすれば、罠に掛かるかもしれない。
(それよりも荷物を上げないとな……)
腹ごしらえも終わったので、ヒモと枯れ木を使って簡単な括り罠を作って設置。
荷物からロープを出し、肩に担ぐと暗い通路を戻る。ロープは、とりあえず30mしか持ってこなかったが、半分までは降りられる。
そこからは、登る時に打ち込んだペグを伝って降りるしかない。
上を見て登るのは、なんとかなるのだが、下りはかなり大変だ。
通路の出口にペグを打ち込み、輪の中にロープを通すと、通路を貫通している太い木の根に結ぶ。
この根は生きているので、簡単には抜けないだろう。
グイグイとロープを引っ張って確認すると、安全帯に取り付けた昇降機にロープを通して下へ降りていく。
自分の家の壁で練習を重ねたとはいえ、ここは高さ60m以上の本番。恐怖度が違う。
ロープが途切れた部分までやって来ると、ペグに取り付き下へ降りる――慎重にだ。
そして背中に汗をびっしょりとかきながら、下へ到着。
荷物の中にあった30mのロープを担いで再び登り、ロープを継ぎ足す。
これで上り降りがかなり楽になる。一休みしてから――上からぶら下がったロープに安全帯を繋ぐと、荷物を担いで上に登り始めた。
繋がった金具は、負荷がかかっていない時はフリー。
負荷が掛かるとロックするシステムだ。謎の記憶にもあった金具だが、シュラの住んでいるこの世界にも同じ物があった。
彼は荷物を背負い、ペグに手と脚を掛けて、梯子のようにするすると登っていく。
ロープと安全帯があることで、かなり精神的に楽になった。
上まで行ったら荷物を降ろし、ロープで下る――それを繰り返すこと4回。荷物を全て運び上げ終えた。
通路の入り口に荷物を積んでいるので、キャンプ地まで運ぶ作業が残っているが、これだけで丸一日を費やしてしまった。
(ふぅ……全部1人でやるから大変だ。運送屋の親方が言うように、金を出し合って複数人でやるのが正解なんだろうな)
荷物を抱えてキャンプ地へ戻ると、朝に仕掛けた括り罠に緑色の鳥がかかっていた。
「やった! 肉だ!」
急いで荷物を置くと――鳥を捕まえる。トイレに使っている縦穴へ行くと、鳥の頭を落として、血抜きする。
そして毛を毟って内臓も捨てる。適当な大きさに切って、セラミックの棒に刺すと、火を起こして、それを焼き始めた。
強火で遠火だ。
「よし! 焼いている最中に、残りの荷物を運んでしまおう」
暗くなってきたので、発光信号機を懐中電灯代わりに使う。
すべての荷物が運び終わる頃には、鳥がいい具合に焼けていた。
荷物の中からパンを取り出すと、焼き鳥と一緒に食べる。スープは朝に作った物が残っている。
「鳥が美味い! 凄くいい匂いだ」
鳥によっては、妙な臭いがする鳥もいるのだが、こいつは美味い――当たりだ。
(荷物も運び終わったので、明日からは本格的な調査を始めることにしよう)
樹海の深層で、2日めの夜がやって来た。
------◇◇◇------
――荷物を運び上げた次の日。朝飯を食べると早速調査を始める。
小さな部屋や、横道を入りまくる。入り口の通路は石だったが、白いセラミックの建材も多い。
これだけでも、セラミック鉱山としての価値があるのだが、街から少々遠いのが難点だ。
炉など他の発掘品があれば、スポンサーも付くのだろうが。
ただの水を燃料に使用するというトンデモを可能としているのが、マニューバにも搭載されている炉。
正式には無尽炉と呼ばれる、この炉を作る技術はとうに失われていて新造不可能となっており、遺跡からの発掘に頼っている。
原理も作動方式も全く不明。飛行機械の動力炉だけではなく、この帝国を支えるエネルギー源として、津津浦浦で使用されている。
勿論、発電機を回す動力源として民間でも使用されており、生活には無くてはならない物。
寿命は長く、数百年保つと言われ、小型の物でも立派な財産となる。
マニューバが墜落しても壊れず、燃えず残るため。炉の回収部隊が組織されて、回収される事もしばしば。
帝国を支える強力な炉だが、その数には限りがあり、新しい炉の建造は帝国の悲願にもなっている。
それを叶えるため、長年に渡り多大なリソースが割かれているが、いまだ成功していない。
焦る帝国によって無理な解析が行われて――炉の爆発という大事故を引き起こし、帝都の外れに大きなクレーターが傷跡として今も残っている。
見つけたセラミック製品や、訳の解らない物体等は、一箇所に集めておく。
(初めて見る物も多いなぁ)
遺跡には穴や通路が数多くあり、中はあちこちに繋がっている様子。
潜ったりよじ登ったり、それだけでもアトラクションのようで楽しい。
(これだけ複雑に入り組んでいるのなら、行き止まりでまた他の入り口を探さないとダメ――なんてことは、なさそうだな)
板に貼り付けた紙の上に遺跡の構造をマッピング――通った場所を解りやすくするため、印を付けたり物を置いたりしていく。
『……こ…………い』
「ん?」
(やっぱり、何か聞こえるような気がする……なんだろう?)
