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Episode 41:前編

Episode 41:前編


「盲導犬の目撃犬(E-Y-E-S)――ヤードに届いた静かなる足音」

閉ざされた視界と、ヤードに響く足音

ロンドンの街に冷たい夏の雨が降り注ぐ平日の午後。

スコットランドヤード広報課のオフィスに、いつもの喧騒とは異なる、静かで規則正しい足音が近づいてきた。


「失礼します。こちらで、引ったくり事件の相談を受付ていると聞いたのですが……」


入ってきたのは、白いホワイトケーンを携えた盲目の紳士、アーサー・グレイ氏だった。そして彼の傍らには、雨に濡れた体を小さく震わせながらも、主人の足元にピタリと寄り添う一匹の誇り高きラブラドール・レトリバーの盲導犬「マックス」の姿があった。


「皆さん、お部屋へどうぞ! すぐに温かい紅茶を淹れるわね」


ハナコ・ハート刑事は、シリアスな警察官の表情で、二人を優しくデスクへと案内した。


アーサー氏は静かな声で、数時間前にピカデリー・サーカスの路地裏で起きた悲劇を語り始めた。


「背後から突然、バイクに乗った何者かに、大切な書類が入ったアタッシュケースを引ったくられたのです。私には犯人の顔も、バイクのナンバーも見えません。ただ……犯人は去り際に、私の耳元でフッと『冷たい猫の喉鳴り』のような音を響かせたのです」


(……猫の喉鳴りだと? 間違いない、白猫の息がかかった電脳引ったくりグループ(シャドウ・ランナーズ)の手口だ。奴らの狙いはアーサー氏のケースではなく、彼が勤務する王立研究所の次世代セキュリティデータだな)


ポケット・ビーグルのホームズは、デスクの上から床に座るラブラドールのマックスへと鋭い視線を走らせた。マックスの瞳は虚ろではない。

むしろ、主人の目代わりとして、犯人の「ある決定的な特徴」を完璧に記憶ロックオンしている、確かな光を宿していた。


ホームズのブロック配列と、バーバラの「素直な五感解読」


(ハート君、バーバラ君。人間の目は犯人を見ていないが、大英帝国の誇り高き盲導犬(マックス君)の網膜には、犯人のバイクの軌道と、衣服に付着していた特殊な染料の色彩が100%『目撃データ』として記録されている。この犬の記憶シグナルをヤードのデータベースと同期リンクさせるぞ!)


ホームズはデスクの上のアルファベットブロックを4つ、前足で完璧な直線状に並べ替えた。


[ E - Y - E - S ](アイズ / 瞳・目撃者)

「ホームズ様、私、マックスちゃんの足元を見ていて気づいたべ!」


お茶を運んできたバーバラが、素直で曇りのない視線で、マックスのハーネス(胴輪)のバックルを指差した。


「マックスちゃんのハーネスの金具、さっきから特定のテンポでアーサーさんの靴にカチカチと当たっているべ。これ、犬が主人に危険を知らせるための『ヤード式・足元モールス信号(EYES)』だべ! マックスちゃんは、自分が見た犯人の逃走ルート(座標)を、アーサーさんの五感を通じて私たちに伝えようとしてるべ!」


(素晴らしいぞ、バーバラ君! 君の素直な五感の読み解きは、私のロジックと完全に一致している! 『E-Y-E-S』とは、盲導犬の瞳が捉えた、人間には見えない『光の足跡』のことだ!)


ハート刑事は、デスクに並んだ4つの文字を静かに見つめ、トレンチコートの襟を正した。


「……なるほど。アイズ(EYES)。犯人は『見えない被害者』を選んだつもりでしょうけど、大英帝国の盲導犬の『瞳』と、その絆を完全に舐めていたわね。バーバラちゃんの言う通り、マックスちゃんの足音のテンポから、犯人が逃げ走った『東部地区の廃化学工場』の座標が完全に逆算できるわ!」


「そういうことだべ、ハナコ姉様!」


バーバラが素直にホームズのロジックをノートにトレースする。

「犬の記憶が消去オーバーライトされる前に、現行犯でチェックメイトするべ!」


バディ、雨のロンドンへテイクオフ

(ハート君、バーバラ君、そしてマックス君。主人の涙を裏切った卑劣な詐欺師ランナーどもに、名探偵の論理の牙の味を教えてやるぞ)


「ワン!」

ホームズの鋭い一鳴きに、ハート刑事がルブタン・スニーカーの真っ赤なソールをカチリと床に響かせ、パトカーのキーを掴んだ。


「行くわよ、ホームズ、バーバラちゃん! アーサーさんとマックスちゃんの大切な絆を、白猫の闇からノーリミッツに奪還するわよ!」


「おうだべ!」とバーバラも力強く拳を握る。

ハート刑事の大ボケを完全に封印し、盲導犬の「静かなる目撃」を素直に受け止めた3人は、雨の霧を切り裂き、犯人の潜む隠れ家へと向かって猛スピードでヤードを飛び出した。


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