Episode 39:中編
Episode 39:中編
「地下道の肉球グリッド(C-A-T-S)――ワトソンの咆哮と迷宮のキャット・ウォーク」
ビクトリア・トンネルの闇と、猫たちの眼光
「ワン!(ホームズ、この先の古いレンガの臭いの奥……尋常じゃない数のキャットフードのオイル臭がするよ!)」
シェットランド・シープドッグのワトソンが、暗い地下下水道の分岐点でピタリと足を止め、低く唸った。
彼の優れた警察犬としての嗅覚が、闇の奥に潜む「1万缶」のありかを完全にハザード・マップとして捉えていた。
(ふむ。やはりここか。白猫は、この迷宮のような地下道にフードを運び込み、ロンドン中の野良猫を餌で手懐けて、ひとつの巨大な『生体通信回線(肉球グリッド)』を構築しているな)
ホームズが暗闇を見据えると、トンネルの天井を走る配管の上、そして崩れかけたレンガの隙間から、暗闇に怪しく光る無数の「猫の目」が一斉にこちらを見下ろした。
それは、白猫の命令を忠実に実行する、統率された猫軍団の精鋭たちだった。
ヤードのオフィスでは、ハナコ・ハート刑事が
「あら、ホームズとワトソン、どこへ行ったのかしら? お散歩にしては長いのねえ」
と、紅茶をおかわりしながら優雅に首を傾げている頃――地下深くでは、人間には見えない1手先を読むチェスのような包囲戦が始まっていた。
ワトソンの「戦術誘導」
(猫どもめ、上空からの奇襲を狙っているな。ワトソン君、あの配管の構造を見るんだ。アルファベットブロックの『C-A-T-S』は、ただの単語ではない。奴らの攻撃陣形の頭文字だ!)
「ワン!(分かっているよ、ホームズ! 奴らは
『C=天井(Ceiling)』
『A=奇襲(Ambush)』
『T=戦術(Tactics)』
『S=一斉(Storm)』
の陣形だ! だが、警察犬の包囲網を甘く見るなよ!)」
ワトソンは鋭い知性でホームズのロジックを100%理解すると、後ろに控える野良犬・警察犬の混成部隊に向かって、異なる周波数の吠え声を次々と放った。
「ウォン! ウーーン!(ブルドッグ隊は配管の支柱をホールド! テリア隊は左右の退路をカット! ジャックラッセル隊は前方のフードの山へ突撃だ!)」
犬たちの統率されたフォーメーションが、闇の中で一進一退のスクラムを組む。
天井から音もなく飛び降りてくる猫軍団に対し、ワトソン率いる犬たちは、決して深追いせず、訓練された「肉体の壁」を作って、猫たちの俊敏な動きを確実に狭い地下道へと追い詰めていく(ジャミング)。
分岐点の王手
「フシャーーーーッ!!」
猫軍団の幹部である巨大な黒猫が、配電盤の上からワトソンめがけて鋭い爪を突き立てた。だが、その背後から電光石火のスピードで飛び出したのは、小さなポケット・ビーグルだった。
(そこだ! 貴様たちの通信のハブ(結節点)は、その配電盤の裏のスクラップだ!)
ホームズは黒猫の攻撃を低空潜り(ダック)で鮮やかにかわすと、配電盤のメイン同軸ケーブルへと一撃の噛みつきを食らわせた!
バチバチバチッ!
「ニャ、ニャーーーーン!?」
地下道に張り巡らされていた、猫たちの肉球による電脳ネットワークのシグナルが、一瞬にして完全に遮断される。統率を失った猫たちは、パニックを起こして四散し始めた。
「ワン!(ホームズ、やったね! 奴らの補給基地(本陣)へ続く最後のシャッターが、電力ダウンで開いたよ!)」
ワトソンが誇らしげに尾を振る。
(よし、行くぞワトソン君、そして諸君! この迷宮の最深部で待つ、あの白き影にチェックメイトをかける時間だ!)
犬たちの咆哮が、地下道の奥深くへと力強く響き渡るのだった。