彼は周囲をキョロキョロと見回すが、当然誰もいない。いるのはネズミやトカゲなどの小動物か鳥ぐらいだ。
ここに人間は彼しかいないのだ。
――それから3日間、周囲の調査を進めて、細く長い階段を見つけた。これで上階へ行けるようだ。シュラの期待は高まる。
発光信号機で穴を照らし、とんとんと長い階段を上る。そして長方形の出口から顔を出した。
――彼の好奇心を遮るような黒い壁。そこに埋まった大きな同心円状の円盤が目の前に出現した。
(これって……)
シュラが、それが何かを理解するより早く――。
「ゴアァァァ!」
その壁が立ち上がり、耳をつんざくような咆哮を上げた。ビリビリと空気が振動して、何かの破片が天井からパラパラと降ってくる。
「わぁぁぁ!」
慌てて、シュラが階段へ引っ込むと、咆哮の主は鼻面をそこへぶつけてきた。
生臭い臭いが階段を駆け下りシュラの周りに充満する。巨大な生き物が顔を横にすると、マンホールの蓋のような目玉が彼がいる穴を覗きこんでいる。
丸太のような太い4脚で踏ん張り、黒い身体に全身を覆う硬い鱗――レッサードラゴンだ。
「やっぱりいたのか! そうだよなぁ」
レッサードラゴンの寿命はかなり長いといわれている。
実際に確かめた者がいないので、どのぐらい長いかは解らないが――そうらしい。
シュラは腰から小型擲弾発射機――ピストルを抜くと、竜の大きな目に向けて発射した。
「ゴアァァァ!」
目に炸裂弾が命中し、レッサードラゴンは、遺跡を揺るがすような咆哮を上げて、地響きをたてて暴れている。
「ザマァミロ!」
シュラは急いで階段を駆け下りた。あんな化物がいれば、あそこは通れないからだ。
(他の道を探さないと――なんとか迂回できないかな)
下まで降りてきたシュラが悩んでいると、ズシンズシンと大きな振動が伝わってきた。
「な、なんだ?!」
あたふたしているシュラの前の天井がひび割れ――大きな瓦礫と共に巨大な何かが降ってきた。
「ゴアァァァ!」
「冗談だろ?」
上から降ってきたのは、さっきのレッサードラゴン。左目が潰れているので、間違いない。
目玉に炸裂弾を食らったので、怒り心頭なのだろう。狂ったように突進してきた。
「うわわわ!」
彼は慌てて、降りてきた階段をまた登り始めた。竜は階段に脚を掛けて、鼻先を突っ込もうとするが、それは無茶だ。
「ははは! ここまでおいで!」
笑うシュラが、階段の上から尻を叩くと、下にいるバケモノが巨大な口を開けた。
「ま、まさか!?」
シュラが全力疾走で階段を駆け上がり、上階に転げると、巨大な火柱が階段から吹き上がった。
竜種は、体内で合成した二種類の薬品を混合することで、火炎を放射することができるのだ。
「はぁはぁ……」
(どうやら怒らせてしまったみたいだな――当たり前だけど……)
その時、シュラの頭の中に何かが響く。
『……ここへ……こい』
「え?! 来いって言ってる?」
『……ここへ……こい』
「ここって、どこだよ!?」
シュラがウロウロしていると、下からレッサードラゴンが上がってきた。
「結構、しつこい!」
地響きを立てて竜が迫ってくると、シュラは全力で逃げはじめた。
「ちょ、ちょっと待って! 左目を潰したのは謝るからさぁ!」
彼を追ってきた巨体がピタリと立ち止まると、再び大きな口を開けた。
「おわぁぁ!」
彼は前方に隠れる場所を探す――。
(あった!)
