Episode 39:前編
Episode 39:前編
「キャット・フード・ハイスト(C-A-T-S)――消えた倉庫と裏通りの同盟」
霧に消えた「百万缶」の謎
ロンドン東部のドック地帯にそびえ立つ、巨大な国際ペット流通倉庫。
その極秘エリアから、一夜にして**「最高級キャットフード約1万缶」**が、忽然と姿を消すという怪事件が発生した。
倉庫の強固な電子ロックは無傷。監視カメラには、深夜に一瞬だけ白いノイズが走ったこと以外、不審な人影もトラックの出入りも一切記録されていない。ヤードの捜査官たちが首を傾げ、完全にお手上げ状態となる中、ポケット・ビーグルのホームズだけは、コンクリートの床に残された「極小の痕跡」を見逃さなかった。
(……ふむ。泥棒の靴跡もタイヤ痕もないが、棚の最下段に微かな、しかし無数の『爪の引っ掻き傷』。そして空気中に残留する、あの忌まわしい白猫のペルシャ絨毯のような香水の匂い……。間違いない。奴がロンドン中の野良猫たちを裏でハッキングし、統率された**『猫軍団』**を結成したな)
人間の警察官たち(もちろん、広報課のハナコ・ハート刑事も含む)は、「キャットフードの大量紛失なんて、ただの発注ミスか管理不足よ」と高を括り、ヤードのデスクで呑気に書類整理に追われていた。
だが、ホームズは知っていた。これは単なる窃盗ではない。1万缶のフードを兵糧(軍資金)としてロンドンの闇社会の猫たちを支配し、電脳ネットワークを物理的に繋ぐ「肉球型キャットネット」を構築しようとする、モリアーティの恐るべき新計画の幕開けなのだ。
(人間の捜査能力では、路地裏の『猫の集会』には潜入できん。……ならば、こちらも相応の組織で対抗するまでだ)
ホームズのブロック配列と、「野良犬同盟」の結成
ホームズはヤードの裏庭の犬小屋の影で、密かに集めておいたアルファベットブロックを4つ、素早く前足で並べ替えた。
[ C - A - T - S ](キャッツ / 猫ども)
(ワトソン君! 白猫がロンドンの地下道を拠点に、100万缶のフードを配給して『猫の帝国』を築こうとしている。我々もヤードの枠を飛び越え、ロンドンの全『野良犬・警察犬ネットワーク』を統合し、奴らの補給路を断つ!)
「ワン! ワンワンッ!」
ホームズの呼びかけに応えたのは、ヤードのベテラン警察犬であり、彼の最も信頼できる相棒であるシェットランド・シープドッグの**「ワトソン」**だった。
ワトソンは鋭い知性と警察犬としての高い統率力を活かし、瞬く間にベーカー街周辺の野良犬、ブルドッグ、テリアたちを路地裏へと非常招集した。
いつもならここでハート刑事の「超翻訳」が入るはずだったが、彼女は今、ヤードのオフィスで「今日のランチは何にしようかしら」と、事件に1ミリも気づかぬまま完全に蚊帳の外(出番なし)であった。
「ワン!(ホームズ、ロンドン東部から南部までの全犬種、計300匹の無線が繋がったよ!)」
ワトソンが耳をピンと立てて報告する。
(よし。今回のパズル(C-A-T-S)の読み解きは、私と君たちだけで執行する。白猫の配給基地は、あの倉庫から地下の古いレンガ製の下水道を伝って、ロンドン橋の真下へ移動しているはずだ。行くぞ、野良犬組織の諸君! 猫どもの肉球を包囲するんだ!)
路地裏のドッグ・ウォー(犬たちの進軍)
「ウォン!!」
ホームズの鋭い号令とともに、ハンチング帽を被った小さなポケット・ビーグルを先頭に、ワトソン率いる精鋭の犬軍団が、ロンドンの霧深い路地裏を一斉に駆け出した。
ハート刑事のパトカーも、ルブタンのヒールキックもない。
頼れるのは、犬たちの研ぎ澄まされた嗅覚と、ワトソンが統率する圧倒的なチームワーク、そしてホームズの冷徹な論理のみ。
ロンドンの地下深く、1万缶のキャットフードを巡る「犬対猫」の、人間には決して見えない電脳・肉体組織戦が、今まさに暗闇の中で静かに幕を開ける!




