17話 帝都上空
金を盗まれて借金を抱えたリオの赤いマニューバを先頭に、シュラとゼロも飛ぶ。
何箇所か街と森の駅を中継して昼を過ぎた頃――広大な樹海が途切れ、やっと帝都が見えてきた。
上空から見ても、巨大な都市である。人口は数百万人を超え、帝国最大の都市。
見たように巨大な都市だが、東京のような摩天楼がそびえているわけではない。
3階~4階建ての建物が最高で、それが一面の平野を埋め尽くす。都市の周りには緑と黄金色の農作地が広がり、帝都の台所を賄っている。
都市の中心部には、小高い丘に作られた皇宮。緑が多く、上空から見えると森のように見える。
その緑の中に白い建物がポツリポツリと顔を出している。
もちろん皇宮の上空と近辺は飛行禁止区域で、入っただけで撃墜される。
シュラが住んでいるエスランの街から北へ2000km――冬には気温が下がり、帝都には雪も降り白く染まる。
低温のために樹海の進行は遅く、虫も管虫も寄り付かない。氷点下になると体液が凍結するために、彼等は死んでしまうのだ。
逆にエスランがある地域では、気温は常に一定。
畑では二毛作が行われており、農地が痩せると放棄して新しい森を切り開く――一種の焼畑農法が一般的。
そして放棄された農地は、数年で森に飲み込まれて最初に戻る……。
物資はないが、食料自給率は僻地のほうが100%を超えており、森が近くにあれば飢えることはないのだが、他の危険度が増す。
どちらがいいかは、一概にいえない。
「雪かぁ――本でしか見たことがないからなぁ」
『マニューバにもよいものではないな。翼に着氷すれば揚力を失う』
「それより、寒そうだよ。氷点下の中でこんな操縦席じゃ飛べない」
ぼやくシュラであるが、軍のマニューバもオープン型のコクピットである。
分厚い防寒ジャケットに、電熱線を入れて飛んでいるのだ。
帝国最大の都市とはいえ、マニューバの数は多くない。高価なのはもちろんだが、その必要性がないのだ。
僻地は深い樹海に覆われているため、交通機関がマニューバと輸送機しかない。
道路工事をしても、すぐに森に埋もれてしまうためだ。
それに反して、帝都の周りには森がないために、道路と自動車が発達している。
車があるのに、わざわざ高価なマニューバで飛ぶ必要はない。ここでのマニューバの役割は、兵器か金持ちの道楽なのが、一般的。
その代わりに帝都の空には、ウルトラライトプレーンのような小さな飛行機械が多く飛んでいる。
レトニューバと呼ばれるこの機体は、家庭用で使われる小型の無尽炉を持ち、蒸気発電機でモーターを回して飛ぶ。
軽合金製のフレームに布張りの機体。飛行時間は時速数十kmで30分ほど、原動付き自転車に近いものといえる。
シュラが、リオのマニューバの後ろを飛ぶと、小さくカラフルな飛行機械が飛んでいるのが見える。
一応、マニューバとレトニューバは飛ぶ高度が決められているので、接触などをすることは滅多にない。
「小さい飛行機械が沢山飛んでいるね」
『ウルトラライトプレーンだな……』
シュラの真下に広がるモザイク模様の都市の向こうに霞んで見えるのが軍管区。
広大な敷地に巨大な駆逐艦、巡航艦、戦艦が並んで浮かぶ。
その中で一際大きく威風堂々の船体を誇示しているのが皇帝御座艦の『アマノウキフネ』。
これだけの軍事力を持って、帝国は周辺国に睨みを利かせているのだが、この兵器群をもってしても敵わないのが、真種ドラゴンだ。
過去の戦闘では帝国軍が手痛い損害を出し、辛酸を嘗めている。
その巨大な軍艦が並ぶ軍管区に沿って地面に大クレーターが開いている。
これは、無尽炉を無理に解体しようとして大爆発を起こし、多大な被害を起こした跡だ。
軍属から数千人の死者と、数万の民間被災者を出した大事故であったが――そのクレーターの中にも数々の建物が並ぶ。
まだ凝りもせずに何かの研究を行っているという。
当然マニューバは飛行禁止になっているが、あんな場所に近づくやつはいないだろう。
飛行を続けたシュラたちは、街の外れの巨大なギョヨに近づく。ギョヨといっても直径が1kmほどあり、台地といったほうがいい。
先頭を飛んでいる赤いマニューバが翼を振った――着陸するようだ。
ギョヨの上には巨大な滑走路が並んでおり、沢山のマニューバが駐機しているのが見える。
巨大なギョヨだが、あるのは滑走路とそれを管理する建物だけ。一般の住居などは見当たらない。
その上空を輪を描いて飛び、着陸の順番待ちをする。慣れないことなので、シュラも緊張気味だが、なにかあってもゼロがサポートしてくれる。
ここは聖地と呼ばれている、マニューバとナイツの発祥の地だ。
この遺跡から発掘マニューバの1号機が掘り出されたというが、完全に掘り尽くされた跡地が、居住空間や店舗などに利用されている。
