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Episode 46:前編

Episode 46:前編


「ハイゲイトの薄霧と、眠れる相棒の墓標(J-O-H-N)」

隠れた名所への迷い込み

ヤードの非番の日。ハート刑事の運転するクラシックカーが、ひょんなことから迷い込んだのは、ロンドン北部に位置する静寂の森だった。


そこは、都会の喧騒から隔絶された穴場の観光地であり、世界中のファンが密かに足を運ぶ「ハイゲイト墓地(Highgate Cemetery)」。


ヴィクトリア朝の壮麗なゴシック様式の墓碑が、生い茂るツタや巨木と一体化し、まるで時間が凍りついたかのような神秘的な美しさを湛えている。


「あら、素敵なところねホームズ。道に迷っちゃったけど、ここ、コナン・ドイルが『ジョン・ワトソン博士』のモデルにしたお医者様たちが眠る、歴史的な聖地(ハイゲイト墓地)だわ!」


ハート刑事は、ヤードの文学データベース(写真記憶)を呼び出し、目を輝かせる。


一方、ポケット・ビーグルの肉体に閉じ込められた本物のシャーロック・ホームズは、その言葉を聞いた瞬間、全身の毛を逆立たせて硬直した。


(ハ、ハイゲイト墓地……! バカな、なぜここへ行き着いた!? ここには、物語のモデルどころではない。私の生涯唯一の、そして最高の相棒であった本物の『ジョン・H・ワトソン』が眠っているはずの場所だ……!)


墓標の前の名探偵

「ワン、ワン……(ジョン……君は本当に、ここに眠っているのか……?)」


ホームズはハート刑事の腕からすり抜けると、何かに導かれるように、苔むした古い墓石の間をトコトコと走り抜けた。


ヴィクトリア朝の面影を残す、東墓地の静かな一角。そこには、19世紀のあの懐かしい、煤けたベーカー街の匂いがかすかに残っている気がした。


コナン・ドイルがワトソンのモデルとした実在の医師、クリスーン・ラモンやウィリアム・スミス・プレフェア博士たちの記録。


それらが重なる歴史の地層の底に、本物の「ジョン・H・ワトソン博士」の魂もまた、静かにロンドンの土に還っているのだ。


ホームズは、一つの古びた石碑の前に座り込んだ。

言葉を失い、ビーグル犬の姿になっても、胸に去来するワトソンとの冒険の記憶は鮮明に蘇る。

思わず、彼の目からポロリと一滴の涙がこぼれ落ちそうになった、その時――。


クンクン。

名探偵の鼻が、墓石の裏から漂う不穏な「ニトロ(爆薬)」の臭いと、冷たい「白猫の毛の気配」を察知した。


(……モリアーティ! 奴の呪いの残滓か、あるいは残党の仕業か! 聖なるワトソンの墓を包囲するように、遠隔起動式の指向性地雷クレイモアが仕掛けられている! 奴らは、私がここを訪れることすら予測していたというのか!?)


ハート刑事の「ジョン(JOHN)超翻訳」

ホームズは、悲しみに浸る時間を強制的に打ち切り、地面に積もった枯れ葉を素早く前足でかき分けた。そして、いつも持ち歩いているアルファベットブロックを、墓標の前に必死の思いで4つ並べた。


[ J - O - H - N ](ジョン / 相棒の名)


墓碑の碑文を熱心にメモしていたハート刑事が、そのブロックを対面(逆さま)からスキャンする。


「『N』『H』『O』『J』……ヌホジュ。ヌホジュ……。……あーーーーっ!」


ハート刑事のポニーテールが、墓地の冷たい霧を切り裂くように激しく跳ね上がる。


「分かったわ、ホームズ! これは、ワトソン博士の魂が今、墓地全体の**『ネオ・ハイパー・隠密地蔵(NHOJ)』**となって、私たちに背後から迫る危機を教えてくれてるっていう、心霊・防衛コマンドね!?」


(なぜだぁぁぁーーー!! 偉大なる元軍医の相棒を、なぜ東洋のサイバーな地蔵スタチューにトランスフォームさせるんだ!! 普通に『JOHNジョン』と読みたまえ!!)


「確かにさっき、ヤードの不審電波ログ(写真記憶)で『ハイゲイト墓地周辺に不審な指向性レーダーあり』って書いてあったわ! よし、ワトソン博士の『ヌホジュ・パワー』を借りて、墓地を脅かす悪党をノーリミッツに粉砕よ!」


(違う! 心霊現象ではない! ……いや、待て。ハート君の言っている『指向性レーダーの座標』……それは、地雷の信管を制御している遠隔トリガーの電波塔の位置だ。奴らはこの墓地の地下深く、ヴィクトリア朝の古い排水溝に潜んでスイッチを狙っている……! ハート君、君の心霊オカルト翻訳は全宗教界が震撼するレベルだが、敵の『潜伏座標』の特定だけは、やはり世界一の名探偵(私)と完全に一致している!)


墓地を包む、開戦の鐘

ゴォォォォン……。

ハイゲイト墓地に、夕刻を告げる古い鐘の音が響き渡る。それと同時に、排水溝の奥で「ピピッ」と地雷の起動電子音が鳴り響いた。


(フッ……。ジョン。君の眠るこの美しい庭を、悪党どもの火薬で汚させはしない。言葉は届かなくとも、今の私には、君に負けないほど頑固で頼もしい、新しい相棒(ハート君)がついているからね)


「ワン!」と、霧深きハイゲイトの森に響き渡る、世界一知的な生の声が一鳴き。

眠れる相棒への誓いと、墓地を揺るがす大危機へ向けて、凸凹バディの聖なる戦いが幕を開ける!

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