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Episode 45:前編

Episode 45:前編


「乳母の来訪と、のどかなテラスハウスの危機(N-U-R-S)」


平凡な休日の昼下がり

ロンドン郊外、白い壁が美しく並ぶ平凡なテラスハウス。

ハート刑事と、ポケット・ビーグル犬の肉体に19世紀の脳細胞を宿す名探偵ホームズは、事件のない穏やかな休日を過ごしていた。


「あー、やっぱり休日のテラスハウスは最高ね! ホームズ、パパの農場から送られてきた最高級の紅茶、淹れたてよ」


ハート刑事がリビングでくつろいでいると、小気味よいノックの音が響いた。

ドアを開けるとそこに立っていたのは、ハート刑事が幼い頃に彼女を厳しく、そして深い愛で育て上げた田舎の乳母ナース、クララだった。


「おぉ、ハナコお嬢様! 都会で立派な刑事になられたと聞いて、おばあちゃん、居ても立ってもいられずに田舎から出てきましたよ!」


クララは年老いてはいるが、背筋がピンと伸び、両手には田舎の特産品である「超重量級の巨大バター塊」が入った木箱を抱えていた。


(……ふむ、彼女がハート君の乳母か。あの規格外の脚力と破天荒な性格がどのように形成されたのか、プロファイリングの絶好の機会だな)


ホームズはソファの上から、トコトコと挨拶代わりに近づいて「クゥン」と鳴いた。


乳母の愛と、名探偵の見落とし

「あら! なんて可愛らしいビーグル犬かしら! お嬢様、この子におやつをあげても?」


クララはそう言うと、持参した木箱から、おもむろにバターの塊を豪快にナイフで削り取り、ホームズの前に差し出した。


(……待ってくれ、クララ。私は中身は紳士(名探偵)だ。そんな高カロリーで脂っこい生のバターをそのまま差し出されても――)


ハァハァ……。

しかし、ビーグル犬の「野生の肉体」は、その濃厚な香りに抗えなかった。ホームズの口元から、だらりとよだれが滴り落ちる。ガジェットを没収されている今、彼は自らの高潔な理性を言葉で伝えることができない。


「まぁ、よだれを垂らして喜んでるわ! かわいいこと」


(違う! 私は今、理性と本能の限界バトルを繰り広げているんだ!)


だが、ホームズの鋭い嗅覚は、バターの香りの奥から、もうひとつ別の**「焦げ臭いニオイ」**を感知した。


窓の外、テラスハウスの共通庭バックヤード。隣の空き家の物置の影から、不審なドローンがこちらの駆動音を殺しながら、リビングの様子をカメラで盗撮しているのが見えたのだ。


(……しまりす(密猟団)の残党か? いや、あのドローンのアタッチメント、あれはただのカメラではない。遠隔からこの部屋のスマート家電をハッキングし、ガスコンロの安全装置を解除して点火する『電子放火デバイス』だ。奴らの狙いは、ハート財閥の令嬢ハナコの抹殺か!)


ハート刑事の「乳母(NURS)超翻訳」

ホームズは、すぐさま背後のテーブルに飛び乗ると、床に広がっていた新聞紙の隅に、散らばるアルファベットブロックを必死の思いで4つ並べた。


[ N - U - R - S ](ナース / 乳母)

キッチンから戻ってきたハート刑事が、そのブロックを対面(逆さま)からスキャンする。


「『S』『R』『U』『N』……スラン! 猛ダッシュ(スプリンター)! ……あーーーーっ!」


ハート刑事のポニーテールが、ロンドンののどかな風を切り裂くように激しく揺れる。


「分かったわ、ホームズ! あなた、田舎から来たクララが、実は国際的な**『超高速・爆弾魔スプリンター(SRUN)』**に変装した刺客だって言いたいのね!?」


(なぜだぁぁぁーーー!! 故郷の愛の象徴である乳母ちゃんを、なぜ唐突にギネス級のアスリートテロリストに仕立て上げるんだ!! 普通に『NURSE(乳母)』の略と読みたまえ!!)


「確かにさっき、ヤードの指名手配ログ(写真記憶)で『老装の爆弾魔に注意』って書いてあったわ! よし、クララ乳母ちゃんの化けの皮を剥がすために、今すぐリビングごとノーリミッツに突撃よ!」


(違う! 乳母ちゃんは本物だ! 変装ではない! ……いや、待て。ハート君の言っている『指名手配犯のログ』……その犯人が使う手口こそ、まさに今、外のドローンが仕掛けている『遠隔電子放火』のプロトコルだ。奴らは乳母ちゃんの来訪で我々が油断している隙を狙ったんだ……! ハート君、君の身内泥仕合妄想は親不孝の極みだが、敵の手口プロトコルの特定だけは、やはり世界一の名探偵(私)と完全に一致している!)


暴走するスマート家電

ピピッ、ピピピピ……!

次の瞬間、テラスハウスのシステム音声が不穏に鳴り響いた。


「警告:キッチンコンロの温度が異常上昇しています。システムロックを強制解除」


ハッキングドローンの電波によって、リビングのスマート家電が一斉に暴走を始めた。室内の温度が急上昇し、電子ロックされたドアがガチリと閉まる。


(フッ……。現代技術を悪用した放火工作か。だが、この平凡なテラスハウスには、世界一の頭脳と、その頭脳を物理的に具現化する世界一の脚力がいることを忘れてもらっては困るな)


「ワン!」と、リビングに響き渡る凛々しい生の声。

バターの香る平和な休日は一転、最新電脳放火魔へ向けて、凸凹バディの迎撃作戦が幕を開ける!

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