順番待ちしているマニューバが多いが――滑走路は広く、着陸用と離陸用に分かれているので、すぐに順番が回ってくる。
フラップを降ろして、ゆっくりと降下――そして接地した。僻地の滑走路とは違い、舗装されている立派なもの。
その滑走路には、進む方向が矢印をして示されているので、それに従いながら――タキシングで所定の場所まで移動する。
「すごーい! 舗装されている滑走路だよ! これなら脚を頑丈にしなくてもいいだろうな。雨が降っても、ぬかるまないだろうし」
『しかし維持に金が掛かるぞ。地方では無理だな』
「やっぱり、そうだよねぇ」
所定の場所に到着すると、沢山の青い自動車が働いて白い蒸気を吐き出している。
運転手も皆青いツナギを着て青い帽子を被り、マニューバを牽引して、駐機場まで運んでくれる。
牽引してくれた運転手に、シュラは声を掛けた。
「水の補給はしてくれるんですか?」
「もちろんですよ」
駐機代は1日小銀貨2枚(1万円)、水を入れるのは料金に含まれているが、その他の整備は有料だ。
僻地の駐機代は銅貨2枚(2000円)ほどなので、5倍ということになる。
また地下にも格納庫があり、長期の駐機となるとエレベーターを使って、そちらへ収納――管理される。
地下の格納庫は更に駐機代が高い。
「まぁ、これだけ立派な設備なんだから、高いのも仕方ないかな……」
『……』
機体から荷物を持って降りようとしたのだが――ゼロが黙っているので、シュラが気になったようだ。
「ゼロ? どうしたんだい?」
『シュラ、スリーオブセブンがいる。ヒエンだ』
「ヒエン? 君が気にするってことは、君の仲間?」
『そうだ』
防寒ジャケットのポケットに、昨日買った遠隔ユニットを差してマニューバから降りる。
(気温は低めなので、ジャケットを脱がなくてもいいかな)
「これを持っていれば、本体は外さなくてもいいんだよね?」
『そうだ』
そこへ、リオがやってきた。
「お~い、シュラ。どうしたんだ? 飯を食おうぜ?」
「すみません、ちょっと見たいマニューバがあるので、先に行ってもらっていいですか?」
「はっ、お前も好きだねぇ――地下にある、燦々(さんさん)亭って店にいるからな」
シュラのマニューバ好きに、リオも呆れているが、ゼロの仲間がいるのなら興味がある。
それに、小さな頃から本でしか見たことがなかった有名なマニューバに出会えるかもしれない。
ちなみにリオは、それなりの腕なのだが、本に載るほど有名ではない。
「解りました」
リオと別れて、駐機場にズラリと並ぶ数十機のマニューバを見て回る。
様々な形と色に塗られた機体。殆どが汎用型だが、工房製の特注品も並ぶ。
一箇所にこれだけのマニューバが並ぶなんてことは、僻地ではありえないことだ。
(見ているだけで楽しいや)
「そのマニューバはどれ?」
『もうちょっと先だ』
そのままシュラが歩いて行くと、並んでいる機体の間から派手な色の長い鼻が突き出ている。
その場所へ行くと――ピンク色に塗られ、黄色い星が描かれた派手なマニューバが現れた。
「こ、これはピンクカメオだ! 本で見たことがある!」
発掘マニューバの証――機体の下面には、魔砲が装備されている。
『オリジナルにはない改造が施されて、プロペラシャフトの同軸から発射するモーターカノンが装備されているな』
「うん、本に書いてあったとおりだ」
シュラたちが使っている外付けのリボルバーカノンは装弾数30発だが、機体の内部に機関砲を装備しているので、装弾数は通常より多い。
「でも、本当に君の仲間なの? 喋る感じはしないけど……」
『ヒエン! 久しぶりだな? 私のことはメモリから消えているのか?』
いきなりゼロが、ピンクの機体に向かって話かけた。
『……誰かと思ったら、ゼロかい?! 生きてたんだねぇ、やっとかめだなも、おみゃーさん、どうしてりゃーたー?』
(何語? でも、ゼロには通じてるみたいだな)
『私は目覚めてから数ヶ月だ』
『ありゃ、そうかい。あたしゃもう500年も飛んでるよ』
『マニューバの本懐を遂げているとは、素晴らしいことだ』
『でも、最近身体の調子が悪くてねぇ』
『他のユニットはどうなのだ? 誰かいるのか?』
『皇室のテンプルナイツに、ハヤテと5式がいるよ』
『ほう――いずれ会ってみないとな』
楽しそうに会話している彼等だが、気になることがあり、シュラが割り込んだ。
「あの、身体の調子が悪いって?!」
『えっ!? あたいたちの言葉が……』
『彼はシュラ。私の今のマスターだ』
「君も自己診断機能が使えるんだろう? 君と君の主人は会話できないのかい?」
『……ああ、今のマスターも先代も先々代も、あたいと会話ができるマスターはいなかったんだ。でも、先代はなんとなく察してくれていたようで、なんとかコミュニケーションがとれていたんだけど』
(一応、稀人の能力の持ち主だったのかな?)