床に開いた四角い穴。中がどうなっているか、全く解らないが――今はとにかく、そこへ飛び込むしかない。
「南無三!」
思わず、その単語を叫んだ彼であったが、その意味は解らない。彼の頭の中にある、謎の記憶にあった単語だ。
彼が穴に飛び込んだ刹那――穴を上の火炎が通りすぎていき、なにか鼻につく薬品のような臭いが立ち込める。
思わずその臭いに咳き込みそうになったが、思わず口を押さえた。
幸い穴の深さは1m程しかなく、そのまま横穴が続いている。
(この穴を横に進めば、奴の後ろに回れるかな)
シュラは横穴を四つん這いで100m程進むと頭を出した。
見れば、レッサードラゴンが彼が飛び込んだ穴の辺りを嗅ぎまわっている。
(結構、執念深いな。竜種はかなり頭が良いって噂なんだけど、本当なのかも)
シュラは、そっと穴から這い出ると逃げ道を探す。彼の前方に横穴を発見――そっと、その横穴まで行く。
中を確かめると――1m程で行き止まりだった。
(くそ!)
吐き捨てようとした、彼が上を見ると、縦穴が続いていて上に白く出口が見える。
(行くしかないか!)
彼は壁に両手両足をつけて踏ん張り、縦穴を登り始めた。
『……ここへこい』
「ここってどこだよ!」
焦る彼は、どこからともなく聞こえる囁きに声を荒らげた。
『上だ……』
「上? 今、登ってるよ!」
その声を聞きつけたのか、地響きがこちらへ近づいてきた。
「ヤバっ!」
縦穴の下で火を焚かれたら、煙突効果で丸焼けだ。シュラは背筋に冷や汗をかきながら、懸命に縦穴を登る。
最後に穴の縁に手を掛けると、自分の身体を引き上げて、床に転がった。
それと同時に、彼がいた縦穴から火炎が噴き出す。
「間一髪セーフ!」
床に転がる彼の上に高い天井が見える。高さ7~8mぐらいだろうか、大きな通路が走っている。
そこに声が聞こえてくる。
『こっちだ』
この階にやってきて――謎の声は、かなりはっきりと聞こえるようになった。
「こっちってどっちだよ」
『こっちだ』
ぐるぐるとその場で回ると、なんとなく方向が解るような気がする。
そちらへ向かおうとすると、離れた場所の床石が爆発――白い土埃の中から黒い影が飛び出して来た。
「うぇぇ! しつこいな!!」
『こっちだ』
シュラは声が響く方向へ走りだした。
その後を、地響きを立てて黒い巨体が追いかけてくる。
「ゴァァァ!!」
「ごめんよ! 俺が悪かったからさぁ!」
「ゴァァァ!!」
全速力で走り、天井の高い通路を右に曲がった――だが、太い木の根がすだれ状に垂れ下がっており、行き止まりだ。
「ええっ!? 行き止まりじゃないか!?」
『ここへ来い!』
行き止まりだと思われた地点に横穴がある。
木の根の間を潜ると、そこにあったのは――三枚のプロペラと優美な逆ガルウイングの翼。
頑丈そうな、短くガッチリとした脚の白いマニューバだった。
「マニューバだ!」
『乗れ!』
「え?! ええ?! 君が話しているのか?」
『そんなことはどうでもいい! トカゲが来るぞ!!』
シュラは言われるまま、垂れ下がっている木の根をよじ登ると、白い機体に飛び乗った。
全身が白いセラミックでできた、マニューバのコクピットを覗きこむ。
木の枝や葉っぱが積み重なり、コケも生えている。シートは腐ってしまったのか、なくなっている。
『乗れ!』
「乗ってどうするんだよ!」
『操縦桿を握って、合図と同時に引き金を引け』
言われるまま、セラミックの骨組みだけになっている座席に乗り込み、足元から出ている操縦桿を握る。
先端には言われるように引き金が付いている。
