Episode 39:後編
Episode 39:後編
「路地裏のチェックメイト(C-A-T-S)――消えた1万缶の終局」
迷宮の最深部、白き影との対峙
バチバチと火花を散らす配電盤を背に、ホームズとワトソン率いる犬軍団は、下水道の最深部にある巨大な地下貯水施設へと突入した。
そこには、奪われた「最高級キャットフード1万缶」が、まるで古代のピラミッドのように整然と積み上げられていた。そして、その山の頂点、特製のベルベットクッションの上には、薄暗い空間でも一際白く輝く、あのオッドアイの白猫が静かに座っていた。
「フゥー……」
白猫は喉を鳴らし、前足の肉球で1缶のキャットフードを転がした。その周囲には、まだ戦意を失っていない数十匹の精鋭黒猫たちが、低い姿勢で犬たちを威嚇している。
(モリアーティ……。1万缶のフードを餌に、ロンドンの地下通信網(肉球グリッド)を掌握しようという計画もここまでだ。ワトソン君の戦術の前に、貴様の猫軍団の陣形は完全に崩壊したぞ)
「ワン!」と、ホームズの横でシェットランド・シープドッグのワトソンが力強く吠え、周囲の野良犬たちがフードの山を完全に包囲した。
その頃、スコットランドヤードのオフィスでは、ハナコ・ハート刑事が
「うーん、広報用のポスターのデザイン、どうしようかしら」
と、パソコンの画面を眺めながら完全にのんびりとした時間を過ごしていた。
勃発している「大英帝国の覇権をかけた電脳・肉球組織戦」のことなど、彼女は1ミリも知る由がなかった。
ワトソンの「ファイナル・ドライブ」と白猫の誤算
(モリアーティ、貴様は猫の俊敏性と数の暴力(C-A-T-S)を過信しすぎたな。犬たちの『規律』と、ワトソン君が統率するヤード仕込みの包備網は、貴様の電脳ハッキングすら物理的に圧殺する!)
「ワン! ウォン!(ブルドッグ隊、前進だ! フードの山の土台を崩して、奴らの足場をノーリミッツに奪うんだ!)」
ワトソンの鋭い号令とともに、重量級のブルドッグたちが一斉にキャットフードの山へと体当たりを敢行した。
ガラガラガラガシャーーーン!!!
凄まじい金属音とともに、完璧に積み上げられていた1万缶のピラミッドが崩壊を始める。足場を失った黒猫たちが次々と水路へと落ちていき、戦意を喪失して逃げ出していった。
「ニャ、ニャーーーーン!?」
完璧だったはずの『肉球グリッド』が、犬たちの物理的なパワーによって完全に粉砕されていく。
白猫はクッションから飛び退くと、崩れ落ちるフードの缶を器用に踏み台にしながら、下水道の天井にある換気ダクトへと驚異的な跳躍力で逃げ延びた。
ダクトの縁に捕まった白猫は、悔しそうにオッドアイを光らせ、ホームズとワトソンを睨みつけた。
だが、その瞳には「見事なロジックだった」と、ライバルを称えるような不敵な光も混ざっていた。
フッ、と一鳴きすると、白猫は暗いダクトの奥へと姿を消した。
地上の平穏、名探偵の報酬
翌朝、ロンドン東部のペット流通倉庫には、ヤードの大型トラックによって1万缶のキャットフードが何事もなかったかのように返還されていた。
人間の警察官たちは「いやあ、やっぱりシステムのエラーで、ただの在庫データの反映遅れだったんだな!」と胸を撫で下ろしていた。
「あ、おかえりホームズ、ワトソンちゃん! どこに行ってたの? はい、ミルクよ」
広報課のオフィスに戻ったホームズたちを、ハート刑事が笑顔で迎えた。
(ふむ……。相変わらず平和(大ボケ)だな。まあ、モリアーティの電脳ネットワークを未然に防げたのだ、今回はこれでよしとしよう)
ホームズはワトソンと顔を見合わせると、差し出されたミルクを上品に舐め始めた。
人間には見えないロンドンの裏舞台で、犬たちの組織力と名探偵のロジックが、またしても大英帝国の平和を完璧に守り抜いたのである。
「ワン!」と、窓の外の晴れ渡ったロンドンの空に向かって、凸凹バディ(犬オンリー)の誇り高き声が一鳴き響き渡るのだった。