「それじゃ、どこが悪いか俺に教えてくれれば、君の主人に教えてあげるよ」
シュラはカバンから、ノートを取り出した。
『本当かい?! それじゃ、まずは――リヒートのコンプレッサーインペラのベアリングから』
「え? ベアリングの異常なら、異音が出るはずだから、すぐに解ると思うんだけど……」
『今、世話になってる整備士が――先代からのつき合いなんだけど、代替わりしてから腕がイマイチでねぇ……』
「解った解った、発掘マニューバは特殊だからね。悪いところは全部書き出すから、言ってくれ」
『それじゃ――』
彼女から言われた不具合箇所は10を超えた。それを、ピンクの色のマニューバの操縦席に貼りつけた。
「ほら、こうやって文章にして、操縦席に置いておけば、解ってもらえるだろ。もし、本人に会ったら、俺の口からも言ってあげるよ」
『すまないねぇ……』
(なんだか、近所のおばさんと話しているみたいだ)
「いや、このままじゃ、不具合で墜ちるかもしれないからさ」
『ありがとう、感謝するよ。あたいも、マスターと話ができればいいんだけど』
「稀人じゃないと無理みたいだよ。でも何か方法はあるはずだ」
人間は、なにかと創意工夫をして、試行錯誤を繰り返し新しいことを創造するのだが、ゼロたち思考ユニットはそれをしない。
常に受け身で、過去のデータに基づく行動しかできないのだ。
ピンク色のマニューバに別れを告げると、階段を下り滑走路の下にある地下街へ向かう。
気分的には地下なのだが、ここはギョヨの中なので、正確には地下でない。
四方に走る白っぽいコンクリート製の通路。地下街というよりは防空壕といった雰囲気。
地下街には多くの店があり、賑わっているが、通路には最低限の電球しかなく薄暗い。
僻地では豊富に採れ、明かりに使われる蛍草だが、ここでは森から遠く手に入らない。
(宿屋もあるみたいだな。帝都ではホテルっていうらしいけど)
『シュラ、あったぞ。あの男が言っていた燦々(さんさん)亭だ』
地下だが、ゼロとの会話はできるようだ。
「本当だ、ここだね」
店の通路側は窓ガラスで、店内は通路よりは明かりが多いため、中の様子がよく見える。
シュラが目で追うと、端の席にリオが座っていた。店内に入ると、辺りに漂うスパイスのいい香りが、シュラを包む。
「リオ、待たせちゃったね」
「ははは、ここはマニューバが多いからな。あんなに沢山のマニューバが見れるなんてここしかない」
帝都の北側にも、ここと似たような施設があるのだが、規模が小さいらしい。
やはり、ここが聖地という事実が大きいのだろう。
樹海の街々から飛んできたマニューバは、ここに集まるのが普通だという。
「ここに来れないやつは、何か脛に傷を持っているやつってわけだ」
「そうならないように、気をつけないと」
「ははは――それはそうと、料理は頼んでしまったからな」
「お任せしますよ」
「せっかく帝都に来たんだ、少々高いがカレーにしたぜ」
「カレー……」
シュラは父親から、カレーは美味いと聞かされていた。
カレーに使うスパイスは高いし、スパイスのレシピが公開されていないので、辺境では食べる機会がまったくない。
辺境出身者には憧れの料理だ。
「リオは、何回か食べてるんだよね?」
「ああ、美味いぞ。期待してろって!」
(ああ、このスパイスの匂いが、カレーの匂いなのか。凄い食欲をそそる匂いだなぁ……父さんと一緒に食べたかったけど……)
シュラが父親との思い出に浸っていると料理がやってきた。
白い穀物に載った、茶色のドロドロした物体。話には聞いていたので、見た目のインパクトはない。
シュラがスプーンで掬うと口へ放り込んだ。
(美味しい! 色んなスパイスが重なり合って、渾然一体になってる)
「どうだ?」
「すごく美味しいですね! こんな料理は初めてだ!」
「だろ?」
喜ぶシュラに、リオも嬉しそうだ。
「リオ、帝都ってものすごく寒くなるんだろ?」
「ああ、雪なんて積もったら最悪だぜ? つるつる滑るし止まらねぇし」
