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Episode 40:後編

Episode 40:後編


「1万の瞳の終局(W-A-T-C-H)――曇天のチェックメイト」

高空のチェス盤、メインクーンとの対峙


「フシャァァァーーーーッ!!」

高さ50メートルの繊維工場煙突、その最上部に巡らされた幅わずか30センチのキャットウォーク。

激しいビル風が吹き荒れる高空で、小さなポケット・ビーグルのホームズは、四肢でしっかりと鉄格子を踏みしめ、巨大な長毛のメインクーン(ボス猫)と対峙していた。


ボス猫の背後では、古い気象観測用アンテナが妖しく緑色の光を放ち、ロンドン中の「キャットウォークの監視人(1万匹の野良猫)」から送られてくる膨大な生体データを一括処理し続けている。


地上では、バーバラがストップウォッチを握りしめ、素直で曇りのない瞳で上空を見上げていた。

「ハナコ姉様、ホームズ様がキャットウォークに着地したべ! でも、蒸気の目潰し(ジャミング)のタイムリミットまであと**【5秒】**だべ! 5秒を過ぎたら、メインクーンの網膜が再スキャンを開始して、ホームズ様の現在地が白猫のメインサーバーへ筒抜けになっちゃうべ!」


「大丈夫よ、バーバラちゃん! ホームズのロジックは、あのボスの『王手(王の動き)』を完全に先読みしているわ!」


ハート刑事はルブタン・スニーカーの真っ赤なソールを地面に深く踏み込み、いつでも次のサポートへ動けるよう、全身の神経をノーリミッツに研ぎ澄ませていた。


バーバラのタイムライン計算と、逆転の1手

(フッ……。強風が吹き荒れるこの高所、犬の私にとっては圧倒的に不利な盤面に見えるだろう、モリアーティ。だが、バーバラ君が最初にプロットしてくれた『防犯カメラの死角データ(グリッド)』……これこそが、この鉄の檻をブチ破る最後の鍵だ!)


「ワン! ワンッ!」

ホームズの鋭い吠え声が風に乗り、地上の二人の耳へと届く。


「ハナコ姉様、ホームズ様が言ってるべ! 『W-A-T-C-H』の5文字の本当の意味は、監視ウオッチだけじゃないべ。時計ウオッチの針が12時を指すその瞬間――太陽の光が、この煙突の真上から差し込む【12秒間】だけ、猫たちの網膜(顔認識AI)のレンズが逆光で完全にフレア(ホワイトアウト)を起こすべ!」


(その通りだ、バーバラ君! 白猫の完璧なシステムは、12時ジャストの自然光の角度計算を『ノイズ』として除外していた。だが、今がその12時ちょうどだ!)


時計塔の針が正午を告げた瞬間、曇天の隙間から強烈な夏の太陽光が、煙突の真上から垂直に一閃、差し込んだ。


「ニャ、ニャーーーーン!?」

逆光の直撃を受けたメインクーンの瞳孔が急激に収縮し、一瞬だけ完全に視界を失ってよろめいた。


美しき高空のチェックメイト

(そこだ! 1万の瞳のマスター・ハブ、ここで完全シャットダウンだ!)


ホームズはキャットウォークを矢のように駆け抜けると、メインクーンの足元をすり抜け、アンテナの根元に設置されていた「電脳中継デバイス」の同軸ケーブルへと迷いなく牙を突き立てた!

バリバリバリッ!!!


「フギャァァァーーーッ!?」

高空に激しい火花が散り、アンテナの緑色の光が完全に消灯した。

それと同時に、ロンドン中の屋根の縁、防犯カメラの上、街路樹の枝に散らばっていた1万匹の野良猫たちの瞳から「生体同期シグナル」が完全に消失。猫たちはただの気ままな野良猫に戻り、思い思いにあくびをしながらキャットウォークから路地裏へと解散していった。


バランスを崩したメインクーンは、換気ダクトの中へと滑り落ちるようにして、煙突の闇の奥へと逃げ延びていった。


檻の晴れた空に

「やったべーーーっ! ロンドンの空の全方位監視、完全解除だべ!」


地上でバーバラがノートを放り投げて大喜びし、ハート刑事もランチャーを置いて誇らしげに胸を張った。


「見事な終局チェックメイトね、ホームズ、バーバラちゃん! 私たちの正義のタイムラインの勝ちよ!」


煙突のキャットウォークの上で、ホームズはヤードのレスキューネット(ハート刑事がノーリミッツな脚力で広げたもの)に向かって軽やかにダイブし、安全に地上へと生還した。


ふと、繊維工場の古い鉄門の影に、西日に向かって静かに歩き去る「一匹の白猫」の後ろ姿が見えた気がした。


奴は、自慢の1万の瞳のパノプティコンが、自然の光の針と名探偵のロジック、そして人間の素直な構造分析によって完璧に打ち破られたことを悟り、フッと満足そうに尾を揺らすと、街の雑雑とした影の中へと溶けるように消え去っていった。


(モリアーティ……。どれほど頭上から民衆を見下ろそうとも、地を這う我々の『正義の足跡タイムライン』を消し去ることはできん。今回も、私の勝ちだ)


「ワン!」

霧と監視の晴れたロンドンの空に向かって、世界一知的な小さきポケット・ビーグルが、勝利の声を高くハミングさせた。バーバラの素直な知性と3人の完璧なチームワークで大英帝国のプライバシーを死守した凸凹バディの絆は、どんな監視網よりも強固に、そして美しくロンドンの街に刻まれるのだった。

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