マニューバの前には、突然消えた獲物を探すため、レッサードラゴンが近づいてきていた。
『今だ!』
合図と共に引き金を引く――すると、凄まじい閃光と爆音が機体の前にぶら下がっていた木の根を吹き飛ばした。
「あ~! 耳がぁ!」
閉鎖した空間で大音響が響いたので、シュラは耳を抑えている。
間違いなく発射された何かが、角度的に天井へ命中したらしく、ガラガラと崩れる音がする。
「ドラゴンは?!」
シュラがコクピットから立ち上がると、そこには顔が半分なくなったレッサードラゴンが横たわっていた。
まだ、ぴくぴくと動いているので、生きているのかもしれない。
ドラゴンが倒れている、その向こう――天井が崩れた部分は、ほんの一部分だけで、通路自体が崩落するような損壊ではない。
(よかった。ここで瓦礫に埋まってしまったら、運び出せないところだ)
「ふぅ……」
シュラは再び、コクピットにしゃがみこんだ。
「俺を呼んでいたのは君か?」
『そうだ。私は思考ユニット、ゼロゼロオブセブン、ゼロと呼んでくれ』
「マニューバが喋るなんて聞いたことがないんだけど……」
『マニューバとは私のことか?』
「ああ、俺達の間では、こういう飛行機械のことを総称してマニューバと呼んでいるんだ」
『ふむ……記憶した。それでは君が新しい、マスターということになるな』
「マスター?」
『主のことだ』
この喋るマニューバに、気になることを聞いてみた。
「15年から20年ぐらい前に、ここに人が訪ねてこなかったか?」
『ああ、1人いたな。だが、彼は感応通信に対応していなかったので、話せなかった』
「感応通信?」
『今話している、これだ』
「それじゃ、この会話って――俺と君しか聞こえていないのか?」
『そうだ』
(それなら黙っていれば、マニューバが話せるってことが秘密にできるな)
「レッサードラゴンの頭を吹き飛ばした、さっきの爆発は?」
『あれは、理力砲だ』
「理力砲? 魔砲のこと?」
『魔砲? ここではそう呼ばれているのか? 記録した』
「それじゃ、俺に魔法が使えるってこと?」
『その魔法とやらが理力とイコールならば、それは然りだ』
魔法が使える――彼は、この世界で言われる稀人ということになる。
余りに理解不能なことが多すぎてパニックを起こしそうなシュラだが――やることが山ほどできた。
「君は、ゼロでいいんだよな? 荷物を下から運んでくるんで、ここで待っててくれ」
『承知したが、その前に風防の前にあるゴミを、どけてくれないか?』
「解った」
彼がゴミをどけると、丸いガラス玉のような物が現れた。
『恐縮だが、そのガラスを磨いてくれないか?』
「これ?」
シュラが、ポケットから出したハンカチで、ガラス球を磨くと――すぐに本来の輝きを取り戻した。
『やっと、よく見えるようになった』
「これって、君の目玉なの?」
『そうだ。機体後部にもあるから、磨いてくれると助かる』
「後で磨いてあげるよ」
シュラは、機体から降りると、走りだそうとして踏みとどまった。
(先に、連絡を取る努力をした方がいいか? いや、しかし……)
レッサードラゴンの屍もあるし、これをなんとかして、街まで運ばないと勿体無い。
レッサードラゴンの鱗は、高額で取引されて、マニューバの外板などに利用されたりするのだ。
虫の翅より、熱に強くて固い。鱗を貼った後、コーティングして表面を滑らかにする必要があるので、少々機体が重たくなるのが欠点だが、それを差し引いても防御力はかなり上昇する。
シュラは、しばらく考えてから、マニューバの正面に続く長い通路を走りだした。