「それは危ないね。防寒具ももっと厚いのが必要だな」
「そうだな。冬に飛ぶかもしれねぇから、準備しといても無駄にはならねぇ」
「軍が使ってるっていう電熱ジャケットは?」
「ありゃ、止めたほうがいいな――」
リオの話では、加熱して火傷をしたり、火災を起こしたりするという。
「空の上でそれはまずいね……」
「だろ?」
リオと2人、会話をしながらカレーを楽しんでいると、店の中が騒がしくなってきた。
「ん? 喧嘩か?」
「みたいですね」
店の奥を見ると、金髪のツインテールの女の子と髭のオッサンが言い争っている。
女の子はピンク色のジャケットを着て、大きなバックルの赤いベルトと黒いズボン。
足元は革製のブーツだ。
オッサンは使い込んだ革のジャケットとズボンを履き、首からゴーグルをぶら下げている。
頭はボサボサで野武士といった雰囲気が漂う。他に似たような恰好をしているオッサンが2人いる。
背の高い男と、背の低い太った男だ。
(3人組か――オッサン3人で、女の子に絡むなんて)
「外に、あの女の子が着ているジャケットと同じ色のマニューバが駐機してありましたよ」
「ありゃ、古の言葉でピンクって色だ」
(なんとも派手な色だよなぁ。森の花であんな色をしたのがあるけど……。それじゃ、あの子がピンクカメオ? 俺が読んでた本からすると、40歳近いはずなんだけど……)
「もう1回言ってみなさい!」
「ははは、ガキが、あんな派手なポンコツに乗ってるなんて可哀想だって言ったんだよ」
「お母さんから、もらったマニューバを馬鹿にするなんて、許せない!」
「ピンクカメオのババアは、まぁまぁだったがなぁ。娘に何も教えずに死んじまったかぁ」
「このぉ!」
少女が男に殴りかかったが、相手になるはずがない。軽くあしらわれて腕を捻り上げられた。
会話を聞いていたシュラは驚いた。
(え?! ピンクカメオって死んじゃったんだ……でも)
憧れのナイツに会えるチャンスだったのに、彼は肩を落とした。
「くそぉ! 離せぇ!」
「はは、よく見りゃ、顔はまぁまぁだな。ちょいとかわいがってやれば、おとなしくなるか? ああ?」
その光景を見ていたシュラが立ち上がった。
「どちらにつくんだ?」
「決まってるでしょ?」
――そう言った瞬間、リオがオッサンたちに殴りかかった。
「おらぁぁ!」
少女を掴んでいたオッサンは、リオの右ストレートをまともに喰らい、テーブルと椅子と一緒に、もんどり打って倒れた。
「おおっ! 喧嘩だ喧嘩だぁ!」「やれ! やれ!」
ここにいるのは殆どがナイツである。中には紳士的な者もいるのだが、基本は荒くれ者ばかりだ。
「帝都くんだりまで来て、可愛い女の子を虐めてるのか? 黒ひげのぉ」
殴って手が痛かったのか、リオが手を振っている。
「くっそ! てめぇはリオ! こんな所までやって来て、喧嘩売りやがって」
(あれ? どうやらリオの知り合いみたいだな)
「ちょっと! 誰も助けてなんて言ってないんだけど!」
ツインテールを揺らして少女が叫んだ。
「ありゃ、ちょっと訂正。全然可愛くない」
女の子の言葉を聞いて、リオのテンションは一気に下がった。
そこにシュラが、割って入った。
「皆さん、止めましょう。帝のお膝元ですよ」
「お前なぁ――喧嘩をけしかけておいて、そんなことを言うのか?」
「別に、殴りかかれとは言ってませんけど……」
リオに殴られたオッサンが、顎をさすりながら起き上がった。
「くそ! こんなガキどもに喧嘩を売られて、引き下がるわけにいくかよ!」
「そんなガキどもを、大の大人が3人がかりで虐めていたんですよ? ここで引き下がって、申し訳ございませんでしたと、頭を下げるのが大人ってもんじゃないですか?」
「舐めるなよ! このクソガキがぁ!」
倒れていた男が構えると、他の2人も戦闘態勢に入った。
それに呼応するように、リオも拳を構える。
「是非もありませんね。それでは、お互いナイツなのですから、マニューバで決着つけましょう」
「なにぃ!?」
男たちが怯んだ。それもそのはず、マニューバを壊せば、多大な修理代が掛かる上、しばらく商売ができなくなる。
機体に致命傷を負えば、マニューバが廃機になる可能性だってあるのだ。
「「「おおお~っ!」」」「やれやれぇ!」「久々の空戦だ!」
「でも、商売道具を壊すと大変ですから、ここら辺で手を打ちませんか? この女の子に謝ってもらえれば、それで済むんですよ?」
「くくく……」
一瞬折れそうになったオッサンたちを、観客が煽る。
「お前等、まさかこんなガキどもに空戦を売られて、逃げないよな?」
「そうだ! そうだ!」「帝都に来る度に言われるぜぇ? ガキに喧嘩売られて尻尾巻いて逃げたってよぉ」
「くくく……」
観客は面白ければいいので無責任だ。どんなに煽っても自分たちに被害はないのだから。
「やれやれ……どうするんだ? 黒ひげのぉ?」
呆れたように、リオがオッサンたちに確認をする。
「くくく――くそぉ! やってやらぁ!!」
「ちょっと本気ですか?」
シュラの言葉が、さらにオッサンの感情に火を点けた。
「ここまでコケにされて、樹海に帰れるかってんだ!」
「ちょっとぉ! 私の喧嘩なのに、余計なことをしないで!」
ツインテールの女の子が割って入ってきたのだが、シュラが彼女に正す。
「君のマニューバは、ピンク色の機体だろ?」
「それがなに?!」
「かなり調子悪いんじゃないのか?」
「なんで、それを知ってるの?!」
「彼女から聞いたからさ」
「聞いた……? 何を言ってるの?」
それを聞いた女の子は――母親が、いつも笑いながら言っていた台詞を思い出した。
(確かにお母さんも、「彼女が全部、教えてくれるのよ」と言ってたけど……)
「君の機体の悪いところを全部、書き出して操縦席に貼っておいた。それを参考にして早めに直したほうがいい」
「余計なお世話!」
「俺のマニューバも発掘マニューバなんだ。あの機体は、かなり特殊なんだよ。普通の整備士じゃ直せない」
「……」
リオがもう一度、オッサンたちに問う。
「それで? 本当にやるのか?」
「たりめぇだ!! ここまできて引き下がれるか!」
彼等にも意地がある。
「「「おおお~っ!」」」
盛り上がる野次馬を見て、シュラはちょっと後悔した。
(もうちょっと、他の言い方があったかなぁ――でも殴り合いじゃかないっこないし)
「シュラ――お前、意外と性格悪いよな」
「けど、丸く収まる寸前でしたよ。野次馬に邪魔されちゃいましたけど」
「あいつら、面白けりゃなんでもいいからな」
リオがため息をつく。
「でも、リオはどうするの? 俺が言い出したことだから、受ける必要はないけど」
「おいおい、ここまでやって、仲間外れか? そりゃないぜ?」
(はは、あのひげのオッサンには、くだらねぇ因縁があるからな。ここら辺で綺麗サッパリさせてもらえば、今日から美味い酒が飲めるってもんだ)
リオにはリオの思惑があるのだ。
避けられず、空戦をやることになってしまった。
ルールは簡単。土俵は直径1kmのこのギョヨの上だけ。市街地での発砲は禁止。
セラミック製の砲弾が一発でも当たったら、即負け。
お互いに墜落まですると、大損害になってしまう。
簡単なルールだが、当たりところが悪ければ危険なことには代わりはない――例えば、操舵系のワイヤーなどを切断されれば、操縦不能に陥る。
「私も――!」
そう言い出した少女を、シュラが制した。
「あのマニューバの状態じゃ、空戦は無理だよ。飛ぶのがやっとだろ?」
「うぐ……」
シュラに核心を突かれて、少女は下を向いて黙ってしまった。
機体の調子が悪いのは彼女も理解しているし、無理をすれば、母親から受け継いだマニューバを失ってしまう。
滑走路の真ん中に駐機する赤白のマニューバに対抗するのは、青と黒白、三色の機体。
青いマニューバが黒ひげのオッサンが乗っている機体だ。
墜落などに巻き込まれるのを防ぐために、駐機してあったマニューバは、空中へ退避した。
誰もいなくなった、だだっ広い滑走路の上――シュラたちと、ケンカ相手のオッサンたちが対峙した。





